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「煙滅」 ジョルジュ・ペレック

塩塚秀一郎 訳  水声社

原著はフランス語アルファベットの中で最頻出の「e」を一切使わずに書かれている。それを受けて、邦訳の塩塚氏は対応する日本語最頻出として、「い」のみならず、「い」段を一切使わずに訳した。

「煙滅」を読み始め。ペレック始め。なんだか、世の中の悪行を凝縮したような印象のある序の後は、現代版プルーストみたいな不眠症の男が現れ、なんだかよくわからないうちに脳の手術を受ける・・・この「なんだかよくわからない」まま重要なことが起きてしまうのはセリーヌを思い出させる。 

「現代版プルースト」と書いたところは、直接的にはペレック自身の「眠る男」が元にあるらしい。もちろん、プルーストの影響はあるのだろうけど。
(2011 07/16(最後の段落は2011 07/28に付加))

書くことと必然性…


「煙滅」…いろんな先行作品のかけらの中を読み進んでいく。ソンダク、カサーレス、マンにソフォクレスにポー…選択は「い」段の文字が入ってないのは勿論のこと、他にも何かあるような…

〈作家〉の務めとは、前もって天がすべてを定める、との考え方を覆すことであって、それがかなわぬのなら作家の創作など無用であろう
(p46)


って、格好いいこと書いといて、そのすぐ先ではそれを否定するかのような文が出て「選ばれし人」が発見できずに終わってしまう。
で、そんなこんなの雑多な文を書きつつ、部屋に残しつつ、主人公?アッパー・ボンはどこかへ失踪してしまう。どうやら何かの欠落を感じとった者が次々と消えて行く…というストーリーらしい。はい。
(2011 07/21)

穴は適度に…


内容の1割もついていっていないと思われる「煙滅」だが、前も言った(よね?)ように、何かの欠落がテーマになっている。が、それだけでもないみたい…

というのは、今日読んだところで、登場人物の一人であるテノール歌手が、ドンファンの石像役で像の型に入って出番を待つ間に亡くなる、という場面があったから。窒息死かどうかは物語の謎が絡んでくる為なんとも言えないのだが、少なくとも穴は適度には必要だ…ということは言えそうだ。

ペレックが日本の50音表知ったら(知ってる可能性は考えられる)なんと言うでしょうかねぇ。
あと2つ。この前挙げた引用している先行作品に「白鯨」も加えといて下さい。それから、この作品の重要な読み方というか下敷きというかに、ナチスのユダヤ人迫害がある。が、今回は(今のところ)それにこだわらずに読んでいきたいなあ、と思っている…謎解き、も少し参加したい…
(2011 07/23)

ザーヘル?


で、今朝は「煙滅」。今回は第3の犠牲者?ロバート、というところ。中盤に入りいよいよ中核に取り組んでいく感じ。ザーヘルというのはパワーアイテムというか、それについて考えるともうそれしか考えられなくなる…というシロモノみたいですが、こういう(なのか?)スピリチュアルな方向にいくと自分にはわからなくなってしまう…
(2011 07/25)

作品成立論とタブー論と文学論と

「煙滅」第5章。ちょうど中間に辺り、いろいろ核となる概念が見えてくる。標題では3つ書いてあるが、ここでは真ん中のタブー論を。この作品の成立を自ら語っているのはp217~218、文学論についてはp239をどうぞ。暇あったらそっちも書く?…
では、タブー論をどうぞ。

 我々はあるタブーから生まれたわけだが、そのタブーを遠くから眺めるだけで、深く考えることも、名指そうとすることもなかった…(中略)…我々の行動を定める〈法〉のことも、語られることはなかろう。我々は本当のことを察することなく、安閑と世を送ってそのまま亡くなるのだ。その結果、〈法〉はますますのさばることだろう…
(p238)


物語的には、前半は登場人物が皆なんらかの血縁であり、また復讐を負っている、というところ。後半は、「い」段抜きのルールを示している…けれど、この間、そういう読みに(安易に)走らない…と言ってたのに、やはりここはアウシュヴィッツの心性に触れないわけにはいかないだろう。アドルノの例の発言もすぐ連想させるし…タブー視しているだけで心性は変わっていない…ペレックがもしフランスでそう感じているとすれば(しているのだろうけど)、逆に最も頻出する文字を敢えて消すという行為は反転されたアウシュヴィッツ…
それともタブーは原罪なのだろうか?
(2011 07/27)

「煙滅」の謎


上へ掲げたごとく、「煙滅」が終わったよ。前のログでは、暗めの部分のみのようなので、今度は明るめな部分で攻めます。
このテクストではある段の仮名が不可である、このようなルールがあるのですが、作家側はそのルールを書くことへのバネとしてるようです。そのバネの中でも、羅列は目立ってます。どれだけあの段の仮名を使わず羅列可能か?
それから、このテクストでは子供や孫を親が殺す伏線があるのですが、結末残った子供はどう殺されるのか…
彼はアンダーウッドを掴んで、カール・ホーソン・ソヴォルネンを抹殺するのだった。

アンダーウッドとは作家が使ってるワープロのようなもの。つまるところ、このテクストの真ん中では作家が座ってたのだ。うっかうっかと笑ってたのです…
でもまだ、3パーセントもわからずと思う。さて、今度はどの本読もうかなあ…


折角だから?この上の文部分のみ「い」段抜きで書いてみた。こういうのをリポグラムというらしい。見直したら「り」が二ヵ所あるのを発見したり…まだあるかも…
そんなこんなで普段以上にワケわからん記録になっているかもしれないが、本文中でも書いたように、制約が表現の広がりをもたらしている箇所もひょっとしたらあるかも?
(2011 07/28)

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