見出し画像

「地上の見知らぬ少年」 ル・クレジオ

鈴木雅生 訳  河出書房新社

読みかけの棚から
読みかけポイント:解説とぱらぱら見たところから。

「地上の見知らぬ少年」はル・クレジオの第二期の作品。エッセイ集というか散文詩集というか。よくル・クレジオには二つの「断絶」があると言われる。
都会に生きる青年を中心に物質社会の閉塞感を解体していく文体で語る第一期、自らの祖先(モーリシャスから分裂し「ディアスポラ的」状況に離散する)やその他の人々の歴史を語っていく第三期、その間に挟まれたこの第二期は、「海を見たことがなかった少年」とともに、第一期の重苦しさから離れ得る可能性を少年という存在に託した。そのきっかけとなったのはメキシコ滞在中にパナマのインディオのもとに数ヶ月滞在を1970ー1974年の間行ったこと。インディオ達は世界と断絶していない、と感じたという。後の第三期になると、第一期の重苦しさも戻ってくるが、それでもこの時期に得たものも貫かれている。

 光は蟻を数分で焼き殺す。ネズミを壊死させる。黴を干乾びさせる。それは、永遠に終わりのない時のなかで輝く光、水が干上がってもはや砂塵と岩と溶岩しか残っていない時のなかで輝く光だ。この美しい光にもっと近づこう、その源までたどり築こうと、人間は塔の頂上へ登り、丘の上へとつづく階段を這い上がり、標高3000メートルにある無人の高原を目指す。観測気球を打ち上げ、はるかな高みへ、天空の中心へ、宇宙の最も灼熱した一点へと眼を凝らす。
(p23ー24)


反対に顕微鏡を使って、細胞の中へ、そして原子、素粒子の先へと進む微細な探究も、世界の原初、光の原初をたどる旅である。
(2018 08/16)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?