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【読書記録】百花/川村元気

普段本を選ぶときに、すでに映画化されているものはあまり選びません。なぜかというと、原作を後に読むとどうしても俳優さんのイメージが入ってきてしまって、自由な発想や感覚で読めないような気がするからです。
本屋さんでこの本を見た時、カバーが映画化を前面に押し出している感じだったのでちょっと迷ったのですが、ストーリーに惹かれて是非読んでみたいと思いました。

私の祖母はアルツハイマー型認知症でした。認知症の人とその介護者支援については自分のライフワークでもあります。

読んでみてまず、認知症の人の描写にとてもリアリティがあると感じました。
例えば、主人公の泉の母、百合子の自宅。すっかり黒くなったバナナ、いっぱいになった冷蔵庫、炊飯器の横には手をつけられていないのに食パンが3斤並んでいる状況。また、パンパンになった財布の小銭入れ、訪問セールスを受け入れてしまうなどの日常のエピソード。ほんの少しの違和感が、認知症の進行とともに繋がっていく。終盤の施設でピアノを弾く様子、痩せ細った横顔。ひとつひとつの表現のリアリティが素晴らしいです。
そして何より混乱や徘徊といった百合子の行動を、本人の側に立って描写している冒頭の部分にドキリとします。百合子の中では理由があって、色々な思考や感情がこんな風に駆け回っているのかもしれないと想像し、胸が苦しくなりました。作者の人はどうやってこの描写にたどり着いたんだろう。

一方で、百合子が母であることをやめた「空白の1年間」の日記は何故かリアリティに欠け、読んでいる自分も夢の中の出来事のように感じました。それは百合子の本当の思い、母性を抑圧していることを示しているのかな…と自分なりに解釈しています。

自分自身の体験やこれまでの臨床経験を踏まえて、どうしても家族介護者である泉の立場への思い入れが強くなり、共感する部分が多くあります。それでも、認知症の人本人、百合子側からの描写が自分にとっては一番心に残る作品でした。
泉の立場、百合子の立場、または泉の妻の香織の立場、それぞれで何回も味わいたいと思う本です。

余談ですが、「半分の花火」というのが一つの鍵になっており、後半で泉と百合子が訪れる花火大会が私の地元の花火大会で驚きました。勝手にこの本との運命を感じています。(今年もお盆はコロナで帰省しなかったので、現在望郷の念に駆られています)
読了後に映画の予告編も見てみたのですが、作者の川村さんが監督をされていて、原作そのままの世界観。私の地元もバッチリ映っていたので思わず母に「菅田将暉くん撮影で来てたの知ってた??」とLINEで聞いてみたのですが、全く把握していませんでした…。
是非映画も見てみたいなと思っています。

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