その20 ◆ステップ10 彗星への旅 10.devote (何かのために) 【ココロの救急箱】

宇宙船の窓に、彗星が大きな悲しみの涙のような、喜びの涙のような跡を残しつつ、美しい姿を残します。
 そして、控えめで、ひたひたとせまるような音楽があたりを包みました。
 ピカリィは、これが最後とばかり、ありったけのメッセージをみんなに伝えます。

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♪♪♪《ココロの救急箱》 10.devote(何かのために)

 なにかのせいで、あいつのおかげでと、魂がダークサイドに堕ちそうなら……… 
 逃げろ、守れ、カラダ感じて、自然信じて!!
 自分から、逃げろ!!
 自分を、守れ!!
 頭に血が上るのおさえ、カラダ感じて、自然とまじわって!!

 魂がダークサイドに堕ちそうで、どんどん暗いパワーがたまっていったら、
 思考が固まって、どんどん暗い情動が高まっていったら
 いずれ自分か、ほかの誰かを傷つける
 自分をひどく傷つけると、それでまわりの人もひどく傷つく
 ほかの誰かをひどく傷つけると、けっきょく自分もひどく傷つく
 どくどくココロの血があふれだし、魂はまっくろになり暴れだす
 ダークサイドの暴走、それはその時はよくても、魂にとってはトラウマ
 光と闇のジレンマ、とりかえしのつかない最悪のドラマだから、
 悪い影響をおよぼす場所や人からなるべく離れ、逃げて、自分守って!!

 ダークサイドの自分は、汝自身の最大の敵
 かなり知的で魔的で猟奇的で自滅的なモンスター
 なんとか腐った気持ちどこかにあずけて、おびえてる自分の魂をたすけて

 魂がどす黒くなるスピードはとてもはやくて、手ごわい
 そのパワーは、荒くて、しぶとくて怖い
 なんとかしてふりはらって、逃げ切って
 自分をまもれるのは、自分しかいない
 自分をまもるつもりがないヒトは、どうやっても誰にも救えない
 どろどろのダークサイドのパワーを使い続ければ、どんどん魂はへばって縮こまる
 とても困る、手に余る、そんな時にはダークでつごうのいい考えしか浮かばない

 だから、よけいなことしたり考えたりする前に、ダークな考えに染まりたい自分から逃げて!
 頭ばかりに血が行かないように、なるべく魂を素にもどすために
 動物の自分、肉体を感じて
 大地とつながり、自然とたわむれて
 ヘルシーな食事を口にして、シンプルな自分取り戻して
 そしてココロを、なんとかまぎらわせ、
 まよわずに、あかるいほうへと進ませて

 今がつらくてひどい状態なのは、はずかしいことじゃナイ
 ひとりで抱え込むのは、悲しいことでしかない
 信頼できる人に、たくさんヘルプをもとめ、あがいて
 必要な時には光の存在もとめ、ココロひらいて
 どんなトキでも、魂は幸せになりたいしココロを助けたいし、役目をまっとうしたい
 どんなトキでも、あなたは幸せを求めていいしココロは強くなれるし、葛藤に打ち勝てる
 それを信じてほしい、そしてわかってほしい

 ………ピンチになったら、逃げろ、守れ、カラダ感じて、自然信じて!!
 そして、今までのステップでできそうなこと、効きそうなことぜんぶ試して!!
 魂のダークサイドに栄養をあげないで
 一番尊いあなたの宝物、魂をドブに捨てないで!】

 いつになく切実なピカリィのパフォーマンスが終わり、みんなは圧倒されながら拍手をしました。
「すごい迫力だったよ、ピカリィ。でも、魂のダークサイドと戦うのって、たいへんそうだね」
 まだ小学生のケンタは、ちょっとよくわからない、という顔です。
「ああ…………」
 パパは、うめき声をあげました。
「ダークサイドかあ。そういや、思い当たるよ。ダークサイド、こわいな」
「そうね。こわいけど、すっごい勢いで血迷っちゃう、嫉妬や憎悪や絶望たち。そんなギリギリの状態から抜け出すには、どうすればいいの?」
 ママがたずねます。

『それは人それぞれ、ケースバスケースだヨ。環境を変えるしかない人も、生き方を変えるしかない人も、ひたすら休むしかない人もいる。ただ、自分をまもれるのは、自分しかいナイって、ちゃんと理解してほしいヨ。なにかおかしいと思っても自分を守るどころか、むしろ、やけになってボロボロになる人、たくさんいル。ちゃんと、逃げて守って、カラダ感じてほしいヨ』

 ピカリィの言葉に、マコは首をかしげます。
「あのね、私、逃げろ、守れ、まではわかるんだけど、カラダ感じて、自然信じて! っていうのはよくわからないよ。どういうこと?」

『それはネ。ずっと頭にだけエネルギーを送って悶々とダークサイドのパワーを使い続けていると、魂はほんと、へばってカチカチに縮こまってしまうんだヨ。思い詰めて爆発しないよう、アタマじゃなくカラダに健康的なエネルギーを流してほしイ。散歩するとか、ストレッチ、マッサージ、素振りや腕立て伏せ、ゆっくりお風呂に入る、なんでもイイから、肉体を感じてほしい。肉体的なつらさは、魂のつらさを救うこともあるヨ。そして、大自然の中では魂の毒素は自然と浄化されていく。海や山のパワーは偉大だヨ。それが無理でも、深呼吸しながらきれいな場所の映像を見たり、そこを歩いている自分をイメージしたり。生き物としての自分のスタート地点を思い出せるとイイ』


「うーん…………」
 マコが考え込みます。
「煩悩を消すために座禅とか、滝に打たれるとか山にこもるとかも、それと同じようなんな感じ?」
『そうかもネ。魂が浄化の方法はいろいろあると思うヨ』
「いろいろねぇ。じゃあ、こんなのは? 私の知り合いの話なんだけど、その子、すごいのよ。そもそもは、恋人を親友に取られちゃって、ものすごいショックで」
「あら、それって最悪ね。人間不信になるわぁ」
 ママが口をはさみます。
「そうなの。それでその子、めちゃくちゃ落ち込んでたんだけど、突如として、長年の夢だった、サーフィンに打ちこみはじめたの。もともと得意ではあったんだけど、恋愛のエネルギーをぜんぶ打ち込んだっていうか。それで次の年、ハワイの大会に出て、なんと、ギリギリ入賞しちゃったの! もう、びっくりよ。それまでは、たしかにちょっとうまかったけど、そんな大会にでるようなレベルじゃなかったのに!」
 マコの言葉に、パパはうなります。
「そりゃすごいな。悲しみから一転、最高の気分だったろうね。運動すると心がカラッポになって、夜はぐっすり眠れるようになるかもしれないし、鍛えられた筋肉からは、気持ちを明るくする物質が出てくるって、パパも聞いたことあるよ」
 でも、とママは疑問をぶつけました。
「ふつうはなかなか無理よねえ。運動するって、けっこう気力も時間も必要だし。そもそも体調が悪かったり、つらい目にあっている人にはそんなの無理よ。がんばろうとして、へばっちゃっても逆効果だし」

『そうだネ。体調もあるし、向き不向きも、タイミングもあるネ。そして、カラダを感じるのでも、自傷、たとえば拒食症とか大酒を飲むとかは、ほんとの自殺よりはマシだけど、やっぱりカラダもタマシイも傷つくヨ。そんなカラダの感じ方をするくらいなら、誰かに助けを求めたり、何かゲームをやったリ、気が済むまで一人で歌ったり、読書とか旅に出るとか、なんとかほかの手段でアタマをまぎらせてほしイ。そして、せっかくコミュケーション能力のある人間として生まれたんだから、つらい思いをぎゅっとひとりで抱きしめたまま闇にしずんだり、人をまきこんで自爆するのはやめて。べつに、スピリチュアルな世界とかピカリィのことを信じなくてもいい、ただ自分の幸せと魂だけは信じて、大切にしてほしいヨ。…………それを信じられず、ダークサイドに堕ちて暴力や復讐のためにカラダをきたえたり、強い武器を手に入れたり、強くなれる錯覚のために薬物に頼るようになってしまったら、光に包まれた側に戻ってくるのはなかなか難しいヨ。なにか致命的なことをしでかしてしまう前に!! あがけるだけあがいて、必要なら専門家やドクターのアドバイスもらって、助け求めテ』

「そうだな。余裕がない時ほど、それに気がつかないといけないな」
 しみじみうなずくパパに、ピカリィがさみしそうに言いました。

『ピカリィの仲間たちは、ひっきりなしに、肉体をうしなった魂たちを、宇宙に流れるおおきな生命の光る輪の一粒になるようにつれもどしにいくんダ。そのとき宇宙から今まで自分がいたところを眺めると、みんな、すごい偶然とチカラのおかげで、たまたま自分は一瞬だけ地球に存在できていたんだ、って思い出してびっくりする。でも、そこで気づいても、魂にはもう、どうすることもできないんだヨ…………』

 ぎゅっと縮こまった四つ葉のクローバーのようなカタチになっていたピカリィは、しばらくぶるぶるふるえながらやわらかな光をはなっていましたが、やがて少しずつ、もとの姿にもどってきました。

その21.◆そして、帰還へ

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