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【レポート】「変形性ひざ関節症に対する姿勢制御アプローチ」 〈TerraceJ治療協会オンラインセミナー〉

はじめに

「変形性膝関節症(膝OA)」は国内に有訴者が約1,000万人、潜在的には約3,000万人がいるといわれ、治療家やセラピストが頻繁に対峙する疾患です。

膝OAによって「身体的QOL」が著しく低下し、高齢者の「要介護・寝たきり」につながります。そこで、膝OAの発症・進行を防ぐ治療法の確立が急務です。

膝OAに対する従来の治療は、痛み止め薬や関節注射、患部の可動域訓練、マニュアル的な筋力訓練、変形を矯正する手術療法が主。しかし症状の再燃や、活動能力の低下が頻発していました。

そこで“医療における賢明な選択”をめざす世界的な運動「Choosing Wisely」でも、膝OAに対する根拠のある治療法の確立が求められています。


ふだん膝関節痛の患者さんに対応しているけれど、“自分の診方が合っているのかどうかわからない“、”現場で結果を出すための新しいスキルを磨きたい”という治療家、セラピストの方にご参考いただければうれしいです。

*本記事の内容は、2021年11月21日(日)、TerraceJ治療協会オンラインセミナーとして実施しました。

膝OAの治療・予防に重要な「2つの視点」

膝 ひざ

膝OAの最新知見では、

膝OAはその発症に加齢や肥満、遺伝的要因、力学的負荷など多くの原因が関与する「多因子疾患」である。

とくに「力学的負荷の蓄積」は、関節軟骨の初期変性とその破壊、軟骨下骨でおこる骨のターンオーバー(骨吸収と形成)の異常に関与している。

とされています。


つまり、膝OAの発症と進行を食い止める根本的解決には、次の2点を考慮する必要があります。

◯膝関節にかかる「力学的負荷の蓄積」を防ぐ
◯発症に関わる「多因子」を考慮した評価・治療をする


膝にかかる「力学的負荷」を3つの視点で徹底解明!

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「力学的負荷」とは、身体に加わる「外力」であり、重力や体重負荷、床反力、摩擦力などがあります。3つの視点で紐解いていきましょう。

①運動連鎖

人の動作は複数の関節運動が組み合わさってなされ、お互いの肢節の運動が波及し、影響しあっています(運動連鎖)。

とくに膝関節は、下肢帯において股関節と足関節にはさまれた「中間関節」であり、中枢部および末梢部のいずれからも影響をうけやすい箇所。


中枢部から末梢部へと波及する「下行性運動連鎖」では、骨盤の前後傾運動に伴って、次のように下肢の関節運動が生じます。

【骨盤後傾運動に伴って】股関節伸展・外転・外旋→膝関節屈曲・内反→下腿内旋→距骨下関節回外

【骨盤前傾運動に伴って】股関節屈曲・内転・内旋→膝関節伸展・外反→下腿外旋→距骨下関節回内

*末梢部から中枢部へと波及する「上行性運動連鎖」では、上記とは逆向きに関節運動が波及します。

姿勢 イラスト 女性

運動連鎖における骨盤の運動には「脊柱」の運動も伴い、膝関節に影響を及ぼします。

脊柱と膝とで障害発生が関連しあう現象は「Knee-Spine Syndrome」「Spine−Knee Syndrome」*と呼ばれ、臨床的にも頻発してみられます。

*Y.Oshima et al : Knee–Hip–Spine Syndrome: Improvement in Preoperative Abnormal Posture following Total Knee Arthroplasty.2019


②力の伝達・床反力

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運動力学では、人が動作を遂行する際に、中枢部(体幹)から末梢部(四肢)への「力の伝達」が生じると考えます。

*ここでの「力」とは、物体を移動させる「作用力」のこと。

また目的動作に先立って体幹の「コアスタビリティ」が高まる、「先行随伴性姿勢調節(anticipatory postural adjustments:APA)」という働きが生じます。


荷重動作において、体幹から四肢へ力を伝達する一方で、床面から身体へ返ってくる「床反力(反作用力)」も忘れてはなりません。

身体は常に、床面に対して力を加えながら、身体に返ってくる床反力を緩衝しているのですね。床反力を緩衝する主役もまた、「体幹」が担っています。

つまり体幹がきちんと機能してこそ、四肢の自在な運動が可能になり、身体にかかる力学的負荷をやわらげることができるのです。


③関節モーメント

人の関節運動は軸を中心とした「回転」によってなされます。関節を回転させようとはたらくのが「関節モーメント」。関節モーメントは、[力×モーメントアーム長(回転軸と作用線の距離)」で算出されます。

膝関節にかかる力学的負荷を考える際に、動作の特徴による関節モーメントの変化を考慮する必要があります。

スクワット動作

例えば、スクワット動作。

「骨盤前傾・脊柱伸展姿勢」でスクワット動作を行えば、重心線は膝関節軸の近くを通り、関節モーメントはそれほど大きくなりません。

一方、「骨盤後傾・脊柱後弯姿勢」でスクワット動作を行うと、重心線が膝関節軸よりも後方へ離れます。それにあらがうために「大腿四頭筋」の筋張力が増大。膝蓋大腿(PF)関節への圧縮力が強まることになります。


【治療戦略】力学的負荷を緩衝する身体に整える

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私たちが地球上で生活するうえで、これらの「外力」を緩衝できる身体環境を備えておく必要があります。

「外力の緩衝作用」を担うのは全身の骨格や筋、半月板などが挙げられます。そのなかでもとくに「脊柱弯曲構造」「腹腔内圧構成帯」のはたらきが重要です。

「脊柱弯曲構造」と「腹腔内圧構成帯」が適切に働くことで、外力にあらがって姿勢バランスを維持し、スムーズな目的動作を遂行することが可能となります。

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さらに膝OAが「多因子疾患」であることを考慮すると、着目すべきは筋骨格系の問題だけでありません。全身状態に関わる呼吸や循環、代謝などに影響を与える、「生活習慣」もチェックする必要があります。

生活習慣や現病歴、治療上のリスクなどをモレなく検証し、個々人にふさわしい解決策を導くために、「D(disease)-ダイアグラム」というフレームワークが有用です。


今回のセミナーでは、力学的負荷を緩衝する「体幹」機能を「どう診て」「どう改善する」のか?さらに症状に関与するさまざまな因子を整理して、アプローチすべき問題を絞り込む戦略を解説しました。


【参考書籍】

むすびに

ジョギング、二人

「人生100年時代」といわれる今を、元気で幸せに生ききるためには、まず身体の健康が第一。とくに「移動」にかかわる「下肢機能・体力」を維持するのが最優先課題です。

治療家、セラピストとして、患者の“もう痛くない!歩ける!”を実現する知識とスキルは、社会的にも大きな意義があります。

次回のセミナー予告

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