見出し画像

人間の命を測るアクチュアリーという職業

人間の命を測る

 自分がいつまで生きることができるのか、いつの時代においても大きな関心ごとの1つです。しかし、それを数値化する試みは簡単ではありませんでした。

グラントの死亡表 (1662)

 ジョン・グラントは、ロンドンの教会が記録した過去帳に基づいて、寿命の分布について初めて客観的な記述を行いました。1662年に出版した「死亡表に関する自然的および政治的諸観察」では、出生、婚姻、死亡に関する集団的な法則性を示しています。

ナイチンゲール(1820~1910)

 「近代看護教育の生みの親」と呼ばれるナイチンゲールは、若い頃から「近代統計学の父」ベルギー人のアドルフ=ケトレーを信奉し、数学や統計学も学んでいました。

 クリミア戦争に看護師団のリーダーとして派遣された際、イギリス軍の戦死者・傷病者に関するデータを詳しく分析し、彼らの多くが戦闘で受けた傷そのものではなく、傷を負った後の治療や病院の衛生状態が十分でないことが原因で死病したことを明らかにしました。

ハレーの生命表 (1963)

 ハレー彗星で有名なエドモント・ハレーは、1963年に「生命表」を示しました。この表では、出生から各年齢になるまでに生存する割合を推定しており、生命表に基づく生命保険の年齢別掛け金の考え方や、年金価値評価の基礎となる計算式を示し、今日の保健事業および年金運営の基礎を築きました。

 その後、チャールズ・バベッジ(1791~1871)や多くの人口統計学者によって統計的な信頼性を高めました。

 生命表は、現在生命表とコホート生命表に大別されます。

現在生命表

 一般に生命表と言う場合は、現在生命表のことを指しています。

 ある期間における死亡状況(年齢別死亡率)が今後変化しないと仮定したときに、各年齢の者が1年以内に死亡する確率や平均してあと何年生きられるかという期待値などを死亡率や平均余命などの指標(生命関数)によって表したものです。特に、0歳の平均余命である「平均寿命」は、死亡状況を集約したものとなっており、保健福祉水準を総合的に示す指標として広く活用されています。

コホート生命表

 ある期間に生まれた集団全員が死亡するまで観測し、その寿命を計測します。作成には、最も長く生きた人が死亡するまでの期間が必要になるため、約1世紀近くかかることになります。

国民生命表

 国民の人口統計をもとに作成される生命表です。5年ごとに発行される、国勢調査に基づく「完全生命表」と、毎年作成される、推計人口に基づく簡略計算をした「簡易生命表」があります。

 計算方法を説明しようと思いましたが、以下のリンクに譲ります。男性は65歳、女性は75歳をすぎると、生存数の線がどんどん真っ逆さまに落ちていくのが非常に恐怖を感じますね。人生100年時代なんて、騙されちゃいけませんよと、つい口に出てしまいます。

厚生労働省発表 第20回生命表(完全生命表)

経験生命表

 全国民ではなく、一部の統計をもとにして作成される生命表です。代表的なものとして、民間の生命保険会社の契約の死亡統計に基づいて作成される「生保標準生命表」があります。

 「生保標準生命表」は、対象が事前に健康診断をパスした保険契約者であり、国民生命表とは異なる値になります。

 最新のものは、公益社団法人日本アクチュアリー会が2018年に発表しています。この表は、生命保険料率を計算するためのベースになります。

※「標準生命表2018

公益社団法人日本アクチュアリー会

 日本でアクチュアリーとして働くことは、公益社団法人日本アクチュアリー会の正会員であることと同義語です。2015年3月時点で、正会員数は1,514人です。

 正会員になるためには、まず、一次試験の数学、生保数理、損保数理、年金数理、会計・経済・投資理論の各科目をパスしなければなりません。一度に合格する必要はありませんが、全科目パスして準会員とならなければ、二次試験を受験できません。

 二次試験は、生保コース、損保コース、年金コースのいずれかで受験します。事務津上の専門知識と問題解決力が試験されます。

 最短で2年で正会員になることができますが、試験内容は難しく、最難関級の資格として挙げられており、平均8年から9年かかると言われています。その分、平均年収は1,200万円と高額です。

マイナビニュース「アクチュアリーの年収は?試験概要や過去問についても紹介!」

アクチュアリーとは、確率や統計などの手法を用いて、将来の不確実な事象の評価を行い、保険や年金、企業のリスクマネジメントなどの多彩なフィールドで活躍する数理業務のプロフェッショナルです。日本アクチュアリー会は1899年(明治32年)に創立され、「Think the Future, Manage the Risk」をスローガンに、保険数理に関する事項に関わる公益法人として、保険業法上の指定を受け、保険数理などの専門知識を有する者の育成や責任準備金の計算基礎の検討を実施しています。
当スローガンには、「将来のリスクが多様化していく中で、アクチュアリーとしてあるべき姿を考えながら、リスクをマネージメントしていこう」というアクチュアリーの意気込みが込められています。社会が急速に変化し、デジタルトランスフォーメーションが加速する現代においても、数理の力を駆使して将来のリスクを予測するアクチュアリーは、いっそう必要とされる「社会インフラ」となっています。

公益社団法人日本アクチュアリー会


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?