「福祉プラスのまちづくり コンセプトブック制作ワークショップ vol.1」を開催しました!
文:田辺萌(たなべ・もえ)
みんなで「福祉プラスのまちづくり」とはなにか?を考え、まちの未来を想像しながら1つの冊子をつくる、約5ヶ月(全6回)にわたる企画がスタートしました!今回は、2023年10月28日(土)に草加市役所にて行われたワークショップ第1回目の様子をお伝えします。
「ふくらむフクシ研究所」って?どんなことをやってるの?
ふくらむフクシ研究所(略して、ふくフク研)は、トークイベントや勉強会、ワークショップや地域での実験をしながら、「福」祉の世界に新しい価値を「膨」らませ、また「含」ませていくための研究・活動を行うプロジェクトです。埼玉県草加市を中心に、「だれもが幸せな」あしたの暮らしと福祉のカタチを目指す「福祉プラスのまちづくり」事業に取り組んでいます。
今年度の取り組みは大きく分けて3つ。
1.草加市内での市域調査(地域団体・企業のヒアリング)
「福祉プラスのまちづくり」事業を進めていくにあたり、草加市内の「福祉事情」について知るためのヒアリング調査を初めに実施。7月から始まり、20以上の企業・団体のみなさんから取り組みや活動から生まれた価値、草加市内の課題などについてお伺いしました。「みなさんにとっての地域共生社会とは?」といった質問も投げかけさせてもらい、多種多様な返答をいただけるのがおもしろく、もっとたくさんの方々とお話ししてみたいと感じました。また、ヒアリングを通してこれから活動をともにつくっていく熱い想いを持った方々ともつながることができ、これからの「福祉プラスのまちづくり」事業における重要な第一歩となりました。
2.「福祉」や「暮らし」についてみんなで考えるイベントの企画・運営
第1弾は9月26日に「THE COCO CAFE’s」でトークイベントを開催。東京都多摩市で駄菓子が併設された重症児者の通所施設や訪問看護ステーション等を営む「+laugh」の影近卓大(かげちか・たくだい)さんと、宮崎県三股町の社会福祉協議会内で「コミュニティデザインラボ」を立ち上げ活動されている松崎亮(まつざき・あきら)さんをゲストとしてお招きし、トークイベントを開催しました。総勢70人近くもの方にお集まりいただき、これからの草加市の可能性を強く感じ熱気溢れるイベントとなりました。こちらのイベントレポートもぜひご覧ください。
そして、今回が3つ目の取り組み。
3.「福祉プラスのまちづくり」のコンセプトブック制作
コンセプトブックとは、そのプロジェクトが目指す未来や姿、大切にしている想い、アイデアなどをまとめた冊子のこと。「ふくフク研」が考える「福祉プラスのまちづくり」のコンセプトブックは「つくって終わり」ではなく、その後も継続的に使われていく「生きたコンセプトブック」を目標としています。「みんなで創る『だれもが幸せな』あしたの暮らしと福祉のカタチを目指す『福祉プラスのまちづくり』」とはなにか?を考えるだけでなく、実験して、そこで生まれたものを記録していく。未来を膨らませるだけではなく、時に立ち返ることができる冊子をつくりたいと考えています。また、この長期間にわたるワークショップの中で、ともに考え活動する仲間をつくること、この場がきっかけとなってさらに面白い場や取り組みが生まれて膨らんでいくことも目指しています。
そんな想いが込められたコンセプトブック制作の第1回目、一体どんな場だったのか振り返っていきます。
少しドキドキの初顔合わせ
ワークショップ当日の10時、会場となる草加市役所には草加市内外から約20名の方が集まりました。今回の参加者のみなさんは市役所や福祉関係企業の職員、学校の先生、医療従事者、車椅子ユーザーなど、当事者や職業的に福祉に関わっている方が多い印象でした。残念ながら約半数の方は日程が合わずご参加いただけませんでしたが、その中にはフォトグラファーや飲食店経営者、スポーツ協会で活動されている方、大学生など、さまざまな方がいらっしゃるようです。実際にワークショップに足を運べなかった方も、このレポートから会場の熱気を少しでも感じてもらえたらうれしいです。
来場された方から、お互いのことをあまり知らない同士でグループになるよう、席についていただきました。初めてお会いする方も多く参加者さんの少し緊張した表情もみられましたが、それと同時に、これから始まる活動に対して抱くわくわく感も伝わってきました。
第1回目のワークショップは株式会社ここにあるの藤本遼さん(ふじもと・りょう)さんの挨拶からスタート。これまでの活動の経緯や、この会で大切にしたいことについてお話しをいただきました。さまざまな方や意見が混ざっていく場で、誰かひとりが強く主張したり、誰かの意見を否定したりせず、お互いが思いやりをもってみんなで良い時間にすること。そして、混ざり合っていく中で自分の意見が変化する事を楽しむこと。これからともに活動していく仲間とより良い関係を築いていくために、参加者全員で大切なことを確認しました。
藤本さんのお話しの後、まずは同じテーブルを囲んだみなさんと簡単な自己紹介。趣味や悩み事をシェアし、少しずつ笑顔も増えてきました。会場全体の緊張が少し緩んだところでいよいよ1つ目のワークが始まります。今回のワークショップは、始めに5人前後の小グループで意見交換や対話を行い、その後各グループの内容を全体で共有するかたちで進行されました。
参加者のリソースが手札に!お困りごとを解決するカードゲーム
今回参加される方には、事前に「自分がもっている、もしくは紹介できるリソース(スキル、ネットワーク、経歴、モノ、場所など)をできる限り教えてください」といったアンケートに答えていただきました。このアンケートをもとにして作成されたオリジナルのリソースカードを手札に「草加市のお困りごとを解決してみよう」というゲームを行いました。
ルールは簡単で、配られた5枚の手札を自由に組み合わせて、用意されたお題(お困りごと)をおもしろ楽しく解決するだけ。あるリソースからいかに連想して妄想を膨らませられるか、他のリソースと組み合わせてられるかが鍵となります。
お困りごと①「朝の不機嫌をどうにかしたい」
1つ目のお困りごとは参加者の中から、日常生活で困っていることを挙げてもらいました。このお困りごとは、家族と同居している方からの提案。家族の方も、朝の雰囲気があまり良くないと悩まれていたようです。「朝は苦手」「今はどうか話しかけないで」と共感される方も多いのではないかと思います。このお困りごとを解決するため、参加者のみなさんは自分の手札とにらめっこを繰り広げました。
しばらくすると「整いました!」とどこからか大きな声が聞こえ、それを皮切りに各グループで解決策がシェアされました。「よく『通る声』の『営業マン』に起こしてもらい一緒に『スポーツ施設』で運動する」「『地域を良くしたいという気持ち』をもって『松原冒険遊び場』などの遊び場づくりについて考え気分を高める」などなど。
ユニークで面白い回答がたくさんありましたが、特に盛り上がりをみせた回答は、「『消しゴム』を『軽トラック』の荷台に敷き詰めてそこへ放り込む」といったもの。
なかなかの強行突破な回答にその場からはどっと笑いが起きました。こちらのお題をいだいた参加者の方からは、ワークショップ後のランチ会で「トラックに放り込まれるのは嫌なので頑張ります」とコメントをいただきました。
お困りごと②「障がいのある子どもの遊びに行ける場所が少ない」
次のお困りごとは「障がいのある子どもの遊びに行ける場所が少ない」です。より「福祉」に踏み込んだお題が出されました。ここからワークショップの雰囲気は少し変わり、みなさん先程より真剣な表情でカードを見つめます。
一見、所有しているリソースはお題と程遠いものかと思いきや、カードの持ち主の考え方と組み合わせ次第で「そんな使い方ができるのか!」とアッと驚かされる回答が本当に多かったです。次に紹介するのはその中のひとつです。
「『特別支援学校教員』が『近所のよくしゃべるギャル』と一緒にバンドを組み、『バンド活動』をスタートさせる。これを聞いた生徒たちは、先生がなにかはじめたらしいと面白がって見に行きたくなると思います。子供たちの家族にも『特別支援学校教員』という安心感を与える事ができ、外へ出ることへの協力が得られやすくなるのではないでしょうか。そうすることで子どもが安全に楽しめる場を、周囲を巻き込みながらつくっていけると思います」
「近所のよくしゃべるギャル」や「バンド活動」は、それぞれ単体だと今回のお困りごと解決への糸口は見つかりにくいです。しかしそのリソース同士の掛け算の先になにが生まれるか、広い視野と豊かな発想をもって柔軟に考え、想像していくことが問題解決につながるのだと思いました。また、課題の中心である「子ども」の安全と親の安心(特別支援学校教員)を確保した上で、好奇心をくすぐるような仕掛けをすること(先生が筆頭となるバンド活動)が場をつくる時に重要だと感じました。想像上なのにも関わらず、現実的に捉えることができるのは、考える材料が「この場にいる誰かのリソース」だからなのだと思います。
また、このゲーム中に「私、これもってるよ」「このカードも使えないかな?」とひとつの回答に対してそこから次のつながりが生まれる場面が多くあったことも印象的でした。例えば2つ目のお題では、「『特別支援学校』の子どもたちみんなで『スノーボードインストラクター』と一緒にアウトドアを楽しんでみる」という回答に対して「『障がい者スポーツ指導員』がいればもっと安心して遊びにいけるね」といったように連携が生まれました。1人では力不足でも、人と関わりつながっていくことで実現可能なことがあると、期待を膨らませる事ができたのではないでしょうか。
ゲームは終始和やかな雰囲気で進み、2つのお困りごとが解決されました。会場全体の熱気が高まってきたところで、会場スクリーンにはコンセプトブック制作の初回テーマである「地域共生社会」に関する問いかけが映し出されました。
「みなさんにとっての『地域共生社会だ』と感じたエピソード・景色を聞かせてください」
今回は第1回目のワークショップということで、この活動に取り組むメンバーそれぞれが「地域共生社会」について改めて考え、全体でイメージを共有することに重点が置かれました。年齢や職業、役割、経歴、異なる背景をもつ方々が集まっているため、決して全員が同じ価値観ではないはずです。しかし、「草加市をもっと良くしたい」「福祉をまちに開いていきたい」「だれもが幸せな明日になって欲しい」という共通の想いや課題意識をもって集まったメンバーだと思います。それぞれが考える「地域共生社会」のイメージや想像する未来がどんなものかを知ること、その違いを共有し受け止め合うことが、第1回目として重要だったように思います。
約10分間、個人で考える時間が設けられ、それぞれが思う「地域共生社会」のエピソードを紙に書き出しました。抱く想いはみなさんさまざまだと思いますが、その表情は全員が共通して温かみを含んでいるように感じました。
「楽しい」という感情は言葉が通じなくても共有できる
ペンも止まり始めた頃にいよいよシェアタイム。最初に語ってくれたのは、埼玉県内のとある団地でお勤めしている女性の参加者。その団地は、現在約半数が外国人だそう。最初はその環境で過ごしていることに対して、周囲の方から心配されたこともあったようです。しかし、そんな心配も必要ないくらい素敵な景色が日常的に広がっているのだとか。その一部をお話ししていただきました。
「ある日、2階の事業所で仕事をしていると、外からなにやら声が聞こえて来たんです。外を見てみると、日本人のおばあちゃんと子ども、中国人の方が楽しそうにしている様子が見えました。きっと、言葉は通じていなかったと思います。でも本当に楽しそうでした。言葉が通じるとか、話せる・話せないとかは関係なくて、『楽しい』って共有できるんです!」
そう語る参加者の言葉に、みなさん微笑みながら頷いていました。その時の「楽しさ」は、女性の晴れやかな表情を通して、時間も場所も超えたこの場にしっかりと伝わったように感じました。
この場がまさに共生社会
このワークショップはどなたでも参加可能なイベントです。そのため、子どもたちが元気に会場内を走り回ったりしている中で、まちについて考える人がいるという状況が生まれていました。参加者の方からは、この状態がまさに「共生社会ですね」との言葉が聞かれました。
「地域共生社会」と感じるエピソードや景色のほとんどは、人とのつながりやぬくもり、安心感を感じるものでした。その素敵な景色は瞬間的に生まれるものではなく、人々がつながり合って、自分のため人のため、生活がより良くなるような試行錯誤を繰り返しながら、時間をかけて生み出されていく景色なのだと思いました。時間をかけて緩やかに変化し、それが日常になっていく。当たり前になり過ぎてなにか問題があったことさえも忘れてしまう、そんなお話しもありました。試行錯誤の過程は、もしかしたら苦しく長い期間かもしれません。ですが、ここに集まったみなさんと一緒に「これが共生社会だ」と言えるような景色をつくっていきたいと思いました。
みんなで考える「福祉プラスのまちづくり」
これからの未来を想像し終始活気の絶えないワークショップでしたが、あっという間に終了時刻を迎えました。最後に藤本さんから、「このワークショップを通じて『福祉プラスのまちづくり』とはなにかをともに考え、『地域共生社会』や『福祉』に対して感度の高いこのメンバーから、いろいろな場やイベント、事業が膨らんでいく事を楽しみにしています」とこれからに対する期待の言葉をいただき、会は締めくくられました。
ワークショップ終了後は有志者でランチ会
第1回目のワークショップが無事終わった後は、和やかな雰囲気で有志者とランチ会。運営陣も含め20名以上の方が参加されました。グループワークでは話せなかった方ともゆっくり交流できる時間でした。
ランチ会の後半は参加者の中から、実際に活動していく中で直面している具体的な悩みを募り、みんなで話し合う時間が設けられました。今回は、まちの人に活動をどう知って貰えばいいのか、アプローチの方法についての悩みが挙げられました。地域で長年活動されてる先輩方の貴重な情報やアドバイスをもらったり、行政の取り組みに対して市民としての意見が飛び交ったり、メンバー同士の良い相互関係が生まれていたように思います。
コンセプトブック制作ワークショップ初回を終えて
今回のワークショップでは、リソースゲームやグループワークから参加者同士で自然と掛け算が生まれ、まさに福祉が膨らんでいく状態を感じることが出来ました。ここに集まったメンバーそれぞれがもつ背景や資源は実にさまざまです。仲間が増えればできることが増える。可能性も広がる。私を含めてこのイベントに参加された方であればきっと、個人の力で解決できない、地域や行政が関わるような大きな課題でも、「仲間がいれば、周囲を巻き込むことが出来れば、何とかなるかもしれない」そんな可能性を感じたのではないかと思います。みなさんで共有しあった「地域共生社会」のイメージを、これから続く5回のワークショップでより深掘り研究し、実験していければと思います。
今後の予定
ワークショップの詳細やその他イベントの詳細については「ふくらむフクシ研究所」のFacebookをご覧ください。
▼ワークショップ2回目以降の開催日時
第2回:11/20(月) 19:00-21:00 @草加市役所
ふくフク研でどんなことやってみたい?アイデア出しワーク②
第3回:12/22(金) 19:00-21:00 @草加市役所
ふくフク研コンセプトブック編集会議①
第4回:1/21(日) 10:00-12:00 @草加市役所
ふくフク研コンセプトブック編集会議②
第5回:2/22(木) 19:00-21:00 @草加市役所
ふくフク研コンセプトブック編集会議③
第6回:3/27(水) 19:00-21:00 @高砂コミュニティセンター
ふくフク研コンセプトブック今後の展開について会議
▼ふくフク研トークライブ
フクシの世界をちょっと広げたり、ちょっと新しくしたりする取り組みをしているゲストのお話を聞き、みんなで意見交換するイベントです。今回は草加市を中心に関東のゲストと、神戸・尼崎で活動する関西のゲストにお越しいただきます。草加市の方でもそうでない方でも、フクシの世界をちょっと広げてみたいという方はぜひお気軽にお越しください。
◉日時
2024年1月13日(土)10:00-17:30
◉場所
高砂コミュニティセンター
草加市中央1-2-5
◉申し込みはこちらから
https://forms.gle/47tw3PTbWvnVuJHj8
※2024/1/10(水)締め切り
◉詳細はこちら