秋山 福生 (Fukuo AKIYAMA)

デザイナー/研究/教育

秋山 福生 (Fukuo AKIYAMA)

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マガジン

  • 概念のデザイン

    哲学とデザインの方法を組み合わせて、人生の役にたつ概念を考えてみるエッセイです。

最近の記事

概念のデザイン#7 「節の多い性格」

自分に自我が芽生えた瞬間をよく覚えている。12歳のことだった。 それまでは、泣き虫な子供だった。悲しみよりも怒りで泣いた。1つ年上の兄は、僕とは違って学校にきちんと通い、私立進学校の中学で成績も良く、母のお気に入りだった。おこづかいの金額にも差をつけられていた。家庭内に明確な権力勾配があり、兄がどれだけイヤミなことを言おうが、喧嘩の悪者になるのは激情する僕の方で、両親から冷めた目で見られた。その差別的な目線に腹が立って、さらに泣いた。 ある日、何度も繰り返したように、夕食時の

    • 概念のデザイン#6 「人格ドナー制度」

      最近、ウィリアム・モリスのデザインを見るのがツラい。彼が作った作品の美しい意匠には何の文句もないどころか、評価をするのもおこがましい。そうではなくて、使われ方が気に食わない。安価なプラスチックに印刷された《いちご泥棒》がとても見ていられない。 ウィリアム・モリス(1834-1896)は、デザインの歴史を調べると必ず序盤に登場し、「近代デザインの父」と呼ばれる偉大なデザイナーである。彼の名前はデザインを学んだ大学生時代に何度も耳にしたし、デザインを教える側になってからは何度も口

      • 概念のデザイン#5 「私製天国」

        10代のときに、鬱を4、5回経験した、と思う。思う、と濁したのは、当時は医療に頼る発想がなかったので、ちゃんとした診断をされていないから。でも、あのずっとつきまとう絶望感は、体感として明らかに鬱だった。 複数回経験したということは、複数回乗り越えたということでもある。毎回の期間はだいたい半年〜1年間。3回目を超えた頃には、あ、また来ちゃった、とすぐに気づき、回復のための対処ができるようになっていた。医療に頼ることができない中で、セルフケアの方法として編み出したのが、「私製天

        • 概念のデザイン#4 「火の味」

          2年前の引っ越しでは、ガラッと家財道具を入れ替えた。大学進学と同時に始めた一人暮らしも10年以上経ち、初期に買った家電は故障間近、家具はリモートを取り入れた働き方に適応できていなかったし、インテリアの趣味も変わった。近所の気になる物件が空いたことがきっかけの、500m間の引越しということもあり、荷物は自力で運べる小さいものだけ残して、大きな家具家電は全部処分した。13年物の洗濯機を回収業者が持ち上げた瞬間、フロントパネルがバキッと音を立てて壊れたので、選択に間違いはなかったと

        概念のデザイン#7 「節の多い性格」

        マガジン

        • 概念のデザイン
          7本

        記事

          概念のデザイン#3 「問いの遠投」

          問い:これから僕はどんな人と人生を過ごすと良いでしょうか? 自分の悩みを自分で考えるのはとても難しい。友人が自信を無くして落ち込んでいるときは、いくらでもフォローの言葉が出てくるのに、自分の駄目さを見つけると呆れてものが言えなくなる。仕事でなんとか自己肯定感を稼いでも、私生活のポンコツさが積み重なると、そちらにばかり目がいってしまう。(しょっちゅう忘れ物をして家と駅の間を往復するとか、風呂場のカビをうまく処理できないとか、ゴミ出しの日の朝に起きられないとか)。もういい大人な

          概念のデザイン#3 「問いの遠投」

          概念のデザイン#2 「ホワイトノイズ社会」

          「黒髪ロン毛の男は信用ならない」。そんな言葉を初デートの相手に言われて落ち込んだりもしてきたけど、相変わらずパーマのかかった髪を肩まで伸ばしている。ろくでもない男性の象徴を背負っていることを知りつつ、それでもいろんな思いがあって、この見た目を続けている。 美容室の類いが、子供の頃からずっと苦手だった。長崎の離島、ド田舎の理容室でで散髪してくれる馴染みのおばちゃんは、子供は前髪ぱっつんのおかっぱにしておけば良いと思っていた。ませていて見た目を気にしていた小学生の僕は、次の日の

          概念のデザイン#2 「ホワイトノイズ社会」

          概念のデザイン#1 「福生(ふくお)」

          子供の頃から「福生(ふくお)」という自分の名前がずっと嫌だった。「幸"福"に"生"きる」なんて自分の状況とは遠すぎてギャップに情けなくなったし、名前の発案者である両親とは関係が悪く、名付けた責任を負わない態度に不満は溢れていた。いろんな状況をひっくるめて、とにかく大嫌いだった。 そんな思いを余所にして、珍しい名前であるせいで、周囲との会話ではよく話題に取り上げられてしまう。「素敵な名前ですね」なんて褒められるたびに、「いつも漢字変換で困ってて、しかたなく"ふっさ"で変換して

          概念のデザイン#1 「福生(ふくお)」