ランダム小噺「雑草魂」

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 高校の頃ブルース・スプリングスティーンが大好きだった。もしかすると中学生の時から聴いていたのかも、そこのところ記憶が曖昧である。好きになったきっかけは「We are the world」の中で一際輝いていたからである。当時はサブスクで音楽を聴くことはなく、近所のTSUTAYAに行ってはCDを借りて聴き惚れる毎日だった。スプリングスティーンの曲で一番よく聴いていたのは3枚目のアルバム「Born to run(邦題は「明日なき暴走」)」である。一番有名な曲なのではないかと思う。

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 このジャケット写真がカッコ良すぎて大好きで、一時期携帯の待ち受けにしていた。ちなみにこの写真が撮られた時のスプリングスティーンの年齢が今現在の自分の年齢と一致するのが信じられない。貫禄がありすぎる。

 サビの歌詞にこんなフレーズが。"Cause tramps like us, baby we were born to run" この曲の一番の盛り上がりの部分である。この'tamps'という単語は放浪者と訳されることの多い単語だが、私が見た歌詞カードでは「根無草」という訳語が当てられていた。高校生の私にはこの表現が大変カッコよく聞こえたものだ。

 根無草と雑草は同じものではないのかもしれないが、この歌には根無草たちの雑草魂を奮い立たせるメッセージが込められていると感じた。「俺たちみたいな根無草は、走るために生まれてきたんだ」そうボス(スプリングスティーンの愛称) が語りかけてくれているような気がして、不安定な受験期に大変励みにすることが出来た。不安になっても仕方ない、突っ張って行こう、前向きに走ろう、と今でもこの曲を聴いて奮起することがある。自分を奮い立たせてくれるのはこの曲とレミゼラブルの「民衆の歌」の二つである。

 そんなこんなで私はブルース・スプリングスティーンが好きなのだが、今年なんと彼の曲をfeatureした映画が上映された(「カセットテープ・ダイヤリーズ」)。まだ映画館に足を運んではいないが、鑑賞した後は是非noteに感想を書きたいと思っている。

 もう一つ、高校時代に出会っていた根無草がある。2011年から一年間ほどモーニングで連載されていた「デラシネマ」という昭和の日本映画を舞台にした漫画である。連載当初から読んでいた漫画だったので、結構思い入れも強く大好きな作品だった。何より当時の日本映画の雰囲気について少し詳しくなることが出来たと思う。この漫画のタイトルはフランス語のデラシネとシネマの’カバン語’である(モジった言葉のことをカバン語と呼ぶのを最近知った)。デラシネはフランス語で「根無草」という意味である。

 名前の通りストーリーは役者志望と脚本家志望の駆け出しの若手二人が業界の監修に揉まれながらも夢を諦めずにトップを目指す物語である。全巻合わせても8巻なので、興味がある人は読んで欲しい。

 とまぁこんな訳で高校時代にこの二つの’根無草’に触れ、雑草スピリットを培ったものである。というか昭和なおじさまな先生たちはこの辺の感じかなり好きだったよね、努力根性、歯を食いしばるみたいな話が。柔道を習った時も嘉納治五郎の「なにくそ根性」話を結構聞いたものだ。

 ちなみに雑草魂が日本で流行したのは1999年で、野球選手である上原浩治の座右の銘だったらしい。あまり野球には詳しくないが、雑草魂を座右の銘にするくらいだから、不遇な境遇の方だったのだろうと予想される。

 ちなみに少し生物学的な視点から雑草を見てみると、雑草は他の植物との競争に弱いとも捉えることができる。「あんなところにも雑草が生えているよ」というのは何も雑草がその場所を好んでいる訳ではなく、競争相手がいない場所を探し求めていたら辺鄙な場所にたどり着いただけのことだ。辺鄙な場所に生えてい雑草も本当はもう少し堂々と日の当たる場所に生えたいのかもしれない。そう思うとこの’雑草魂’という言葉に深みが出てくるような気もしてくる。

 なにくそ根性で頑張りすぎると現在はすぐメンタルを病んで潰れてしまう。雑草のように競争とは遠いところでひっそり生きていくのも立派な雑草魂だと私は思う。

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