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「イスラエル」 臼杵陽

岩波新書  岩波書店

臼杵氏といえばイスラム研究者というイメージで自分はいたけれど、1990年代始めにイスラエルに二年間住んでいたという…多民族、多様な文化の現状と「ユダヤ国家、ディアスポラのユダヤ人に対する「帰還地」」という建前との矛盾からイスラエルを見る。
(2020 11/29)


ユダヤ人


超正統派ユダヤ人…安息日には車も運転しない、乗り入れも許されない。人口の1、2割。兵役も免除。いわゆるユダヤ人的格好。
宗教復興のグループ…上の人々と並び強硬派、この人々がイスラエル占領地への強硬な入植活動、大イスラエル主義。
アシュケナジム…ドイツ、東欧、ロシアからのユダヤ人。
セファラディム(この新書では表記若干異なる)…スペインからのユダヤ人(上記アシュケナジム以外の、またはヨーロッパ以外のユダヤ人という用法もあり)。イスラエル建国前まではこちらが多数派で、オスマン帝国のミレット制でもこちらが認められていた。
アシュケナジムとセファラディムの二つがラビ庁によって統括される。アメリカでユダヤ教に改宗してイスラエルに来ても、この二つに認定されなければユダヤ人として認定されない。
周囲アラブ諸国からのユダヤ人(ミズラーヒム)…イスラエル建国後。イラクから来たやや裕福な人達を除くと、最底辺な人々。モロッコからの移民は後に暴動を起こす。
エチオピアからのユダヤ人…古代から隔離されていたため、聖典持たず。
ロシアからの新ユダヤ人…ペレストロイカ後。
この本が書かれた当時では、イスラエルにいるユダヤ人より、アメリカにいるユダヤ人の方が若干多い(変わったかも)

アラブ人(と呼ばれる人々)


パレスチナ人(若干残っている人あり。難民とのつながりを協調している人も多い)
キリスト教徒、ドズール派、バイーイ教徒(イランの新興宗教)

シオニズム


元々、神の国はこの世ではない。それが「現世利益」に変わっている。
政治的シオニズム…西欧諸国との交渉で、ユダヤ人の国を作ろうとする。ドレフュス事件から本格化。
労働的シオニズム…ロシアのポグロムから逃れるために20世紀初頭から。社会主義の影響を受けキブツを形成。アラブ人を排除。もしくは念頭にない。後の労働党。
修正主義シオニズム…いわゆる右派。アラブ人の抵抗は当然、それに武力で応酬するのも当然。後のリクード党。
その他ブーバーやアインシュタインなどの、シオニズムの国は意識の中にある、という態度もある。

モロッコ移民始めとしてミズラーヒムは社会主義的シオニズムには疎遠な人々。それらをまとめ上げるイデオロギーとして、シオニズムよりはホロコースト、ということでそれが機能する。
(2020 11/30)

とりあえず読み終え


怒涛の歴史は消化不良のところもあるけど。
メモ
1973年の中東戦争での和平交渉も、オスロ合意も、「領土と和平の交換」という、アラブ側に占領地返還する代わりに、アラブ側はイスラエルという国家を認めるという条件。オスロ合意を指導した労働党のラヴィン首相が暗殺(暗殺犯の経歴が詳しく載っている)されたことにより「和平より治安」という内向き世論が強まる。一方、和平によって、低賃金労働がパレスチナや他のアラブ諸国に移ることによって、国内の貧困層から不満が出る。

1980年代からの新潮流の二つの政党。シャス党とカハ党。シャス党はミズラーヒムの超正統派ユダヤ教徒が結集した政党。貧困ミズラーヒム層に対しての教育や社会福祉、政教分離に反対する姿勢、そして和平交渉には比較的賛成。一方のカハ党は極右政党。反民主的、人種主義的政党とのことでカハ党選挙リストを受理されない。後継者は祈り途中のムスリムに向けて発砲するという行為にもでる。

 第一にユダヤ民族として世俗的に国民を統合しようとするシオニズム、第二にユダヤ教徒として宗教的に国民を統合するユダヤ教、そして第三に非ユダヤ人たちにとってはそのいずれでもない民主主義、という三つ巴の関係がぎくしゃくするようになった。
(p213)

 本当にホロコーストだけでイスラエルの建国を説明できるのか。建国自体はむしろシオニズムそのものの内在的な発展の中にその解答を見出すべきなのではないか。
(p227)


この新書のあとがきでホロコースト博物館を見つつ「こんなものがあるから、イスラエルは国家として正常化できないんだ」と吐き捨てるように言った著者の友人、またまた、前に読んだ田浪亜央江の本(「不在者たちのイスラエルー占領文化とパレスチナ」インパクト出版会)でアラブの権威主義から解放されたイスラエルの社会に好感を持ったアラブ人…とまあ、いろいろな立場から多角的に見ていく必要性があるだろう。
(2020 12/01)

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