時空を超えて謝罪することについて
若かりし頃の話。ある会社での新人時代に、何の表彰か忘れたけどどこかのホールで何千人だかの前で謝ったことがある。
表彰の場で謝るって、どういうことなのか。べつに何かやらかしたわけではない。何もやらかしてないけど謝ってみたのだ。
――その数日前。
「こういうときって何話せばいいんですかね」
今度、事業部の部会で表彰あるからなと当時の上司から言われて、本当に純粋に「何を話すことある?」と思ったので聞いてみた。
おそらく、そういうことを考えてしまう時点でコミュニケーションとか組織の空気とズレてるんだろう。いまから思うと、よくあんな大きな組織の中で息してたなと思う。
制作部門で社内の賞をもらって、まあべつにそれはいいことだったしよかったのだけど「おめでとうございますを受けてのひと言」がよくわからなかった。いまもわかってないかもしれない。
いや、ありがとうございますだし、それには何もわかってない新人を放牧して育ててくれた先輩とか上司への感謝とか、そういう類のものも当然くっついてくるし、その気持ちももちろん持ってた。
けど、それは個別にちゃんと(できてない部分もあったけど)伝えてたし、それ以外の「みんな」の前で、このような感謝の気持ちを感じてますアピールするもの何か違う気がした。
*
で、ほんとに困って上司に聞いたのだ。こういうときって何話せばいいんですかね。
すると上司はこう僕に言ったのである。
「とりあえず謝っとけばいいから」
僕はその上司の仕事の姿勢や見えてる世界の解像度、つくり出すクリエイティブもすごく尊敬してたので素直にそのアドバイスを受け取らせてもらった。
ステージに上がって、マイクを渡された僕は頭を下げて言った。
「このたびは、賞をいただき本当に申し訳ありません……!」
優秀なみんなはなぜか爆笑してくれたのを覚えている。
そのあと何をしゃべったのか覚えてない。なんか、こういうのはやっぱり苦手だなとあらためて思ったぐらいで。
人によっては、なんだよ、そういうのはちゃんと受け答えしろよと思うかもしれない。べつに僕もウケ狙いでやったわけじゃなく、わりと真剣にどうしていいかわからなかったのだ。
たぶん、そういう受け答えの「正解」を知らなかったし、そこをなぞるつもりもないからだ。まあ、基本的に組織にいちゃいけないタイプなんだろう。だからもう長くフリーランスでやってるし、やれてるんだろうけど。
いまでも「謝る」というワードを見たり聞いたりすると反射的に、あのときの表彰謝罪を思い出す。
それにしても、なんで「感謝」も「謝罪」もベクトルがまるで違うのに同じ「謝」を使うんだろうね。
という話を書いたのは、吉玉サキさんの記事を読んだからかもしれない
吉玉さんが書かれてる「誰でもいいから、とにかく誰かに謝りてぇ!」というのとは、まったく筋違いだから、僕が謝らないといけないのだけど、よくよく考えたらあのとき上司が「とりあえず謝っとけばいいから」と言ったのは、正しかったのかもしれない。
なぜなら、僕という人間は結局こんなふうに生きてしまう人間だから。時空を超えてやっぱりあの日謝って正解だったのだ。