ランダム小噺「蛇腹」
蛇腹を一番多く見たのは水煙草屋で働いている時だ。水煙草で使うプラスチックホースが蛇腹の形状をしていたためである。いいシリコンホースなどは蛇腹でなく、真っ直ぐした形状なのだが、私は安っぽいプラスチックホースの方が蛇腹のおかげで取り回しがしやすいと思っていた。
蛇腹といえば、昔テレビか何かの衝撃映像で蛇がたくさんいる部屋に人が入っていく動画を見た。一瞬で蛇に噛みつかれそうな状況だが、なかなか蛇は噛みつきにいかない。なぜなら部屋の床に仕掛けがあって、蛇はガラスの床の上にいるからである。
蛇腹という言葉の通り、蛇のお腹は段々状になっていて、地面にお腹をひっかけることで進んでいく。ところがガラスの床だと蛇はお腹を地面に引っ掛けることが出来ないので、噛みつくどころか進んでいくことも出来ないという仕掛けだ。
この知識を昔上野動物園で大学の後輩相手に披露したことがある。そこそこ受けが良かった。出来た後輩である。なんでも上野動物園に来るまでにライオンやキリンのような動物は見たことがなく、いちいち感動していた。ここまで動物園を楽しむ大学生も珍しいなと当時思ったものだ。
蛇といえば、昔オーストラリアの動物園に行った時にたくさん見た。オーストラリアは爬虫類の宝庫である。頭が真っ黒のブラックヘッドスネーク(正式な名前は忘れてしまった)が、印象に残っている。蛇は変温動物なので、頭を温めて血液を循環しやすいように頭だけ黒く進化したらしい。絵具で塗ったような姿が印象的で生命の進化の不思議を感じた。オーストラリアの動物園は本当に特徴的な生き物が多いので、いく機会がもしあるなら是非行ってみてほしい。ちなみにシドニー市内の動物園ではコアラと記念撮影するのに20ドルほど取られるが、シドニーの街を少し離れた動物園に行くと無料で写真が撮り放題の場所がある。コアラと記念写真を撮るのに20ドルも払えないのでネットで探して無料の動物園まで足を運んだ。
蛇の思い出は他にもある。子供の頃中国で蛇の血のスープや蛇肉を食べた気がする。カエルも料理として出てきたが味はあまり覚えていない。気持ちが悪くてあまり箸を付けなかったのだと予想する。その分、蛇やカエルを市場で買った記憶だけはっきりと記憶している。今もどうだか分からないが、小学生の頃の中国はあまり発展もしていなくて大分ワイルドな市場があちこちにあった。そこで蛇を一匹買うと黒い袋に市場のおばさんが乗せてくれる。そしてなんと、おばさんはでかいハサミを取り出して蛇の入った黒袋をざくざくと切るのである。子供には十分すぎる刺激だった。味も料理も覚えていないが、黒袋がざくざく切り刻まれ、袋の中の蛇の動きがだんだんと弱っていく映像は今でもありありと思い出せる。当時チンギスハーンの伝記を読んでいたので、その蛇の調理の仕方がジャムカの処刑を連想させた。
ジャムカはチンギスハーンの親友であったが、チンギスハンことテムジンが領土を広げる最中に関係が冷えて最終的には敵対してしまう。最終的にはジャムカは自身の部下に捕縛されテムジンの前に引き渡されてしまうのだ。長年の親友であったジャムカを処刑するのは忍びなく、延命措置を取ろうとするも、ジャムカ本人がそれを拒否してしまう。泣く泣く処刑せざるを得ないテムジンはジャムカを麻袋につめ、馬の大群に踏みつぶさせて処刑する。血を流す場面を人に見られないように、テムジンなりに配慮した処刑だったらしい。
幼い頃の親友を戦争がきっかけで敵対し、最終的には馬に引いて殺すという物語は小学生だった私には大変悲しい物語に映った。同時に物語として美しいとさえ今では感じる。確か最近チンギスハーンの話を元にした漫画が何処かで連載されていたが、まだ読めていない。ジャムカが登場してくるのか大変気がかりである。
項羽と劉邦、テムジンとジャムカのような二大巨塔が登場する物語が大好きだった。もちろん三国志やキングダム(春秋戦国時代)のような入り乱れる話も好きなのだが。それ以上に二大巨塔の話はどちらかが最終的に倒れてしまう儚さや、互いに殺し合いながらも互いに尊敬しあっている、友情を感じてすらいるという雰囲気があり、味わい深いものなのだ。
蛇腹の話から大きく外れてしまった。次に蛇を食べる機会がある時はまたジャムカに思いを馳せたいと思う。
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