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ふくらむフクシ研究所vol.3トークライブ〜「フクシ」にまつわるいろんな人の話を聞いてみよう〜セッション③「ミーツ・ザ・福祉(尼崎)とはっぴーの家ろっけん(神戸)の取り組みを聞いてみよう」

文:田辺萌(たなべ・もえ)

2024年1月13日に草加市高砂コミュニティセンターの集会室にて実施された「ふくフク研vol.3トークライブ」のイベントレポート3本目。このセッションでは関西で一風変わった活動をされているゲスト2名にお越しいただき、ちょっとユニークな取り組みや裏話をお聞きしていきます。今回の聞き手は自立訓練事業所サムズアップワークスの霜田菜々実さんと、前回のセッションに引き続き株式会社ここにあるの藤本さん。「関西だからできるところではなく、生まれているものの背景や捉え方、価値観を見ていきましょう」というコメントから、セッション③スタートです。

聞き手:株式会社ここにあるの藤本遼(ふじもと・りょう)さん(左)
自立訓練事業所サムズアップワークスの霜田菜々実(しもだ・ななみ)さん(右)

清田 仁之(きよた・まさゆき) NPO法人月と風と代表理事/社会福祉士
熊本県出身。第5回詩のボクシング兵庫県大会チャンピオン。元劇団員。2006年11月にNPO法人月と風とを設立。重症心身障害ある人へのヘルパー活動と並行し、ミニマムサイズのつながりづくりに主眼をおいた活動を展開。代表的なプロジェクトは、銭湯や高齢者施設、人の家のお風呂で障がいのある人とそうでない人をつなげる『劇場型銭湯』、福祉をテーマにしたインクルーシブフェス『ミーツ・ザ・福祉』、尼崎をロンドンに!を合言葉にした古着屋『チャリティショップふくる』など。

まずは清田さんの活動紹介から伺っていきます。清田さんは2006年にNPO法人月と風とを設立され、ヘルパー派遣事業を中心に、障がい者と地域の人たちが出会うための様々なプロジェクトやイベントを展開されてきました。自身について清田さんは「なくてはならないより、あってもいい組織」と言います。不要不急で余計と思われることにこそ、面白さや楽しさがあり、そんな取り組みを通じて誰もが楽しく暮らしやすい地域にしていけたらと考えているのだそうです。

具体的な取り組みとして最初に説明していただいたのは「おふろプロジェクト」。障がい者の方と一緒に銭湯に出掛け、背中を洗ったり、湯船に浸かったりしてお風呂を楽しむという活動です。このきっかけとなったのは、障がいのある方の入浴中に、心も身体も緊張がほぐれているような、とても気持ちが良さそうな表情を見れたことだったそうです。お風呂に入るという場面では、言葉を必要としないコミュニケーションが生まれているのだそう。みんなで気持ちよさを共有し、参加者同士で達成感も感じながら「ほくほく」した表情になって帰ると言います。老人ホームや銭湯を中心として開催されていた「お風呂プロジェクト」は、気がつけば噂を聞きつけた地域の方の個人宅にお邪魔するまで広がっているのだとか。ほっくりする活動紹介に会場のみなさんの表情も緩んでいたように思います。

会場内は終始笑いが絶えず、口角が上がりっぱなしのセッション③。

次に紹介していただいたのは、2017年からはじまった「ミーツ・ザ・福祉」。障がいがあってもなくても楽しめる「福祉」をテーマとしたインクルーシブフェスについてです。清田さんは「障がいのある方は何かをすることに対して諦めていることが多い」と言います。やりたいことを伝えると、周りの人からは「どうやるの?誰がやるの?」と言われたり、否定的な反応を受けたりすることが多いのだそう。そうして段々と「やりたいことはありますか?」と聞かれても、「現状のままで良いです」と自分の夢に蓋をしてしまうと言います。そんな方々でも「ミーツ・ザ・福祉」をきっかけに、もう一度やりたいことを見つけて、実現できる場所にしたいとお話しされました。当事者の中には、「障がいがあると、みんな真面目に話を聞いてくる。障がいがあっても面白い話をしたい!」と思い、「ミーツ・ザ・福祉」を通してで新喜劇や漫才などを行った方もいらっしゃるようです。イベントを通じて、「明るい障がい者の方を見てもらい、福祉のイメージを変えたい」と想いを語られました。

Happyな暮らしを問い続ける

首藤義敬(しゅとう・よしひろ) 株式会社Happy代表取締役
週に200人が集う多世代型介護付きシェアハウス「はっぴーの家」を運営。また、0歳から100歳overまで一人一人に合った暮らしの選択肢をつくり、家だけでなく仕事とコミュニティも紹介する「おせっかい不動産」も運営する。ダイバーシティなコミュニティデザインを自分の暮らしで実践中。事業内容はマタニティアートから葬儀まで。多世代の日常を創る不動産屋。週7サウナと将棋に没頭中。昼まで寝てたい意識低い系起業家代表。

次に「空き家×多世代×まちづくり」に取り組まれている首藤さんに活動紹介をしていただきました。首藤さんが運営されている介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」には、40名の入居者だけでなく、子どもも大人も、外国人も多種多様な人々が行き来しているそう。「ろっけんの日常」とスクリーンに映し出された写真には、世代関係なく麻雀を楽しんだり、おじいちゃんがDJをしていたり、ビールで乾杯していたり。高齢で車椅子の方が「山に登りたい」と言えば、みんなで協力し合い車椅子ごと木に吊るして登ったり。一瞬自分の目を疑うような混ざり合った光景が広がり、参加者のみなさんはジッと画面に釘付けになっていました。

スクリーンには「はっぴーの家ろっけん」の日常風景が映し出されました。 まさに「ごちゃ混ぜ」な日常の一部を紹介していただきました。

トラブルは「お題」

2022年、週200人も集まっていた「ろっけん」にも新型コロナウイルスの足音が。高齢で認知症の方も多く、コロナ感染の危険性が分からない(忘れてしまう)方も多々いらっしゃったようです。首藤さんは「トラブルは『お題』だ」と考え、この期間はいかに臨機応変に最適な対応が取れるかの大喜利のようだったとお話しされました。例えば、無症状感染で施設を自由に歩けてしまう方に対しては、隔離するのではなく防護服を着てもらうなど、思考を柔軟にみんなでアイデアを出し合ったと言います。もちろん事前の準備も万全にしており、子どもたちにコロナの発生を想定したシミュレーションゲームをしてもらい、可能なアプローチを行っていたそう。その甲斐もあり、感染者が出た際もわずか2週間程度で収束へ向かうことができたそうです。

「人生を楽しくするために『お題』の中でどうするか。どんな状況でも、解決できないことでも、いかに面白くできるか。何が一番大事かを考えながら面白がり方を発揮していました」と首藤さんは言います。

今回はクラスターというお題でしたが、その他にも障がい、災害、人間関係など必ずしも解決できる問題ばかりではなく、正解のない問いが世の中にはたくさん溢れていると思います。どんな問いであっても面白がること、1人でアイデアが思い付かなければ周りの想像力を頼りながら楽しんでいくことがはっぴーに生きるためのヒントなのだと感じました。

「日常」を彩ってきたお二人のお話に、興味深く耳を傾ける参加者のみなさん。

お2人の笑いと愛の詰まった活動紹介が終わりクロストークの時間へ。どちらの活動も共通して、関わっている人の多さや多種多様な人が混ざり合っている様子が印象的でした。そこに対して「やっぱり関西だから、ノリがあるんでしょ?」と思う方も少なくはないのかもしれません。熱源となるお2人の周囲では一体何が生まれているのでしょうか。関西地域の特色なのか、どうやって周りの人を巻き込んでいるのか、人とつながる上で大切にしていることについてお話を伺っていきます。

「3割きっちり」を大切に

首藤さんは、誰かと一緒に活動を行う際に「どの時間も『3割きっちり』を大切にしている」と言います。イベントでも人との関わり方でも同じように、それぞれが大切にしていることや価値観など最低限抑えなくてはいけない部分を3割きっちり抑える。あとの7割にある余白が、真面目になりすぎず、面白さを生むポイントなのだそう。コロナのクラスターが発生した際も、3割きちんとした感染対策を取れたことでおもしろがりながらも短期間で収束へ向かわせることができたのだと感じました。

清田さんからはエピソードをひとつ。「以前、1人のおばちゃんに10時間自宅から生配信してもらったことがあって。2時間テレビを見て、その後じっと動かないの。静止画かと思ったけど、しばらくしたらトイレに行って。最終的に何にも起きなかった」と。この話には会場からも思わず笑いが溢れました。これに対し、藤本さんから「結果というより、思いつきや過程を楽しむということですか?」との質問が。清田さんは「自由に発想できるという場をつくっている。思いついたことは否定しないようにしていて。その時は思ってなくても『良いね!』って言っています(笑)。そうすることで、あそこに言ったらきっかけが掴めるかも、と思ってもらえるんです」と言います。

お二人が述べる「余白から生まれるおもしろさ」や「自由に発想できるという場」の裏には「思いついたことは否定しない」「何かあったら謝るから」という安心感が隠れているのだそうです。そんな考えを持ったお二人の周りには、大小問わず色んなアクションを起こしたり、起こそうとそわそわしたりする人たちが自然と生まれていくのだと思います。

トークをメモしている参加者の方も多くみられました。
「3割きっちり」というワードには特にみなさん反応を示されていました。

週に200人も人が訪れるというはっぴーの家ろっけんですが、首藤さんは「集まってくるイメージではなく、とりあえず自分が外に出ている」のだと言います。地域との関わり方とその継続の仕方についても、「顔が見える関係性が大切で、『◯◯さん、地域でこんなことに困ってた』と、外に出て地域に飛び込んだ際に知れることや広がることがあります」とお話しされました。魅力的なお二人だからこそ、多様な人々が自然と集まって来ていると思いがちですが、自ら地域へ繰り出し、時間をかけて顔が見える関係を築いていくことが大切なのだと言います。

まずは自分自身が面白いと思う場所に積極的に足を運んで人に出会うこと。そして、その人の「困りごと」に気づき解決策を全力で考えること。その行動が周囲の人へ熱量を伝播させ、さらにつながりが膨らんでいくのかもしれないと思いました。

感想共有&質疑応答タイム

第1・2セッションと同様に、4人程度の人とグループになり、感想をシェアします。
参加者のみなさんからゲストへ質問タイム。 以前から活動を知っていたそうで「直接お話を聞けて良かった」とお二人への感謝の言葉も聞かれました。

参加者からの質疑応答タイムでは、「やりたいことがあっても、誰に相談して良いかがわからなくて。関わりを広げていくために具体的にどうしたら良いでしょうか?」といった質問が。それに対して「先頭をきっている人に相談したり、誰かを紹介してもらうこと。ついていくキーパーソンを見つけること。場に出向いて、名刺を交換するだけでなく友達になること」と返答されます。常に行動し、人との「つながり」を大切にされているお二人だからこその説得力がありました。

まずは自分たちがおもしろがること
途中、窓を開けるほど熱気を纏っていたトークライブもいよいよ終盤に。聞き手の霜田さんが聞いてみたかったという「何これ話」や、これまで活動してきて良くなかったこと等もお聞きしていきました。最後には清田さんから草加のこれからについて、「まずは自分たちがおもしろがることが大切。『のうのうと楽しそうに生きている』人をたくさん可視化すると、自分が感じる幸せの定義ってもしかして違うかも?と思ってくれる人が増えていきます。楽しんでいない人が楽しませることはできないよ」と素敵なアドバイスをいただきました。

意見交換&対話タイム

トークライブを通して感じたことや対話したいテーマを募集し、10名程度のグループに分かれて意見交換を行いました。テーマは「①本当に届けたい人に届けるには?」「②世界中の友達を草加に呼んでパーティがしたい」「③福祉×〇〇のコラボレーションを考えよう」「④首藤さんを囲む会」の4つ。それぞれが気になる話題を選び、そのテーマにそって約30分間の交流を楽しみました。1日参加された方はかなりの長丁場だったと思いますが、そんな疲れも感じないほどに盛り上がりを見せていました。最後は全体で各グループでの対話内容を共有し、楽しい時間も終わりあっという間に終了の時刻に。

「インプットのまま終わらせず、これからみなさんとアウトプットしながら一緒に遊べたら良いなと思います」と、対話タイムの進行を担当していた株式会社ここにある大森さんの言葉でトークライブは締めくくられました。

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他セッションのレポートはこちらから!

▼セッション①「障がいのある人はどう社会と関わっているのだろう」

▼セッション②「草加のフクシを拡げてきた人たちの話を聞いてみよう」


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