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金子勇とWinnyの夢を見た 第11話 裁判 その3 地裁判決

※この記事は、Advent Calendar 2023 『金子勇とWinnyの夢を見た』の十二日目の記事です。

2006年12月13日、2年3ヶ月に渡り、25回の公判が行われた裁判の判決が出ました。以下は、判決文の概要をまとめています。法律の知識がない私が、わかりやすさを優先して書いたため間違いがあると思ってください。他に利用する場合は必ず原文の確認を行ってください

概要

 以下の文章が、京都地裁氷室眞 ひむろまこと裁判長によって読み上げられました。

 被告人を罰金150万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは、金1万円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
 訴訟費用は被告人の負担とする。

 中身をざっくりと要約すると

  1. ファイル共有ソフトの92%が著作権侵害で使われている

  2. ウィニーもファイル共有ソフトである

  3. だからウィニーは著作権侵害を幇助している

 最後に「被告人は著作権侵害を意図的に引き起こすことを目指していたわけではない」ということが量刑の理由になっています。そこが有罪か無罪かの分かれ目として争われていたはずで、著作権侵害を意図していなかったら無罪になるのがスジなのですが。

 あまりに宙ぶらりんな判決だったため、弁護側は即日控訴、検察も懲役刑にすべく控訴しています。

 加えて正犯とされているB及びCについても、「逮捕するつもりだった人と違ってたかもしれないけど、本人が自白しちゃったから、あとから色々こじつけちゃえばいいじゃん」じゃないですか。金子さんも、この流れに乗せるつもりだったのでしょう。正犯とされた2名は、2004年3月と11月に、懲役1年、執行猶予3年が確定しています。

以下判決の中身です。


理由

被告人は、送受信用プログラムの機能を有するファイル共有ソフトWinnyを制作し、その改良を重ねながら、自己の開設した「Winny Web Site」及び「Winny2 Web Site」と称するホームページで継統して公開及び配布をしていました。そのことが、正犯BとCの犯罪を可能にし、助けた(幇助)ことになります。

補足説明

1.訴因不特定

弁護人らは、検察官が被告人の行為として特定したのはWinny2のβ版を公開した行為だけで、幇助に該当する具体的な行為が特定されていないと主張し、そのため訴因が特定されていないとして、この事件は公訴棄却されるべきだと主張しています。

 しかし、起訴状に記載された公訴事実は、被告人が公開したWinny2(そのバージョンも含む)を特定し、被告人がそれらを公開した日や、被告人自身が開設したホームページ上で公開するという具体的な方法、態様まで記載されています。したがって、幇助に該当する行為は具体的に特定されています。

2.本件公訴事実は罪とならないこと

弁護人らは、著作権法は同法120条の2で処罰される場合を除いて、技術の提供による間接的な関与行為を罰する対象としておらず、また、特定の相手方に対する行為でなければ刑法62条の幇助犯には該当しないと主張し、そのため本件公訴事実は罪にはならないと主張しました。

しかし、刑法62条1項の幇助犯の規定は、刑法以外の法令の罪についても適用され、著作権法も含まれます。また、弁護人らが主張するような制限は刑法62条には一般的に存在しません。したがって、弁護人らのこの点に関する主張は採用できません。

3.告訴の不存在

弁護人らは、本件は親告罪であり、被告人に対する告訴の事実が認められないため、本件は罪にはならないと主張しました。

しかし、証拠により、正犯者に対する告訴が存在し、これらの告訴は被告人に対しても効力を持つとされています。また、弁護人らの主張、つまり被告人に対する告訴が無効であるという主張も採用できません。

証拠により認められる事実

1.Winnyの技術的内容

2.被告人がWinnyを開発、公開し、逮捕に至るまでの経緯

3.被告人と関係者間のメール送受信の状況等

被告人の姉からのメールに、自分が作成したソフトウェアが悪用される可能性についても認識しており、その問題を避けるために必要な措置を講じていると述べています。

さらに、被告人は自分が開発したソフトウェアが法的な問題を引き起こす可能性についても認識しており、そのために自分が開発したソフトウェアの公開を停止することを約束しています。

これらのメールのやり取りから、被告人は自分が開発したソフトウェアの技術的な可能性と法的な問題について深く理解していることがわかります。

4.正犯BのWinny利用状況

5.正犯CのWinny利用状況

6.ファイル共有ソフトの利用実態等

社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)等による2004年4月の調査によれば、インターネット利用者の約2.8%(約94万9000人)が当時ファイル共有ソフトを利用しており、過去に利用したことがある人は4.3%(約145万7000人)でした。著作権者の許諾が得られていないと考えられるコンテンツは、音楽ファイルで92%、映像ファイルで94%、ソフトウェアで87%でした。

弁護人らは、この調査の方法について問題があると主張しましたが、調査は大規模で行われ、ファイル名とその内容が一致するという調査手法には特段の問題がないとされました。

Bの正犯性

弁護人らは、被告人がファイル共有ソフトを利用していたが、調査時点で特定のゲームデータファイルが存在しなかったと主張しました。また、他のパソコンを中継しただけで、被告人が直接ファイルをダウンロードしたわけではない可能性があるとも主張しました。

Bは、平成15年9月11日から同月12日にかけてゲームデータファイルをアップロードしていたかどうか直接言ってませんが、見つけたファイルをアップロードすることが楽しかったなどと言っていることから、アップロードしていたと考えるのが自然です。また、Winnyのファイル転送で中継が発生するのは4パーセント程度です。Bは同年11月27日の近い時期にパソコンのOSを再インストールしたことがあり、ゲームデータファイルが削除された可能性があります。これらの事情を考慮すると、Bには著作権法違反の正犯が成立すると考えられます。

Cの正犯性

弁護人らは、被告人が特定の映画データファイルを共有していなかったと主張しました。また、ダウンロード実験の際のポート番号と被告人のパソコンのポート番号が異なることから、ダウンロード実験の結果に疑問があるとも主張しました。

しかし、Cは同年5月8日の時点で、パソコン2台とインターネット回線を2回線用いてWinnyを利用していたと認められます。そして、同年5月8日から同年11月27日の間に、CのWinny利用環境は、パソコン2台からパソコン1台へと変化していると認められます。これらの事実から、Cの証言は信用性に乏しいと考えられます。

また、Cのパソコンが中継したに過ぎない可能性についても、Cがアップロードしキャッシュファイル化した映画データファイルが存在することが明らかであり、それらをいつ削除したかについては曖昧な供述に終始しています。これらの事実を総合的に考慮すると、Cがその時点で映画データファイルを故意に公衆送信可能な状態に置いていたと認められ、Cにも著作権法違反の正犯が成立すると考えられます。

被告人に対する著作権法違反幇助の成否

被告人は、ファイル共有ソフト「Winny」の開発と公開の目的について、捜査段階と公判段階で異なる供述をしています。

捜査段階では、Winnyの開発目的は、インターネット上での著作物の違法コピーをまん延させることで、コンテンツ提供者が新たな収益方法を開発せざるを得ない状況を作ることだと供述しています。

被告人の供述の任意性について、弁護人らは、被告人が供述した際の状況について、取調べ官が調書内容の訂正に応じなかったり、供述書が取調べ官が用意したものを書き写しただけであるなどと主張しました。しかし、取調べが3時間程度あり、途中休憩もあったこと、取調べ官が一部の修正に応じたこと、警察を基本的に信用していたことなどを認めています。これらの事情から、被告人の供述には任意性が認められます

一方、公判段階では、Winnyの開発と公開は、被告人が興味を持ったファイル共有ソフトの技術的な検証を目的としたものだと述べており、被告人が著作権侵害がインターネット上にまん延すること自体を積極的に企図したとまでは認められないとされました。

被告人が特定の意図を持っていたとする公判廷での供述は、その部分については信頼できます。しかし、この事情は、すでに確認した被告人の主観的な態度と一致するものであり、以前に確認した事実を覆すものではありません。

 よって、

  • インターネット上でWinny等のファイル共有ソフトを利用してやりとりがなされるファイルの多くが著作権の対象となっています。

  • Winnyを含むファイル共有ソフトは、著作権を侵害する形で広く利用されています。

  • Winnyは、社会においても著作権侵害をしても安全なソフトとして認識され、効率的で便利な機能が備わっているため、広く利用されています。

  • 被告人は、新しいビジネスモデルが生まれることを期待しながらも、著作権侵害が行われることを容認し、Winny2.0 β6.47及びWinny2.0 β6.6を自身の開設したホームページ上に公開し、不特定多数の者が入手できるようにしました。

  • これにより、BとCはそれぞれWinny2.0 β6.47とWinny2.0 β6.6を用いて、Winnyが匿名性に優れたファイル共有ソフトであると認識し、公衆送信権侵害に及びました。

以上から、被告人がこれらのソフトを公開して不特定多数の者が入手できるように提供した行為は、幇助犯を構成すると評価できます。

結論

よって、前記のとおり認定することができ、この限度で弁護人らの主張は採用しない。

量刑の理由としては、被告人は著作権侵害を意図的に引き起こすことを目指していたわけではなく、新たなビジネスモデルの可能性を見据えてWinnyの開発を行っていました。被告人はWinnyによって直接的な経済的利益を得ておらず、前科もありません。これらの事情を総合的に考慮し、被告人に罰金刑を科すことが適当と判断されました。

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