見出し画像

「リヴァイアサン1」 トマス・ホッブズ

角田安正 訳  光文社古典新訳文庫  光文社

ホッブズの自然観


ホッブズ「リヴァイアサン1」、第1章「感覚について」。ここは人間の感覚知覚についての章なのだけど、「前に述べたことあるから手短に」なんて書いてあったけど…どこで?

 運動が呼び起こすのは[別の]運動にすぎない
(p25)


[]は訳者注。こういうところでなんかホッブズの自然観というか考え方とかがうかがえる。対象の色・形・音などが何らかの運動で、その運動がそれを感じている人間の感覚器官の運動をうながし、それが…と続く。社会というものもその総計なのだ。総計が何らかの実体となりうると考えているかはまだわからないけれど…こうした、上野氏も指摘した自動機械的、自然物理的発想は、ここだけではなく(飛ばした)はじめにでも、次の第2章の慣性の法則から始まる記述でも見られる。
(2015 01/11)

ホッブズの言語観

 一方、人間は言語に恵まれているので、常人以上に理知を働かせることもあれば、その逆に理知を失うこともある。
 言葉は、賢者にとって計数機である。賢者は言葉を用いて計算しているにすぎない。ところが愚者は、言葉をむやみにありがたがる。
(p64)


当時の自然科学(自然哲学)の興隆と、ホッブズのスコラ学嫌悪(毎回の章で出てくる)がよく見える。これの総合が自動機械リヴァイアサン。
(2015 01/16)

知力は情念から

 しかし大いなる想像は、何らかの目的に向けて揺るぎなく方向づけされてなければ、一種の精神錯乱と化す。
(p123)


から始まる1ページ分くらいの記述はなんだか自分にとっては耳が痛い…あちこちふらふら上滑り…
でも、次のはどうだ?

 知力の差異は情念によってもたらされる。
 知力の差異を引き起こす情念はさまざまあるが、大抵の場合、鍵となるのは大小さまざまな権力欲・物欲・知識欲・名誉欲である。いずれの欲も最初の欲(すなわち権力欲)に帰着する。
(p129)


一瞬、えっと思う文章だけど、よくよく考えてみればそうなのか…とも思えてくる。
(2015 01/20)

権力と累積の欲求

 幸福とは、欲求がある対象から他の対象へと絶えず移り進んでゆくこと
(p170)

 満足の行く生活を保つべく現有の権力と手段を維持しようとすれば、さらに多くの権力と手段を獲得しなければならない
(p171)



だんだん主題に近づいてきた「リヴァイアサン」。ここで言われているのはどういうことか。あらゆる動物のなかで人間だけが累積の欲求というか行動様式を持つということか。それは人間が長距離拡散移動していったことと関係するのか。とにかくそれが発展と環境負荷の原因となる。
(2015 01/22)

個人の側からの「万人の…」


ホッブズ「リヴァイアサン」と言えば…の「万人の万人に対する闘争」という言葉が第13章で出てきている。
その直前に置かれた第12章では宗教について書かれている。宗教と政治とは単なる傾向性の違いしかないと。さてこうして自然状態の人間について見てきたわけだが、徹底してホッブズは個人の側から論を進めている。その結論が「万人…」になったと。
(2015 01/23)

リヴァイアサンクイズ


さてホッブズから問題です。

 「もし私がかくかくしかじかのことをしなかったら、殺してくれ」
 「私がかくかくしかじかのことをしなかったら、あなたが殺しに来たとき私は抵抗しない」
(p242ー243から)


無効な誓約はどっち?

正解は後者。抵抗しないで殺されることはできない、小さな災いより大きな災いを人は選ばない。とのこと。
自殺はどう考えるのだろう。
ここは自然法の章。いよいよ契約の核心に入ってきた。
(2015 01/24)

自動機械、人工生命、リヴァイアサン


というわけで、「リヴァイアサン1」(第一部)を読み終えた。
解説で挙げられていた「ホッブズは民主主義の擁護者か、それとも専制王制の擁護者か」という問題提起に対してはこの第一部を読む限りにおいては間違いなく前者(というかどう考えても後者ではない)という気がする。もっとも、訳者角田氏がそう考えて訳しているからということもありえるが。
一番感じるのは「人間社会なんてのはほぼ自動的にこうなっていくものだろう」という、ある意味楽観的でもある、何らかの物理規則みたいなのに従うようなそんな考え。ロックみたいに抵抗権なんて考えることなんて思いもよらなかった、みたいな。

 自然とは、天地を創造し支配するために、神が用いる技のことである。人間の技術はさまざまな事柄において自然を真似る。そうした模倣によって人工的な動物を作ることもできる。
(p15)


あと、人間個人の性向から始めてだんだん大きな社会へと構築していく、この本の論の運びは、おそらくはホッブズがパリ亡命中に出会ったガッサンディ経由で知ったエピクロスの影響だろう、とのこと。

最後に訳者角田氏はロシア地域研究が元々の専門。だからゴルバチョフに関する本なんかも訳している。光文社古典新訳文庫ではレーニンから菊と刀まで…
第二部はいつ出るのかな。
(…出たけれど、未読)
(2015 01/26)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?