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【読書記録】おいしいご飯が食べられますように/高瀬隼子

読んだ本の記録をつけていきたいなと思い、読書記録をしてみます。
昔から本が好きです。「本屋さん」も大好き。「本屋さんの匂い」も好き。
独身時代は本屋さんにいる時間自体が癒しでした。
ところが子どもと本屋さんに行ってもなかなかじっくり選べない。
「ママーこっち来てー」「これ見てー」「あれ欲しいー」と繰り返す小さなモンスターをなんとかなだめながら、できるだけ早めにお店を後にしたい….。
という訳で、最近本を購入するパターンは、① 新聞やネットの書評で気になっていたものをパッと見つけられた時、② 好きな作家さんの新作、③ 本屋大賞や芥川賞・直木賞ノミネート作品、④ ジャケ買い、のいずれかです。今回は③と④です。芥川賞受賞はうっすら知っていましたが、書評や内容については予備知識ゼロ。タイトルと表紙で勝手に「おいしい食事が人の心を癒し、人間関係をほぐしていく」というイメージを持ちました。私の好きな、柚木麻子さんの「ランチのアッコちゃん」とか、小川糸さんの「食堂かたつむり」とか、最近読んだ町田そのこさんの「宙ごはん」とか、そんなイメージでパッと手に取ってしまったのです。(迷う間も無く、息子に「かいけつゾロリ」のコーナーに引っ張られてしまったので…。)

本を手に取った時には表紙の絵もなんだか美味しそうなスープに見えましたが、今はスープに移る人影に気持ちがゾワっとしてしまう。そんな読後感です。予想と全く違いました。(よく見たら帯に「心のざわつきが止まらない。最高に不穏な傑作職場小説!」と書いてあります…。)

予想した内容とは違いましたが、面白くて、最後までスーッと短時間で読んでしまいました。
登場人物の芦川さんも、押尾さんも、憎めないパートの原田さんも、働いていたらよく出会う人たち。特に押尾さんの気持ちには共感でき、多様性・寛容性が強調される中で、弱い人が強くなり、我慢してなんとかやっている強い人が弱くなってしまうという矛盾も生じてきてしまうのかもしれないと思います。でも、芦川さんも決して悪くはない。
二谷さんについては、闇が深くて今後の芦川さんとの行く末を案じてモヤモヤ、ゾワッとしました。読後感は今村夏子さんの「ピクニック」にちょっと似ているように感じます。人間の闇というか、怖さを残したまま終わる感じが、自分としてはちょっと辛いです。

職場での人間関係と同様に、「食事をどのように捉えるのか」「食とどのように向き合うのか」というのもこの本の一つのテーマなのかなと思います。自分自身は、食べることは大切だと感じているし、美味しいものが好き。でも、芦川さんが作ってくれた手料理を食べた後に、カップラーメンを流し込むように食べてしまう二谷さんの気持ちも分からないことはないです。「手の込んだおいしいもの、健康に良いものを食べること=正義」のような雰囲気にやるせなくなる人もいるんだろうなと思います。
手作りお菓子だって、誰もが喜ぶ訳ではない。私も職場に手作りお菓子を頻繁に持ってくる同僚がいたら辛いです。

読んでからこの本の一見ポップな装画を改めて見ると、可愛らしいマドレーヌやマフィンまでなんだか不気味に見えてきてしまいます。夏の暑さがヒヤッと涼しくなるような一冊でした。

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