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「カンタヴィルの幽霊・スフィンクス」 オスカー・ワイルド

南條竹則 訳  光文社古典新訳文庫  光文社

最初の2作。
「アーサー卿の犯罪」は手相師の「あなたは殺人を犯す」という言葉を信じ、婚約寸前だった娘を一旦延期して、(手っ取り早く?)殺人をしてしまおう、と悪戦苦闘?する話。なんで婚約前で殺人してしまえば婚約できるのか、全く不明のまま、アーサー卿の信念だけを頼りに物語は進む。結局、3度目の殺人が彼を占った手相師自身で、それが成功し彼から見てハッピーエンドで終わるのだが、果たして手相師は自殺したかったのを幇助しただけではないのか、という疑惑は残る。そこから物語の未来が破綻していくのかも。
「カンタヴィル家の幽霊」は、カンタヴィル家に伝わる幽霊屋敷をアメリカ人大使一家が「幽霊含めて」買い取り、そこで起こす1500年代以来の劇俳優じみた幽霊とプラグマティズムとやんちゃさの一家との確執が楽しい。訳者の言う通りディケンズ「クリスマス・カロル」以来の幽霊譚は英文学の伝統である。

ワイルド自身は、手相占いを信じてもいて、またアメリカでプラグマティズム的気質に遭遇してたりするので、そのカリカチュアともなっているのであろう。表裏含め。
あとは感覚にちなんだ表現がちらほら目につく。肉体的統一のため感覚的なものを破壊する、とか、逆に?(アメリカ人大使一家は)低次元なものに満足していて感覚的なものの価値がわからない、とか。ワイルドにとって重要な鍵概念であることは確かだろう。
(2019 08/06)

ワイルドの残りの2作品は短く小咄っぽい感じ。両方とも「それで終わりかい?」と。詩の「スフィンクス」は逆に結構長い。
ワイルドの古典新訳文庫はワイルド自身の作品は終わり、友人?のエイダ・レヴァーソンの作品が残っている。彼女のことをワイルドは「スフィンクス」と呼んでいたのだという。
(2019 08/14)

エイダ・レヴァーソンの作品とワイルドの回想を読み終わってこの本読了。ワイルドに比べ、レヴァーソンは情景描写が細かい感が。胸ポケットに挿す花とか。例のワイルドの同性愛公判中、レヴァーソン夫妻はワイルドを自宅に匿っていた。その様子も回想で書かれている。
(2019 08/18)

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