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プロを褒めてはいけないは本当なんだろうか

いま思うと、あれはやんわりとたしなめられたのかもしれない。

あるところで(仕事ではない)、まあ詳細はぼかすけど、僕がプロの料理人の人に「これ、すごいですね。すごくおいしい」と言ったのを聞いた周囲の人が「あたり前じゃん、プロなんだから」と僕に言ったのだ。

その言葉には「プロに、そんなこと言うもんじゃないだろ」という僕の非礼をたしなめる響きが少しあったような気がした。

状況的には、どう考えてもちゃんとした料理ができる環境ではなく、そんな場所でも想像を超えてくる料理を出してもらったことに、僕の口から思わず「これ、すごいですね」という言葉が出た。

もちろん、上からなわけがない。料理を「評価」して言ったわけでもない。まあ、ただ瞬間的な僕の語彙が足りなかったのだ。

そういうところは僕のポンコツっぷりが余すところなく発揮されている。一応補足しておくと、仕事ではたぶんそういうおかしなことはしてない(と思う)。

仕事じゃない状況では、ときどき変なことを言ってしまう習性があるらしい。

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よくよく考えれば、たしかにプロの料理人の人がどんな状況でも、人に出す料理で「すごい!おいしそう!」と思わず口にしたくなるのをつくれるのは「あたり前」のことだと言われればそのとおりだ。

プロのライターだって、「ここでいますぐ、みんなに読ませられるもの書いて」と言われれば、まあなんとかするだろう。それと同じかもしれない。

それに対して「文章上手ですね」「よくこんなところで書けますね」と誰かに言われたら人によっては「失礼じゃないのか」と思う人もいるんだろう。そこは、ほんとに人によるのでわからない。

プロのアスリートに「足速いですね」と言ってるようなものだとしたら、たしかにちょっとトンチキかもと思う。

プロだからあたり前。仕事の文脈ではそのとおりだし、僕もいろんなプロを取材させてもらってきて、すごい人ほどあたり前のレベルが高いのも目の当りにしてきた。

なんだけど、じゃあプロに対してすごく「素」で感嘆を言葉や態度で表したりするのもしないほうがいいのか、失礼なことなのかはわからない。

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妻にその話をすると、こんな言葉が返ってきた。

「あたり前だから何も言わないって選択は、たとえばだけど、家事も誰かがするのもあたり前だから、何も言わないっていうのと根っこは同じかもしれないよね」

うん、それはあるかもしれない。論理の飛躍かもしれないけど、どんなことでも「その人ができてしまう」から何も言わない、下手に言うと逆に失礼かもしれないし、めんどくさいから言わないという選択をし続けていると、そこにはやっぱり何かのギャップが生まれる。

海外に行くと、僕もそんなにすごく経験があるわけじゃないけど、どんなささいな仕事でも態度や言葉で「やってくれてありがとう。すごくうれしい」というのを伝えて嫌な顔をされたことはないし、プロに失礼だという空気になったことはない気がする。

プロがプロとしての仕事ができるのはあたり前。だからそれに対しては何も言うべきではない。そんなところで褒められなくてもプライド持ってやってるからいいという人もいる。それもわかる。

言われたい人も言われたくない人もいるし、言われる相手にもよるという人もいると思う。

結局は人によるということなんだろうか。