「まろみ」を帯びたクラークス・デザートブーツの話
「クラークス」の代表作「デザートブーツ」
ある程度ファッションに興味を持ったことのある方なら、名前くらいは聞いたことがあるのではないだろうか。
「クラークス デザートブーツ」で検索をかけると様々なモデルが出てくる。名前でパッとこなかった方でも画像を見れば「ああ、これね」と思うのではないかと思う。
クラークスのデザートブーツの魅力や性能の諸々については以下のブログ「無塩せきガソリン」様のブログがとてもよく書かれていて、素敵に紹介されているので、ぜひ読んでいただきたい。
https://www.sfg.blue/entry/2017/11/10/210547
大学時代、洋服好きの私と友人のTは、一緒のタイミングでこのデザートブーツを購入しようということになった。そして、「どの色を買うか」「どう履いたら格好いいか」について散々議論を交わした。
色は何が良いか、やっぱりサンドスエードだろう、いやいやダークブラウンもすてがたい。グーグル画像検索をしたり、実際に店舗を訪れたりしながらいろいろな話しをした。
もちろん試し履きもする。私もTも靴の中古はあんまり、というタイプだったので、いろいろな店で試し履きをする。
でも、なにか違和感がある。なんだかわからないが、格好良くない。
確かに脚の短さとかいろいろあるけど、そういうのではない。何かが違うのだ。
新品のクラークスを履いていてもなんか決まらない。この違和感はなんだろう。
インスタグラムや様々なブログを見て、私とTが出した結論は「クラークスはある程度履き込まれているけど、軽く手入れされてる、みたいのがいちばん格好いいよね」ということだった。
だからといって履かれている全てのクラークスが格好いいわけではない。
私とTは、落とし所はどこなんだろうと考えた。
最終的に私とTは「クラークスのまろみ」という言葉を開発した。これは、クレープソールのカドがとれ、履きシワがつき、全体的に履き古されてはいるけども、軽く手入れをされているクラークスである。特に大事なのはクレープソールのカドが丸くなっていることで、このソールのカドの丸みが全体の印象にかなり影響してくることがわかった。
この独特の概念「まろみ」を、文章で表現するのは困難である。上記で紹介した「無塩せきガソリン」様のデザートブーツの記事に出ている、5年間履かれたデザートブーツは圧巻のまろみ具合である。無塩せきガソリン様のブログに載っているデザートブーツを見ていただければ、ある一定の人は私とTが考えた「まろみ」の意味を理解していただけると思う。
そして、これは確かことだが、まろみを帯びたクラークスを履いている人は例外なくみなさんおしゃれである。
この「まろみ」は、実にいろいろなところから発生する。例えば、愛読され、角が丸くなった文庫本。よく履き込まれて心地よく色の落ちたチノパンやジーンズ。私の元職場の喫茶店の常連のおじいさんが着ていたラルフ・ローレンのボタンダウンシャツ。戸田競艇場でおじいさんが着ていたA-2フライトジャケット。年老いた母が毎日着用しているタータンチェックのエプロン。手練そうな登山者の履いていた革製のマウンテンブーツ。いろんなものから「まろみ」が垣間見えることがある。
こう話すと「エイジング」とは違うのか、という話になってしまうと思うが、たとえば、10年間使っていても、ピッカピカに磨き上げられたブライドルレザーの財布から、私は「まろみ」を感じない。この感覚、わかってもらえるだろうか。
そのモノが「まろみ」を得るには、日常的にそのものを使っているけど、極端に大事にしすぎない、けれどもぞんざいに扱っているわけではない、そんな、モノと使用者との、べたべたしすぎない程よい距離感と、その中から生まれた心地よい親しみのようなものが必要なのだと思う。
クラークス他、クレープソールの靴ははこの「まろみ」具合が全体の印象に非常に強く影響してくると思う。なので主題とさせてもらった。ソールのカドのまるまりかたの問題だろう。
私はそういった程よい「まろみ」を得たアイテムが大好きである。
こと靴において、ちょうどよいまろみを得た靴を見るのはそれだけで幸せである。履いている人も、履かれている靴も、心地よくリラックスして、幸せに見える。
多分人間も同じようなものだと思う。カドがとれ、新品ではないし、汚れてしまってもいるけど、たまにブラシをかけてあげる。雨などで浸水してしまったら、乾燥させて。たまには丸洗いなどもしてもいいかもしれない。
トップの画像は、私の所有しているクラークスの「デザートマリ」である。デザートブーツと違い、編み上げの仕様になっている。もう10年近く履いている。貧乏臭いが、ソールのかかと部分に、減り防止のパッドを釘で打ってある。
「クラークスのアッパーは丈夫だから、ソールさえ減らなければずっと履けるよ」と、ある靴屋に言われて、あまり乗り気ではないがソール減り防止のパッドを打ってみたが、ほんとうにこんなに履けるとは思ってもみなかった。シューレースが劣化でちぎれ、色の違ったものを今は通している。
手入れをあまりしてこなかったせいで、履きシワもひどいし、しみも多い。
この靴は、私にちょうど良いまろみを得ているだろうか。自分では、わからない。そうであってほしいと思う。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?