【番外編】長崎・五島キリスト教会巡礼の旅

私は、2002年3月、陸上自衛隊九州補給処長に着任した。九州補給処は、九州防衛を担当する西部方面隊の隷下部隊で、平・有事を通じ西部方面隊に対し燃料・弾薬・食糧・被服などの補給や武器・装備品の整備などの後方支援業務を行う部隊である。

 着任した年の秋、五島列島防衛のための現地調査・研究を福江島で実施した。現地研究とは、現地をくまなく歩いて、机上で作成した防衛作戦計画の妥当性や問題点などを研究するフィールドワークのことである。

私は、五島列島最北端の宇久島で生まれたが、同じ五島列島の最南端に位置する福江島を訪れたのは初めてだった。福江島の気候風土は宇久島に酷似しており、まるで故郷に帰ったような気がした。

福江島を軍事作戦的な視点からくまなく視察していくうちに、同島には教会が多いことに気づいた。旅行パンフレットによると66個の教会があるという。福江島だけでも、福江教会、堂崎教会、水之浦教会、楠原教会、井持浦教会、貝津教会などがある。どの教会も信者の篤い信仰心に支えられ、手入れが行き届いていた。教会の近くには十字架のデザインのあるキリスト教徒の墓碑が海を見下ろしていた。

福江島から小値賀島にかけて五島全体に教会は存在するが、例外的に私の故郷の宇久島だけは教会が存在しない。恐らく、長崎市に最も近い福江島から始まり、北上して布教がなされたのだろうが、宇久島に福音が伝わる直前に江戸幕府から禁教令が出されたのだろう。

話は変わるが、九州防衛を担任する陸上自衛隊西部方面隊にとって約2500にも及ぶ離島防衛は大きな課題である。因みに、これらの島の中で人が住んでいるのは191の島のみで、全体の1割にも満たない。

離島防衛の見地から見れば、昨今の少子化・人口減少の傾向の中で、これらの有人島が無人島化することは何としても阻止しなければならない。無人島化すれば、いつの間にか第三国人が不法に上陸し定住してしまう恐れがある。更に考えれば、第三国の軍隊が不法に占拠する事態も、有人島よりもリスクが高いと考えられる。

このような観点から、私は二つの「無人島化阻止のための施策」を考えた。
その一つが「九州離島屯田兵制度」(別の稿で紹介)、二つ目が今から述べる「長崎・五島キリスト教会巡礼の旅」である。

「長崎・五島キリスト教会巡礼の旅」施策の要点について述べる。鎖国時代には、唯一の異国文化を覗ける「窓」で、大浦天主堂や浦上天主堂のある長崎市を起点に、客船で海を渡って福江島に至り、そこから徒歩と小船で五島列島を北上して最北端の宇久島に到達、引き続き船で平戸島に渡り、田平町、佐世保市を経てハウステンボスから島原半島を一周し、再び元の長崎市に戻る巡礼コースを想定している。

この巡礼コースに、に旅人の流れ(FLOW)を作ることにより、五島列島の無人化を防ごうというアイディアである。

このアイデァアには、江戸時代に命懸けで隠れキリシタン達が守り通してきたキリスト教の歴史・文化を広く国内外に知らしめ、発展させたいという願いも込められている。幸いにも、2018年6月30日、第42回世界遺産委員会において「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産登録」が決定した。

もとより巡礼者は日本人のみを対象とするのでは広く日本やアジアのみならず欧米等全世界からの来訪者を期待するものである。この巡礼の旅を定着させるためには、国、長崎県、関係市町村、教会組織及び旅行業社などが忍耐と知恵を分かち合わなければならないだろう。

この巡礼コースの中で、宇久島を除いては、歴史を経た素晴らしい教会が存在している。関連資料によればその数は133に及ぶ。然らば、私故郷の宇久島はこの巡礼コースから除外すべきか。それでは困る。僭越ながら、主が私を僕として使い、多くの方々の賛同・参画を得、宇久島に教会を建立させてくださる日が来るのを願っている。

断っておくが、巡礼者はコマーシャリズムに踊らされ、美酒・美食を求めて旅行するのではなく、命懸けで信教を守り抜いた古の隠れキリシタン達の霊魂と今に生きるその末裔達との心の触れ合いを尊ぶ事を本旨とすることが大切だと思う。

そのモデルとして、四国八十八箇所の巡礼や中近東のキリスト教・イスラム教の巡礼制度を研究する必要があろう。


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