見出し画像

金子勇とWinnyの夢を見た 第18話 デジタル・コンテンツ(放送・ゲーム)

※この記事は、Advent Calendar 2023 『金子勇とWinnyの夢を見た』の十九日目の記事です。

放送

マクロビジョン

 VHSやDVDで一般に販売されているビデオソフトには、マクロビジョンというコピーガードが施されています。通常の再生では問題ありませんが、RCAケーブルを使用してアナログ信号でダビングしようとすると、画面が酷く乱れてしまいます。

 米Macrovision社(現 TiVo)が開発したマクロビジョンは、映像入力の補正回路として組み込まれたAGC(オート・ゲイン・コントロール)を誤作動させ、コピーできないようにしています。しかし、信号を正常に直す画像安定装置を利用するとダビング可能になりました。

 市販のソフトには、このようなチート技を利用したコピーガードが掛けられましたが、テレビ番組を録画したVHSビデオ、DVDビデオについては、2004年までコピーガードが適用されていませんでした。

デジタル放送

 2000年12月1日11:00から、BSデジタル放送が開始されました。画像はMPEG2-TS、音声はAACでエンコードされ、解像度は最大1920x1080のフルハイビジョンでしたが、2018年1月14日にNHK BS1と民放5局は1440x1080 に変更されました¹。NHK BS2は1920x1080でしたが、2023年11月末で停波となりました。BS1はBS2Kと名称を変更し、解像度はBS1の時と同じく1440x1080です。

 2003年12月1日11:00から、東京、名古屋、大阪の3大都市圏でNHK、民放は地上デジタル放送を開始しました。2006年12月1日には、全ての県庁所在地および近接する市町村で放送が開始し、20011年8月24日正午に完全移行となりました。エンコードはBSデジタルと同様にMPEG2-TSとAACですが、解像度は最大1440x1080です。

コピー・ワンス

 最初は録画した番組をコピーすることが可能でした。しかし、デジタルコンテンツの劣化のない複製が流通することを防ぐため、2004年4月5日にBSデジタル放送及び地上デジタル放送の殆どの番組にコピー・ワンスが適用されました。

 コピー・ワンスは、録画した番組を複製できなくする仕組みです。録画する行為が1回目のコピーと見なされ、録画した内容を1回だけ他の媒体に移せます。ただし、その場合は元の媒体から移した内容が消えてしまいます。

ダビング10

 しかし、これではなにかのトラブルで複製に失敗した場合、全て消えてしまう可能性があります。そこで、地上デジタル放送、衛星デジタル放送は、2008年6月2日からダビング10に変更されました(外部チューナー経由での録画や、WOWOWなどの有料放送を除く)。

 ダビング10では、9回のコピーと1回のムーブ(移動)が可能です。

CPRM

 デジタル放送は、DVD/BDレコーダーでDVD/BDにコピー・ダビングすることができますが、「コピーワンス」「ダビング10」の制限により、再度コピーすることはできません。

 このコピー制御の仕組みはCPRM (Content Protection for Recordable Media) と言います。ディスクに刻まれた「メディアID」を使って制御されており、デジタル放送のダビングは、CPRM対応のDVD/CDに限られます。

深夜アニメ

 キー局で深夜時間帯に放送されるアニメは、地方局では全く放送されなかったり、長く待たされたりしていました。当時はテレビ番組をネットで視聴するサービスはありませんでしたので、地方局での放送が待てない場合は、VHSテープに録画された番組をツテを頼って送ってもらうしか方法がありませんでした。

 しかし、放送番組をパソコン上でデータ化できるようになり、インターネットが普及することで、共通の趣味を持つ者同士がデータを共有するようになります。当初は、仲間内だけでこっそり楽しんでいたのですが、WinMXやWinnyの登場で、不特定多数との共有が可能になりました。

 特に、1995年放送の「新世紀エヴァンゲリオン」や、「涼宮ハルヒの憂鬱」などの動画が共有され、多くの人が視聴したようです。違法と知りながらも、大好きなアニメを見るにはこの方法しかなかったということです。

 慶應義塾大学の田中辰雄准教授の論文「私的コピーは被害を与えているか:動画のケース」で、「涼宮ハルヒの憂鬱」をサンプルとして調べた結果、Winnyでの動画流出がDVDの売上を下げていないと結論づけています。

 Winny事件によって、ネット視聴できる仕組みの必要性が認識され、新たなコンテンツビジネスの試みが始まります。

【注意】CPRMを解除するフリーソフトや、有償ソフトは存在しますが、2012年の著作権法改正によって、CPRMを含むコピーガードを解除する行為は、著作権違法となっています。


ゲームソフト

中古ゲーム再販

 社団法人コンピュータエンターテインメントソフトウェア協会(CESA)は、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)社団法人日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(パソ協)と共同で1998年1月から6ヶ月の間「違法中古ソフト撲滅キャンペーン」を実施しました²。

 ゲームソフトを映画と同等の著作物であるとして、作りての許可なしに複製・転売などの二次的使用を行い、対価を得ることは、頒布権の侵害であるという主張でした。

 1998年にカプコン、コナミ、スクウェア、ナムコ、ソニー・コンピュータエンタテインメント、セガは、中古ゲームの販売をおこなうノジマやアクト、ライズを頒布権の侵害で訴えました³。

 中古ゲーム取り扱い停止に反対するゲームショップはテレビゲームソフトウェア流通協会(ARTS)を作成して戦います。

 最終的には2002年4月25日、最高裁(平成11(ネ)3484)で「中古品ゲームソフト売買は合法」の判決で終焉しました。

エミュレーター

 パソコンの進歩によって、ゲーム機の動作をソフトウエアでエミュレートさせてゲームをプレイすることが可能になります。

 1996年頃、任天堂のファミリーコンピューターおよびスーパーファミコンのエミュレーターが出現します。ファミリーコンピューターの発売は1983年、スーパーファミコンは1990年ですので、実行環境が失われた作品の存続を図るゲームマニアの有志によって開発されたと言えます。

 1996年に発売開始になったNintendo64のエミュレータは、1999年頃から現れます。次のニンテンドーゲームキューブの発売が2001年なので、まだゲーム機が現役の時にエミュレータが出てきたことになります。また、1994年に発売されたソニー・プレイステーションのエミュレータも、次世代機発売前の1999年に公開されました。

 現役機種のエミュレータが出始め、インターネットの普及が進むと、エミュレータソフトとROMイメージの両方の配布が広まっていきました。

マジコン

 マジコンとは、ゲームソフトのコピーやイメージファイルをゲーム機で起動させるために使用する機械のことです。正式名称は、マジックコンピューターで、ファミリーコンピュータ、スーパーファミコン、ゲームボーイ、Nintendo64、Nintendo DS用のものが発売されていました。

 1990年代後半には、ネットの普及によって違法ソフトROMサイトが開設。任天堂のゲームはカセットで容量が小さく、やり取りが容易だったという背景もあったようです。

 DS時代には、マジコンが2000円前後でAmazonや家電量販店で売られるようになり、社会問題となりました。「DSのゲームがタダで遊べるらしい」と違法ソフト/カセットがキッズの間で大流行しました。

 据え置きゲーム機用のマジコンは、Nintendo64のものを最後に消滅していますが、携帯ゲーム機ではゲームボーイ用やNintendo DSでは現在でも広く流通しており、マジコンといえばNintendo DS用を指す場合が多い。

 なお、2012年12月1日に改正不正競争防止法が施行され、輸入・販売を行った者には刑事罰が科されることになりました。マジコンは技術的制限手段回避装置等として、税関で輸入を差し止められます。

 2014年5月16日には、千葉県警サイバー犯罪対策課と船橋署がインターネット通販サイトを介して「マジコン」を販売した国外在住の会社員男性を、不正競争防止法違反の容疑で逮捕しています。

 著作権侵害の幇助については,Winny事件の最高裁判決で「具体的な著作権侵害を認識、認容しながら提供行為を行った場合や、例外とはいえない範囲の者が著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で提供者もそのことを認識・認容しながら提供行為を行っていた場合には、著作権侵害の幇助責任を認める」と判示されています。

 マジコン販売時に、そのユーザーの違法ダウンロード行為を認識することはできないため、具体的な著作権侵害を認識、認容しながら提供行為を行ったとはいえません。また、マジコン自体が著作権侵害行為に利用するものではない以上、著作権侵害に利用する蓋然性が高いといえません。

 したがって,マジコンの販売に著作権侵害の幇助責任と認めることは難しいと考えられます⁴。

Warez(ワレズ)

 Warez(ワレズ、割れ)とは、非合法的に配布・販売されている商用ソフトウェアや非合法な方法でソフトウェアなどをやりとりする行為のことです。

 それまでは「裏サイト」を探して入手しなければなりませんでした。しかし、インターネットユーザの低年齢化、P2Pや海外FTPなどの情報を載せた多種の雑誌の販売、ユーザー同士での情報共有を手軽に行える無料ブログの登場など様々な要因によって、誰でも簡単にWarezができる環境が整っています。

 商用ソフトには、個別にコピープロテクトが施されている場合があります。使用するためには、オリジナルにパッチを当ててプロテクトを解除したものや、解除するツールも出回ることになりますが、それらにマルウエアが仕込まれているケースが少なくありません。

違法ソフト対策

 京都府警ハイテク犯罪対策室と五条署は、2003年11月にファイル交換ソフト「Winny」を用いて著作権侵害を行ったユーザーを摘発しました。この際に公開されていたのは、ゲームボーイアドバンス用のゲームソフトでした⁵。

 任天堂は、DS違法ソフト/カセット対策として、対策基板やファームウエアの更新はもちろん、訴訟など法的手段によるDS違法ソフト/カセットの対抗措置も積極的に講じました⁶。

 2011年に発売開始となるニンテンドー3DSでは、マジコンを使って海賊版ソフトを利用した場合、その履歴がDS本体に残るようになっています。海賊版ソフトを利用した履歴があると、任天堂の修理サポートを受けることができなくなり、中古ゲーム買取業者も買い取ってはくれません⁷。

 2017年発売開始の Nintendo Switch には海賊版のゲームをプレイしていることをオンラインで検出するシステムが採用されており、検出された端末は恒久的にニンテンドーネットワークに接続できなくなります⁸。


著作権法改正(2021年施行)

 2021年1月1日施行の改正著作権法でインターネット上の海賊版対策の強化が盛り込まれていました。

  1. 侵害コンテンツのダウンロード違法化

  2. 著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化

  3. アクセスコントロールに関する保護の強化

 これまでは、音楽、映像の違法ダウンロードは著作権法上違法とされていました。今回の法改正では、音楽、映像にとどまらず「著作物全般」について、違法ダウンロードを著作権法で規制することとなりました。

 以下のサイトに詳しく書かれています。


¹『NHK BS1などBS放送の解像度が横1,440ドットに。新4K/8K放送に向け帯域削減』, 臼田勤哉, AV Watch, 2018-01-15

²『昔の雑誌から:違法中古ソフト撲滅キャンペーン(ユーズド・ゲームズ総集編)』, ドミナゴ, ドミナゴのブログ, 2022-05-27

³『テレビゲームソフトウェア流通協会』, Wikipedia

⁴『マジコンは著作権法違反!?』, 冨宅恵, スター総合法律事務所, 2016-09-16

⁵『訴訟で振り返るファミコンの歴史 ~「パックマン事件」から「ときメモ事件」まで』, 杉浦正武, ITmedia, 2004-01-28

⁶『DS違法ソフト/カセットほか任天堂と海賊版の変遷とは?』, pusai, ラジオライフ.com

⁷『マジコンや海賊版ソフトの利用歴がある中古の3DS・2DSに注意!』, ニンテンドーDS中古比較.com

⁸『Nintendo Switchでは海賊版ゲームを根絶するために強力なオンライン検知システムが採用されている』, GIGAZINE, 2018-06-22

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?