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きらきら

狭く閉ざされた箱庭、何を見ているのか分からない大人たちから訳もなく監視されている毎日。日々脱獄が許される時間を心待ちにしている私。足早に部屋を出て、耳から魔法をかける。
昼間慌ただしく動く工事現場は廃墟のようにしんと静まり返り、帰宅途中の自動車のヘッドライトは流れ星。橋の下には不気味に光る水面。見慣れているはずなのに、吸い込まれそうで目を逸らしてしまう。頼りない街灯の光は地面に溶けていき、人気のない道をリズムに合わせて歩いていく。
魔法は私の濁ったフィルターを浄化してくれる。数多の出来事のせいで荒んだ心に、すっと入り込んで優しく癒してくれる。どうやら、有線イヤホンが届けてくれるものは音楽だけじゃないらしい。
見上げれば、煌々と光る月が昇っている。割ったらたくさんの星屑がぱらぱらと降ってきそうな、丸い月だった。
月は見守ってくれているのか、見て見ぬふりをしているのか。狭い世界を生きている私たちには何もわからない。

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