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【イベントレポート】ふくらむフクシ研究所vol.3トークライブ〜「フクシ」にまつわるいろんな人の話を聞いてみよう〜セッション②「草加のフクシを拡げてきた人たちの話を聞いてみよう」

文:田辺萌(たなべ・もえ)

2024年1月13日に草加市高砂コミュニティセンターの集会室にて実施された「ふくフク研vol.3トークライブ」のイベントレポート2本目。セッション②では、草加市を中心として「ちょっと変わった」福祉の取り組みをされてきた3名のゲストの方々をお呼びし、事業をはじめた理由や背景、草加をどんなまちにしてきたか等をお聞きしました。まずはゲストの方々の自己紹介から。それぞれが福祉に触れることになったきっかけなど交えてお話ししていただきました。

聞き手:ハングオーバー株式会社の岩渕鉄平(いわふち・てっぺい)さん(左)株式会社ここにあるの藤本遼(ふじもと・りょう)さん(右)

「待ってもできないなら、自分がやるしかない」

番場智恵子(ばんば・ちえこ) 特定非営利活動法人walea代表理事
1974年9月生まれ。埼玉県草加市出身在住染色体16番異常、知的障がい最重度の娘と生活中。みんなの未来の笑顔のために娘のためはみんなのため!と生活サポート・放課後デイサービス・生活介護・就労継続支援B型と必要な支援をと突っ走ってきた。地元・草加大好き人間。障がいのある子どもたちが地域で幸せに暮らしていけるまち、誰にでも優しいまち草加になることを望んでいる。

番場さんが事業をはじめたきっかけは、重度の知的障がいを持つ娘さん。育児をする際に「必要な制度や福祉施設が少ない」という問題に直面し、「福祉施設は待っていてもできない。娘のために自分で立ち上げるしかない」との思いから、2010年に特定非営利活動法人waleaを設立。放課後等デイサービスをはじめたそうです。ないならつくるパワフルさで、新設の就労継続支援B型・生活介護の事業所ではカフェや駄菓子屋を運営し、プールまで併設したのだそう。「娘のためはみんなのため。子どもたちの笑顔のために」と語る姿は、一点の迷いもなく、これまでに困難や大きな壁も乗り越えてきたからこそ生まれる優しさと強さを感じました。

障がいがあってもなくても当たり前に夢を持てるまちづくりの追求

茂呂史生(もろ・ふみお) 株式会社ひいらぎ代表取締役/NPO法人JIA代表理事
介護を受けられない障害者をなくそうと26歳で起業。16年間にわたり障害福祉事業所を経営しながら、福祉事業開所希望者へのコンサルティングも行っている。「障害があってもなくても当たり前に夢を持てる街づくりの追求」と「日本のフクシを世界へ」を合言葉に真のノーマライゼーションを目指し、福祉を盛り上げる活動を幅広く実践。発達支援力向上委員会の立ち上げや先生と保護者とのコミュニケーションを濃厚にするアプリ『みらいダイアリー』の開発など、地域の福祉事業の品質向上に努めている。

「多様性を受け入れる世の中の実現のため」「多様性をアピールするため」といった理由で髪を伸ばしたとお話しする茂呂さん。「障害があってもなくても当たり前に夢を持てる街づくりの追求」をミッションに、2006年に株式会社ひいらぎを設立されました。訪問介護からスタートし、現在は児童発達支援や放課後等デイサービスなど、障がい福祉施設・サービス事業を幅広く展開されています。また、日本障がい者ファッション協会の理事として活動もされており、昨年は国際福祉機器展にも参加されたそうです。障がいが理由で機能性重視の服を選んだり、ファッションを楽しむことを諦めたりする方が数多く、だれもが自由に楽しむための、クールなファッションを考えているのだそう。

利用者さんの「やってみたい!」を大切に

兼子仁志(かねこ・まさし)
就労継続支援B型施設YUI WORK施設長/一般社団法人ゆぃまある理事
1995年2月生まれ。東京生まれ宮古島(沖縄県)育ち。「結ぶ福祉」をキーワードに、日々支援の現場に立つ。海外放浪中に偶然カカオと出会い、その虜に。数度に渡る渡航を経て、自宅でチョコレートをつくりはじめていた時、既にグループホームを運営していた父と意気投合し、チョコレートの就労支援事業をはじめる。現在は埼玉県草加市で、就労支援、グループホーム事業の運営、コンサルティングなどを行う。就労支援では「YUI CHOCOLATE」というブランドを展開中。

こういった場でのトークは初めてで緊張していると言う兼子さん。そう感じさせないほど、事業やチョコレートへの愛と熱量がまっすぐに伝わる自己紹介をいただきました。現在は一般社団法人ゆぃまぁるの理事兼YUI WORK(就労継続支援B型施設)の施設長をしながら、就労支援として「YUI CHOCOLATE」というブランドを展開されています。チョコレート愛の深い兼子さんですが、その出会いは学生時代の海外放浪中。フィジーのカカオ農家での仕事や生活体験の中でBean to bar(カカオ豆からチョコレートをつくるまで、全ての工程をワンストップで行うこと)の奥深さに魅了されたと言います。現法人代表で兼子さんの父にあたる、兼子博さんがB型作業所を立ち上げる計画をされていたタイミングで、「チョコレートを組み合わせられないか?」とひらめき、現在に至ったのだそう。利用者さんと一緒に都内のメーカーへ社会見学等も行い、こだわりのプロダクト提供に尽力されているそうです。

それぞれが少し違った角度で草加に福祉をひらかれてきたみなさん。事業や活動についてもっとお聞きしたいところですが、今回はいくつかのテーマを交えてお話ししていただきました。すでに福祉事業を展開されており、一見すると順風満帆のようにも見えますが、事業を通して大変だったことや、事業所を運営してみて分かった課題は一体何だったのでしょうか。課題に対してどのように取り組まれてきたのかを伺っていきました。

事業をやってみたら「壁」しかなかった

トークテーマは福祉事業で感じる課題感について。「福祉の制度は複雑だと思いますが、元々知っていましたか?実際に事業所を運営してみて分かった課題について教えてください」と、質問が投げかけられました。

福祉制度の複雑さや事業所の運営について、「これはもう無理かと思った」「課題だらけだった」「壁しかなかった」と、3名ともが事業を進める上で困難に直面したと口にされました。福祉制度や法律、規定については事業を進めながら同時に学んでいったそう。そして現在も法改正・制度変更がされているため、常に勉強し続けなくてはいけないと言います。

茂呂さんからは「地域にどうしたら還元できるのか」「地域をどう良くしていくか」について過去のエピソードも交えてお話しいただきました。

茂呂さんが福祉の世界に飛び込んだのは、高校2年生の時に体験した阪神淡路大震災でのボランティアがきっかけ。当時は仮設の入浴場をつくる担当を任され、その時に初めて高齢者や障がい者の方と関わりを持ったのだそうです。ボランティアをしている時、1人の高齢女性に「来てくれてありがとう」と、とても感謝されたのだそう。高校2年生で進路に悩んでいた当時の茂呂さんは、この出来事を高校の進路相談で先生に話しをすると「それは福祉って言うんだよ」との返答が。ここから福祉の道へ進むことを決めたと言います。

福祉について学び、紆余曲折ありながらも活動を進めてきた茂呂さん。その過程では、自身と会社の意見が合わず退職された経験や、草加との交流を減らしていた時期もあったのだとか。「日本の福祉を世界へ広げていきたい」と想いを抱いて活動をする中で、「まず自分の地域はどうなのか」「やっぱり目の前の困っている人を何とかしたい」と思い、現在まで草加で事業を展開されてきたのだと言います。

そのような経緯を持つ茂呂さんは地域福祉に対して、「福祉はみんなのものであり、みんなで地域を良くしていくためにあるはずです。制度は予算によって決まっていくので、地域で福祉を充実させていくには地域でお金を使うことが大切です」と言います。また、高齢者や子ども、障がい者など制度や分野ごとの「縦割り」に「横串(横のつながり)」を刺せるのも、地域だからできることだとお話しをしていただきました。

3人のお話しに共感して頷いたり、ともに考えたり、メモを取ったりする参加者のみなさん。

様々な困難に立ち向かい、草加という地域で事業を確立されてきたみなさんですが、地域で大切な横のつながりはどのようにして広がったのでしょう。聞き手の藤本さんから、「つながり」についてこんな質問が。

「地域に開いていこうといった意識はありましたか?」
この質問に対して番場さんは、「子どもが小さい頃から福祉に関わる仕事をしていたので、周りの方々も事業について知ってくれていました。事業所のプールもせっかくあるなら地域の子どもたちにも使ってもらおうと日曜日に一般解放していました。そうしたら自然と人は集まってくれました」と言います。まっさらな子どもたちは悪気もなく、ただ不思議がりながら利用者さんの車椅子を注視し、中にはくっ付いてくる子もいるそう。定型発達の方と交わらないような地域・社会ではなく「みんなに優しい社会に」「『ずっと住んでいたいよね』と思える街」にしたいと、熱意のこもったとても温かなコメントをされました。

兼子さんからは地域との関わり方について、自己紹介での内容を更に深掘ってお話ししていただきました。兼子さんは大学生時代に訪れたフィジーで、自分が普段食べているチョコの原料カカオが、思っていたよりも貧しい環境でつくられていたことを知ったのだそうです。「自分はたまたま日本という恵まれた環境の中で過ごしていて、大学生でフィジーまで旅行者という身分で来ることができている。ひどく貧しい環境ではないけれど、ここにいる子どもたちはきっと、自分と同じように海外へ行ったりはできないのだろう。生まれた環境が違うだけでこんなに違うのかと、すごくもやもやした気持ちでした」と。そのような考えが、今の福祉への取り組みにもつながっているのだと言います。

また、チョコレートは生産から製造まで色んな国の人が関わり、買い手も子どもから大人までも幅広く、様々なかたちで人とつながれるものだと教えていただきました。「チョコレートを通して、様々な人たちのつながりをつくることに携わっていきたいです。生産地の方々の生活をリアルに、もっと身近に感じてもられるようなものをつくりたいです」とお話しされました。地球規模でローカルとローカルが繋がる「地域社会」を実現させたいと、今後の展望についても語られました。

セッション①と同様にグループで感想共有したあとは、参加者からゲストの3名に質問が投げかけられました。

「みなさんが困難を乗り越える時、自分を奮わせるモチベーションは何ですか?」

この質問に番場さんから、「困難も良いギフトとして受け取ること。その困難があったから、今があると思います。あとは子どもたちの笑顔をみれると頑張れます。以前、私の事業所を卒業した子が、働いてもらった初任給でハンカチをプレゼントしてくれたんです。親でもないのに、卒業後も会いに来てくれたり、手紙を持って来てくれたりするんです。関わった子のその後がみれると頑張れますね」と。目では見えない人と人とのつながりを感じる素敵なお話をしていただきました。

セッションを通して、時折「工賃」という言葉が聞かれました。福祉に関わらない方はまだまだ聞き慣れない方が多いのではないでしょうか。工賃は「就労継続支援事業所で利用者に対して支払われる賃金」のことで、最低賃金が保障されていないB型作業所では月に平均1.5〜2万円程度だそうです。その少ない工賃を自分のプレゼントに当ててくれたという気持ちが何よりも嬉しかったのではないかと思います。ゲストのみなさんは「工賃を向上させ、利用者の方々をもっと笑顔にしたい。そのために本当に良いものをつくり、適切に評価される社会にしていきたい」と現在も尽力されています。目の前の1人を笑顔にするために、地域全体あるいは制度が変わっていく必要があるのかもしれないと、お話を聞いて強く感じました。

1人では解決できない事も、つながれば解決できるかも

「どうやったら、どんなリソース(人や資源)だったら課題を解決できるかを一緒に考えましょう。1人では解決できないことも、つながれば解決できるかもしれません。そんな取り組みを今草加市ではじめています。みんなで『福祉』を含ませて膨らませていけたらと思っています」と、セッション②の最後は岩渕さんの言葉で締めくくられました。

草加エリアで活動されてきた3名のゲストのみなさんは、地域のために地域とともに、困難に立ち向かいながらここまで来たのだと思います。だれもがより過ごしやすくなるために「福祉」があり、決して1人で抱えるものでも、抱えられるものでもないと感じました。この場がきっかけとなり、人と人、地域全体のつながりがもっと膨らんでいくのではないかと思える貴重な時間となりました。

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他セッションのレポートはこちら!

▼セッション①「障がいのある人はどう社会と関わっているのだろう」

▼セッション③「ミーツ・ザ・福祉(尼崎)とはっぴーの家ろっけん(神戸)の取り組みを聞いてみよう」


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