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ダンスと歌で生活をたたえるラテン系ミュージカル映画「インザハイツ」をおすすめする理由

疲れてパジャマのまま朝からゴロゴロしていた日、もう午後だ、せめて映画でも見ようとAmazonで映画を選ぶ。コストコのポップコーンをレンジでチンしてベット脇へ。2本目で見たのがSpotifyの番組「POPLIFE」で紹介されていたインザハイツ。そのうち引き込まれてポップコーンがなくなっていた。2時間半の長丁場、途中で休みながらも見ている間も休憩中もずっと楽しかった。

あれから興奮冷めやらず、ずっとサントラを聴いている。調べているうちにどんどん好きが深まる。

ということで、この映画の魅力をお伝えします。

数々の賞を受賞したミュージカルが原作。

1、ほぼラテン系の人しか出てこないミュージカル

まず、これはミュージカル映画です。アメリカのミュージカルというと、白人の姫のような女性とダンディーな男性が出てくる、夢のような話のイメージです。

しかし、今回の主人公ウスナビは顔の凹凸が少ない庶民的なお顔立ち。ドミニカ出身の移民2世という設定で、実際にプエルトリコ系の移民なんだそうです。主人公以外に出てくる人達もほぼ全員ラテン系。スペイン語がたくさん出てきます。その雰囲気だけで何か他のミュージカル映画と違うと感じます。

ウスナビが恋しい故郷のドミニカ共和国のビーチ。物語はビーチでの回想シーンから始まる。

2、現実感がある街と人の描き方


舞台はニューヨーク。移民が多く住む街、ワシントンハイツ。その描写や物語の背景に現実感があって好きです。

例えば、街角の日用品店を営む主人公ウスナビは家賃が上がって店を手放そうかと悩んでいます。仲間が集う美容院も同じく、家賃が上がって近隣への移転を余儀なくされました。

さらに物語の分かれ目となるシーンに停電があります。以前、私もニュースで見ました。真夏のニューヨークで停電がおき犯罪が起きたと。同時に非常時の助け合いもあったそうです。そういうシーンが映画に出てきてリアリティーがあります。

停電の記事 映画が現実の社会問題とリンクしている魅力は町山さんの解説にも詳しい。



そして人の描き方にも納得。

例えばコミュニティーのみんなに慕われているアブエラというおばあちゃん。キューバの移民1世で、故郷の刺繍のハンカチを本当に大事にしています。「些細なことで尊厳が保たれる」と言い続けます。生活の苦しさを乗り越えるための気持ちの持ちようを表しています。

私の尊敬している人生の先輩達もこんな感じです。小さいけど自由にできる持ち物やインテリアで自分らしさを保っています。だからアブエラの言葉には頷きました。

3、故郷を思い同郷の仲間を大切するコミュニティーが鶴見と重なる


さらには個人的な理由から共感していて、私が住む横浜市の鶴見には南米系の日系人がたくさん住んでいます。親戚をたどって日本に来たため、みんな比較的近くに住んでいます。彼らは家族ぐるみで付き合ってどこにいくにも一緒。お祝いごとがあれば何家族かで集まり、小さな頃から知り合いで一緒に大きくなる。拠点となるお店もあります。そして苦労してきた1世である親の背中を見てきていることと、宗教や国民性が重なり、家族や仲間をとても大切にしていました。

うちの近所のyurishop 
ブラジルの物産品とレストラン

日本で言葉や差別に苦労しているし、アイデンティティの問題もあります。友達になった子は「私は日本人でなければペルー人でもない。日本では日本人じゃないと言われ、ペルーではペルー人じゃないと言われる」と言っていました。

ただ基本的にとても明るかったです。笑い飛ばすことの強さを知っている気がしました。そういう、日本人にはあまりない良さが映画中にも現れていました。

さらにいうと鶴見には沖縄コミュニティーもあります。沖縄にゆかりがあり鶴見にでてきて、商売したり働いたりしながら家族を増やしてきた人たち。世代が交代しても、沖縄を思い、踊りや祭りや物産店を守りルーツを大切にされています。

沖縄物産センター 


そうやって、故郷を思い同郷の仲間を大切にしながら、何世代にわたって厳しい環境の中をタフに街に根ざして生きている。そんな姿を目の当たりにして、鶴見という街は面白いなと思ってきました。

だから、映画に描かれているコミュニティーのつながりは親近感を感じるものでした。厳しい環境の中からみんなの憧れの美しい優等生(ニーナ)がでてくるあたりもまさに見てきた通りでした。

ニーナ スタンダード大学に進学するんだけど、、、

4、歌とダンスが最初から最後まで本気


もちろん、歌はノリノリ、ダンスも抜群にキレッキレ!格差を嘆いて怒っているシーンはヒップホップがよく似合いますし、陽気なサルサもあって、音楽がジャンルミックスなところも魅力です。

また暑い日に停電が続いた時に集合住宅の中庭でみんなが踊りまくるシーンは胸が熱くなります。歌うこと、踊ること、集まって騒ぐことは抵抗なんだと思いました。差別や理不尽があっても屈しない、楽しく生きていくっていうプライドが伝わってきます。

面白いですよね、プライドの表現はさまざまです。非常時に大人しく整然としていることがプライドになる文化もあれば、騒いで踊ることがプライドになる文化もあるのです。

5、監督はアジア系で、マイノリティーが活躍


こういった素晴らしい歌とダンスを、カラフルでインスタ映えしそうな画面と演出で伝えていきます。社会的な物語でもありますが映像は始終楽しいです。この映画の監督を調べてみたらはジョン・M・チュウさんです。彼がアメリカ生まれ台湾人の2世だそうです。

ラテン系移民の映画をアジア系の監督が撮っていることが面白いです。

この方です。



そういえば、「ノマドランド」でアカデミー賞を撮ったクロエジャオという監督は中国人です。アジア系の監督が第一線で映画を撮り評価されるというあたり、アメリカはさすがだなと思います。希望を感じます。

その背景には、白すぎるオスカーと批判されて以降、白人中心主義をやめマイノリティーの才能を起用せよという映画業界へのプレッシャーがあるそうです。そのことは以下の記事に詳しいです。

6、最後の違和感も忘れちゃう、マジお薦め!


ただ一つだけ文句をいうとしたら最後の終わり方です。本当にそれでいいんかい、それがハッピーエンドかい、とつっこみたくなる陳腐な感じなんです。この違和感については菊地成孔さんの連載に唯一書かれていました。絶賛する評価が多い中、視点が面白いです。


ですが、全体としては最後の違和感も忘れてしまうほど、パワフルで生活することへの愛があふれた映画でした。マジ大満足!!ぜひまだ見ていない方はぜひご覧ください。長いので好きなお菓子をたっぷりご用意ください。

予告編はこちら。


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