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「ふたつの海のあいだで」 カルミネ・アバーテ

関口英子 訳  新潮クレスト・ブックス  新潮社

「ふたつの海のあいだで」

アバーテは前に図書館で借りてさわりだけ読んだ、未知谷の「偉大なる時のモザイク」(栗原俊秀 訳)の作家。 

南イタリアのアルバニア系住民の多く住む地域を舞台とする作品。だけでなく、作者自身も住んでいたドイツハンブルクも出てくる。言語もイタリア語、南イタリア方言、アルバニア語、ドイツ語と多種。 
村にあるデュマも立ち寄ったという旅館いちじく館の再建を目指す、語り手の祖父。突然何者かに連れ去られて…というところかな、今のところは。
(2017 11/20)

 子供だった僕には、お祖母ちゃんがその部屋で、大切な思い出の埃をはらい、磨きあげ、愛情いっぱいに撫でまわしているということが理解できなかったのだ。 
(p51) 

いちじくの館を再建しようとするジョルジョ・ベッルーシと並んで、その妻であるこのお祖母ちゃんも小説の主人公となるのかもしれない。そんな予感。こういう記述みると自分はどうしてもドノソ「夜のみだらな鳥」を思い出してしまうのだが。 

この舞台がどこか地図で確認しようと思ったけど、いまいちよくわからない。カラブリーア州の真ん中辺りって、どちら側の海も見えるのか? 
(2017 11/27)

私も騙された…
語り手の母親がジョルジョ・ベッルーシについて話し出す、とあったので読んでいったら、母親が語っていたのはデュマの時代のジョルジョのことだった…と語り手が気づく…そして読者が気づく。 
もちろん?この二人のジョルジョの旅は互いに響きあっていて、ともに途中で未来の伴侶を見つける(見つけようとする) 
(2017 12/01)

「ふたつの海のあいだで」を読み終える。その前まで大体半分くらい読んでいたのを、残り一気読み。

  誰しも生きている人から距離を置くことはできるが、死者からは逃れることはできない。
(p137)


語り手の父系の祖父である写真家ハンスの言葉。ハンスの父親はハンスが生まれてからすぐ亡くなった。

  それがどのような夢なのかは判読できない。だからこそ、この写真に強く惹かれると。
(p179)


ハンスが撮ったジョルジョ・ベッルーシといちじくの館の写真を見たキャパの言葉(ということになっている)。
みかじめ料をゆすりにきた男を刺し殺し8年服役、続いては新ホテルいちじくの館が出来上がりかけた頃の爆破、と度々の妨害を越え、完成させたジョルジョ・ベッルーシ。誰か(マルティーナ?)が言った通り、この妨害マフィアのンドランゲタはジョルジョ自身を殺せばいいのに、いちじくの館完成が公然の事実となってから、ジョルジョとハンスを殺害する。なんかお馬鹿なマフィアとも思うけど、これは事実というより、作家アバーテの希望的想像世界なのかもしれない。クストリッツァの「白猫、黒猫」みたいに。ということで?この物語、映画に合いそう(されてる?)。

  あなたがた作家は、皆さん似たところがありますよね。満足を知らない吸血鬼のような眼つきをしています。
(p219)


語り手フロリアンがいちじくの館を訪れた「作家」に言った言葉。この作家はアバーテ自身か。実際のアバーテは、語り手フロリアンと同じく、南イタリアとドイツを往復する生活を送り、今はその中間のトレンティーノに住んでいるという。
(2017  12/11)

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