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屋上遊園地で【遊園地の思い出】

一番古い遊園地の思い出といえば、駅前のデパートにあった屋上遊園地。決して特定のキャラクターがいるわけではなく、新幹線や気球、飛行機、動物、日常から少し離れた場所にあるあれこれとちいさな夢がつめ込まれた場所。

日曜日でもお客さんがあると店を開けなければならなかった自営業の我が家。いつどんな時だって対応しなければならない立場で、車に乗って門を出る直前に駐車場に入ってくる来訪者に何度泣かされたことか。

遠くに行けるのはお盆休み近くの伊豆への家族旅行と決まっていたので、週末に遊びに行けるとしたらデパートか本屋さんに限られていた。時間に追われ、買い物が終われば外食をして帰ることがほとんど。

デパートの屋上遊園地に行ける日はどんな時だったんだろう。時間に余裕があって、お天気が良くて、そして両親の心に余裕がある日だったに違いない。

幼稚園で友達から聞かされる週末や連休の楽しかったことの報告は、諦めを知る前の子どもには苦しい。先生方も週明けには必ずこんな質問をするものだから、用事がなければ、親が忙しく働いていたら何を話せばいいんだろう。声高らかに遊園地や観光地の名前を出す子どもの笑顔とは裏腹に、明らかなる嘘をつく子だっている。正直に話したら、家の中の様子しか言えないのだから。考えてみたら絵日記や週明けの報告は遊びに行ける前提で提示された先生たちのエゴにも見える。最近はこんな質問をしていなければいいけれど。

やっと屋上遊園地に行けた日、小さな窓がある建物で、父がお金と引き換えに紙の綴りを手にしていた。これがどうやらきっぷの代わりらしい。

遊園地で一番混雑していたのは新幹線ののりものだった。普段デパートに買い物に来た時、建物の入り口から屋上を見上げると、楽しげな親子の歓声がキャーキャー聞こえて、今日は行けるの?って聞いてみたい気持ちをグッと押さえて我慢していた。今日はもう遊園地にいるんだから、新幹線に乗れるのを楽しみにして列に並ぶ。

屋上の端の方に位置する新幹線の乗り物は思っていたよりもスピードが速い。柵ギリギリを走り回る白いボディに青のラインが入った乗り物は、私にとってほんものの新幹線よりもほんものだった。

列が一気に進み、人が入れ替わるとまたスピードを上げて走り出す。確かシートベルトなんてなかったような新幹線。次は自分があの動きに身を任せる番だと思うと緊張が募る。

家族みんなで乗った新幹線、お父さんの隣で安心できるはずなのに、はじめてのスピードと、柵を越えて屋上から飛び出してしまうんじゃないかという不安がリミットを振り切って。

気づいた時には「おろして―」と泣き叫んでいた。

あんなに楽しみにしていた新幹線、屋上遊園地。

***

初任給で買ったネクタイをこっそり父のクローゼットの引き出しにしまおうとして見つけた、使いきれなかった紙の綴り。見つけた瞬間にあの時のことが蘇って。

お父さん、いつかもう一度行こうって思っていてくれたの?

父と母の想いとちいさかったころの私の後悔がないまぜになり、今も残る棘。


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