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「継母礼讃」 マリオ・バルガス=リョサ

西村英一郎 訳  中公文庫  中央公論新社

阿佐ヶ谷銀星舎で購入。
(2017 02/20)

リョサの「継母礼賛」


重厚な作品の印象のあるリョサだけど、これは軽くて170ページくらい。中年ブルジョワ夫妻(再婚)と、その先妻の子という家庭の恋愛超えて性愛の行きつく先…作者はフロベールの「ボヴァリー夫人」に傾倒していて、でも毒仰ぐボヴァリー夫人よりリョサの作品人物達はもっと愉しんでいる。
あと風変わりなのは、小説巻頭に5枚の絵が載っていて、小説中のその絵のタイトルそのものの章では一時的にペルーのリマのブルジョワ家庭離れて、絵の中に入って行くような書き方。

  彼は道化ですが、わたしたちの主人なのです。
(p60)


この作品の続編小説もリョサは書いている(「ドン・リゴベルトの手帖」)
(2019  01/25)

「継母礼賛」を読むリゴベルト


というわけで、リョサの「継母礼賛」を読み終えたのだけど、夜も遅いので、きょうはこの濃厚な小説から一つだけ。学校の作文を読んで直してほしいというアルフォンソの頼みを受けて、リゴベルトが読むその作文のタイトルは「継母礼賛」。リゴベルトはひょっとしたら、この作品全体を読んでいるのか。自分が読んでいる姿を含め…
濃密な上にこんな仕掛けもしといたのか…
(2019  01/29)

アルフォンソとは実は何者なのか?


予想以上に面白くて困った?この本。170ページという短い中にもリョサらしい構成の対位法あって、主筋のルクレシアとアルフォンソの他、リゴベルトの「儀式」(日替わり。月曜日は手、火曜日は足…耳毛や鼻毛を抜くのがこんな高尚?な文学になるとは)、それから冒頭の6枚の絵のそれぞれの章。リゴベルトのには言葉遊び(オルガニスト等)や諺、箴言などペルーの文学の一分野ともなっている要素が盛り込まれているし、絵の章はシュールリアリステックに筋を飛び全体を俯瞰する仕組みを持つ。
文章は勿論濃密で官能的なのだけど、下に引くのはそれほどではない(笑)箇所。

   熱に浮かされたような不快感をリゴベルトは抑えることができなかった。その不快感は間抜けなあぶのように顔や腕にぶつかってきたので、彼はそれを叩くことも、身をかわすこともできなかった。
(p141-142)


徹底的に身体の文学に貫いたこの小説、登場人物に読者が没入するというより、言葉の戯れ(リョサは「言葉の司祭」という)を純粋に愉しむ作品なのだろう。

続編「ドン・リゴベルトの手帖」も翻訳されている。同じ中公文庫(単行本は福武書店)、同じ西村英一郎訳。この「継母礼賛」で家を追放されたルクレシアの前に油絵を習い始めたアルフォンソが現れるところから始まるらしい…困るなあ(笑)
(2019  01/30)
(「ドン・リゴベルトの手帖」は購入済、現在未読…)

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