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フリーランスだから安く頼めるよねは本当なのか

なんとなくだけどあるらしい。働き方が変わって会社と個人の関係性も更新されていく時代だけど。

同じ仕事を発注しても、発注先が「会社」「個人」のフリーランスかによって金額のラインが変わってくる問題。

「予算ないから誰か個人で安くやってくれる人に頼めばいいんじゃない」

こういう話はフリーランス界隈ではよく耳に入ってくる。なんとなく、ちゃんとした会社(法人)に頼む場合はある程度、金額が高くなっても仕方ないけど個人のフリーランスに頼むのなら安くできるんじゃない? というやつ。

個人は信用力に欠けるから、その分安く。いやいや、相手が会社だから個人だからは本当は関係ない。仕事を担当するのは基本、会社だろうが個人だろうが「ヒト」だから。

名前の通ってる会社に頼んだから、ちゃんとやってくれる、依頼した要件を満たしてクオリティの高いアウトプットが出てくるとも限らない。まあ、その話はまた別の話になるのでここではしない。

じゃあ、どんな金額設定なら妥当なのか。これもモノサシを何にするかで変わってくるのだけど、比較的わかりやすい「損益分岐点」で考えてみる。

難しい話じゃないです。損益分岐点って言葉は見聞きすると思うけど、どういうものか。ざっくり言えば、損失になるか利益になるかのギリの金額設定とか売り上げのラインのこと。


損益分岐点の計算式はこういうもの。

売上高-変動費-固定費=利益0 →損益分岐点売上高


フリーランスでやってる人の固定費として、仕事場の家賃が仮に10万円、自分の給料20万円(※)、プロバイダ費用やAdobe税なんかの月々必要かつ売り上げに関係なく絶対にかかるいろんな経費が3万円(ほんとはもっとかかる)という前提でシミュレーションしてみよう。

補足すると取材なんかの旅費、光熱費、事務消耗品費なんかも売り上げには関係しない(交通費がたくさんかかったから受注金額が高くなるわけじゃないという理屈)ので会計上は固定費。

モノを製造したり原材料の仕入れが基本的に少ないライターやデザイナーだと売り上げの増減に連動して上下する変動費って、基本的にほぼない。今月はたくさん仕事したからたくさんレッドブル飲んだんだよなと思っても、そういうのは変動費にはカウントしない。

あ、外注費を使ってたりしたらそれは変動費になる。

で、ざっくり計算してみる。さっきの固定費が計33万円。変動費を0として売り上げがいくら以上あれば利益が出るか。小学生でもわかる。

仮に、その月の売り上げ(ライターとかデザイナーだと売り上げというイメージがあまりなくて収入?)が33万円なら損益分岐点売上高は0ということ。

もし、それより足りなければ赤字(厳密な意味での赤字とは異なるけど)になってしまう。

いや、でも給料20万円取ってるんでしょ? と言われるかもしれないけど、その20万円がまるっと自由に使えるわけじゃない。

そこから健康保険や年金を自分で支払う(会社員だと半分は会社が負担してる)し、当然ほかにも所得税や住民税なんかも支払わないといけない。

現実的にはライターの場合、所得税は支払者の法人(発注元)が源泉徴収して一律10.21%(100万円以上だと100万円を超えた分に対して20.42%)最初から引かれて入ってくる。

なので30万円で請けた仕事だとしても、実際に支払われるのは源泉所得税額3万630円を差し引いた26万9370円になる。消費税は別にして。

はい。ということは、個人事業主のフリーランスは損益分岐点ギリでやってたら、実際には自分の給料すらちゃんと取ることができない。給料以外の家賃とか経費、保険料や税金は絶対支払わないといけないわけだから。

こういうのって、なかなか外からはイメージされない。個人のフリーランスに30万円支払ったら、まるっと30万円も儲かるんでしょ? みたいに思われる不思議。

今回の仕事の請求額30万円です、といってもあたり前だけど30万円が自分の懐に入るわけではないのだ。「フリーランスだから安く頼める」はこういう現実的な部分でも正しくはない。

フリーランスだから安く頼んでしまうと、フリーランスとしてやっていけなくてしぬ。そうなると、それ以外の部分でフリーランスと仕事するメリットも同時に消滅することになる。

もちろん「会社」という形態だからできることもあるし、個人だからやりやすいこともどっちもある。どっちが上でも下でもないと思う。どっちの良さもうまく使える世の中のほうが幸せの総量は上がると思うし。

それでも「会社(法人)」に支払うなら高いとは思わないけど、個人のフリーランスに支払うのは高いと思われてしまう感覚。なかなか消えないと思うけど、個人と会社の新しい関係がつくられていく中で少しずつ変わっていくといいよね。

※個人事業主には「給料」という概念が税法上ないです。給料として経費計上もできません。収入の中から事業以外の生活費を支出したら「事業主貸」という仕分けをするルール。これもあまり一般には知られてない……。