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「マグレブ紀行」 川田順造

中公新書  中央公論新社


サハラ以南のアフリカ研究の第一人者である川田氏ならではの、ブラックアフリカから見た、文化人類学者から見たマグレブ。実際の紀行と著作は1969年(紀行)〜1971年(連載)だから、今とはタイムラグがあり、そこがまた貴重な証言にもなる(冒頭のアルジェリア解放戦争直後の様子とか)。
この本読むと、マグレブと西アフリカって同根の文化で後にサハラの乾燥とともに異なる発展をしたのではないかと、少し思う。第1章はアルジェリアのオアシス、第2章はチュニジア、第3章はモロッコ、第4章はモロッコの続きとポルトガル・サグレス岬(この章は他より多く紀行とは離れた記述が多い)。

 コミュニケーションの発達や技術文明の一様化と進展の加速とは、同時に、かつての共同意識や合意の崩壊、上位集団からの下位集団の、集団からの個人の離脱や世代間の断絶をおしすすめ、うわべの画一化の流れの底に、無数の渦巻きをつくり出しはじめている。
 近代的な意味での国家を忠誠の単位として、敵味方のはっきり分れる戦争の時代は終り、なしくずしの亀裂と反乱の中で、人類は新しい共同体を模索しつづけるだろう。しかも、社会の統合の規模が大きくなるにつれて、抑圧や疎外に対する部分社会の反乱が、ますます根を深くし、拡がってゆくことは、まちがいない。
(p109〜110)


ちょいと長めの引用だが・・2011年の現在の自分の気分として持っていて、しかも自分が言葉になかなかできなかったことを40年も前に書き記していたことに驚く。渦巻きを認めようとしないごく一部の人と、渦巻きの直中にある人、そして渦巻きの上に乗っかっている人・・・(日本にはなんだか最初のタイプの人がまだかなり多いような気もするけど)・・・自分が考えるに、この全体的流れは人間の歴史が始まって以来、連綿として継続中なものなのだろう。
(2011 08/07)

ちょっと、ずっと気になっていたこと
この本で出てくるアルジェリアの人々が、「チュニジアはオリエントな感じがする」と言っているらしい。
サイードのオリエンタリズムとは違って、こっちは内部?のオリエンタリズム?
考えられることその1 北アフリカのイスラム聖地(古都)カイルワーンがあることから、一神教により古くから染まっているということから?
考えられることその2 もっと古く、カルタゴ(フェニキア人)の地だから、という認識
なんか、読後感では、懐かしみを込めていたような気がしたので、失われた多神教の匂いを求めて・・・という点ではその2かな。まだまだその3とかあるかもしれないし、おのおので言っている内容が違うのかもしれない。
でも、マグレブとひとくくりで呼んでしまう中にも、いろいろな差異があることがわかって楽しい。
(「オリエント」という言葉の意味とかイメージがまるっきり違う可能性も)
(2011 08/15)

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