「自分が何かを感じた所がパワースポット」

福岡市の「小笹」という地域、私はそこで生活し小さな教室を開講している。「小笹」この字を見てどう読むのか?と思う人は少なくないだろう。私自身、はじめてこの文字を見た時には「こざさ」と読んだし、特に他県に住む友人からは「何て読むの?」と聞かれることがしばしばある。福岡にゆかりがある人ならば既にお分かりだと思うが、これは「おざさ」と読む。  私達家族がこの地に越してきたのは今から4年ほど前になる。引越早々、マンションの自治会長、広報を担当しているという2名が我が家のドアホンを鳴らした。まだダンボールが片付かず、部屋着そのものの状態で対応することになった訳だが、この2名の方はニューカマーの私にとても親切な対応をしてくれたことを今でもはっきり覚えている。新生活、引越先での不安が少し軽くなったことは言うまでもない。そして、この2名、一人は男性でもう一人は女性、当然だが役員方なので夫婦ではない。夫婦ではないが、息ピッタリなのは、おそらく1年、ないしは2年、一緒に役員仕事を行う中で信頼関係が築かれている同士であるからだろう。長年同じマンションに住む仲間とも言える。2人は我が家の家族構成や簡単な自治会の説明をした後、「小笹は中央区とは思えない程、自然豊かな場所ですよ」と話を続けた。更には「虫も多いし、ムカデなんかもね。お子さんがいるから注意して下さいね」と付け加えた。実はこのムカデ・・・。引越の際に入り込んだのであろう、既に前夜に目撃しその不気味な容姿と動きに悲鳴を上げたばかりだ。しかし、不思議なことに、この2人。「虫が多くてー」「野鳥も朝から鳴くしー」と言いながらも終始、その表情から嬉しさがこぼれ出ていたし、私はそれを見逃さなかった。つまりは「小笹は良い所」と言いたいのであろうと解釈した。

この小笹という地域は住んでみると、本当に自然が豊かな地だ。福岡市動植物園や南公園にも近く、朝も夕も何かしらの鳥が声を上げて鳴いてるし、その姿を見かけることも珍しくはない。引っ越してきたばかりの頃は、鳥が羽ばたく音や、虫が目の前や足元を飛ぶこの環境に慣れず、私と娘は「キャーキャー」言っては手で虫を払ったりしていた。唯一、我が夫のkunだけは(kunとは夫の愛称である)さすがは田舎育ち。どんな虫にも平気な顔を見せていた。強がっていただけかもしれないが。

夏場になると足もとを青や緑、赤色にキラキラ光る虫がピョンピョンと跳ねた。娘と私は名を知らないその虫たちのことを「謎の生命体」と名付け、見かけるたびにそう呼んでいた。ちなみに、その謎の生命体の正体が「ハンミョウ」という虫であることは、随分後になってから知ることとなる。   しかし、人間の慣れとは怖いもので、あれだけ「キャーキャー」言っていたのにいつしか娘も私も、虫を見ても声を上げることはなくなり、玄関を開けたらばったり大カマキリに遭遇!という状況でも驚くことはなくなった。カマキリもバッタも、何でもそこに居るのが当たり前に思えてきたからであろう。とは言え、今尚、ムカデに関しては慣れないし、その姿を見かけると恐怖を覚えるだが。私の人生において、「ムカデ駆除」と書かれたスプレーを買いにホームセンターに走る日が来るとは夢にも思っていなかったのだが、それが実現されたのもこの地ならではであろう。

小笹に住んで1年位が経ったある日のこと。私はいつもの如く、近所を散歩していた。散歩と言っても、出不精の私が仕方なく頼まれた郵便物をポストに入れに行く程度の軽いものである。その日は晴れていて、心地の良い風が吹き、日差しも暖かかった。ふと、空を見上げると綺麗な青空だ。「綺麗だなぁー」と私が思った瞬間、周囲の大きな木々が風で揺れ、ザザッーと音が聞こえた。と、同時に私の中に「書きたい」そんな気持ちが湧き上がったのだ。「ここでなら何か書けるかも。それが何かは分からないけど」私は生まれてはじめてそのような強い執筆への意欲が自分の中に芽生えた瞬間を捉えた。そのような経験は今まで一度も無かったことだ。

その日の夜、私は興奮気味に夫にそのことを話した。この経験を誰かに話さずにはいられない、とにかく誰でもいいから伝えたかったのだ。kunの反応は、まあいつもと同じ。「そうか、何か書いてみたら」というものだった。その言葉は決して冷たいものではなく、私が文章を書くことが好きなことを良く知っている彼だからこその選んだ言葉であろう。そこには確かに「頑張って」という想いも込められていたと思う。

あれから数年が過ぎ、今、私はこうして毎日のようにnoteに記事を書いている。主なテーマは教育関係のものだが、色々なジャンルの文章に挑戦したいという思いから、時々はこうした私的なことも記事にして書いているのだ。       よく、「どこどこがパワースポットらしい」などと人伝やネット記事で見聞きすることがあるが、あの経験をした後の私は「自分が力を感じた場所こそが本当の意味でのパワースポットなのではないだろうか」と考えるようになった。もしも、それが勘違いだったとしても、私はあの日、あの場所で感じた沸き上がるような執筆への想い、「書きたい」気持ちを信じたい。そう信じて今日もこうして文字を綴る。

一人一人にそれぞれにに用意されたパワースポットは、案外、私達のすぐ近くにあるのかもしれない。


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