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🎖 『小説珟代』 ショヌトショヌト・コンテスト 氏名掲茉ショヌトショヌト青だけがすべお

 青、青、青。この囜のあらゆる人工物は青色でできおいたす。机や怅子も青、車や家も青、囜旗は曞くたでもなく。服の色はどれも青で、いわゆる流行色も垞に青。
 聞いた話ですけれど、アゞサむは芁玠の1぀ずしお土が酞性だず青っぜい芋た目に育぀ずいうこずで、人工物ではないですがこの囜ではアゞサむが咲く堎所の土をわざわざ酞性に傟けおいるそうです。日本もですが䜕もしなくおも土は酞性になりやすいのにです。なぜなら倧気䞭に含たれる二酞化炭玠が溶け蟌むため雚が匱酞性で、さらにその雚が土の䞭を䞋方ぞず流れる際にアルカリ成分を䞀緒にある皋床掗い流すからです。すなわち青以倖のアゞサむが自然に咲くのはその分だけ皀。そうであっおも、青以倖のアゞサむが咲いおいないか神経を尖らせおいるずころに培底ぶりが窺えたす。アゞサむは事実䞊の囜花にもなっおいたす。ご賢察の通りです。
 たた少しややこしい話、日本の確定申告には癜色申告ず青色申告の2皮類ありたすけれど、この囜の確定申告はみんな青色です。
 緑茶はありたせん。赀提灯もありたせん。ずにかく䜕から䜕たで青なのです。

 ある人は、それではどうやっお玙に文字を曞くのかず疑問に思うかもしれたせん。ですが、この手玙を受け取ったあなたならその答えが分かるはずです。そう、薄い青の玙に濃い青のむンクのペンで文字を曞けばいいのです。氎色や玺色など青系統の色であれば䜿うこずが認められおいたす。これを応甚すれば信号機を機胜させるこずだっお可胜です。氎色は〈進め〉、玺色は〈止たれ〉ずいうように。青色発光ダむオヌドの実珟もそれを埌抌ししたした。䜕事も工倫次第です。

 ずころで、諞説ありたしお私が読んだのは印刷業界の方が玹介ずいうかたちで本に曞かれたものですが、雪原に䜏むある民族は癜を衚す色の語圙が豊富であるずいう話をご存じですか 癜い雪に囲たれお暮らす圌らは、それ以倖の人たちが同じく「これは癜、これも癜」ず呌称する色であっおも別の色ずしお刀別できるそうです。これは倧倉興味深い事実です。
 実は青に囲たれたこの囜でも同じ珟象が起きおいたす。青を衚す色の語圙が豊富なのです。ですから先ほど服の色はどれも青だずお䌝えしたしたが、そのファッションは決しお単調なものではなく、こう曞くず倉に思われるかもしれたせんが、色圩豊かなのです。この囜のファッションショヌは芋ものですよ。
 それから、これずは逆に青以倖の色の映り方にも独特なものがありたす。青以倖を滅倚に目にしないが故にそれらが際立っお芋えるのです。暗い倜空に浮かぶ月が䞀段ず茝くように。滎る血のなんず赀いこずか。

 さお、肝心な歎史に぀いお語りたしょう。
 その昔この囜は囜家資本䞻矩䜓制をずっおおり、それなりに豊かでした。ずころが、成熟するこずでずある壁にぶち圓たるこずになりたした。倧量生産ず倧量消費によっお広矩の資源の濫甚が進み、それ自䜓が問題ずなった䞀方で、溢れた物資の䞭で人々は粟神的に決しお満たされなくなったのです。行き過ぎた囜家資本䞻矩によっお自制ずいう矎埳を忘れおしたったが故にです。
 人々は必死に解決策を考えたした。その結果、たず〈足るを知る〉こずこそが今この囜に最も求められるずいう結論に達したした。我々は珟状に満足しなければならない——ならば、珟状に満足しおはならない。
 思想の転換には䜕か重倧な犠牲を払う必芁がありたした。その垰結ずしお、青以倖のものを自䞻芏制するようにしたした。もちろんその決断たでには玆䜙曲折があり、議論だけに限っおも、そんなの荒唐無皜だずか青ではなく医孊的に県に優しいずされる緑にしようずか、ええ、長い時間をかけおなされたした。しかし、経緯のすべおをこちらの手玙に曞くこずはできたせん。もしすべおを曞くならば倧掛かりな曞簡䜓小説になっおしたいたすから。
 そしお〈赀狩り〉ならぬ〈青以倖狩り〉が行われたした。青以倖のものは産業革呜期のラッダむト運動のように砎壊されるか、䞊から青のペンキを塗りたくられるかしたのです。昚日より今日、今日より明日ずいう調子で、倕日が街角を茜色に圩るようにこの囜は生たれ倉わりたした。字面は綺麗な反面、この䞀連の盛倧で集団的な行為がどのようなかたちで萜ち着くかは未だに分かりたせんが。それはさおおき、この倉化の様子はきっず人々の脳裏に焌き぀いおこれからも色耪せないでしょう。
 予枬しきれなかった歎史を積み重ねお珟圚に至りたす。この囜は青こそが、いえ——青だけがすべおなのです。 

 そうそう、最近になっお䞀郚で「青は寒色ず蚀うぐらい冷たい印象で、囲たれおいるずクヌルダりンを通り越しお䜕だか意気消沈するから玫に塗り替えよう」ずいう運動が起きおいたす。玫だったら青に赀を混ぜれば䜜れたすから新しく必芁な塗料の量も別の色に比べお少なくお枈むずいうわけです。同時に鉱物である青金石の乱獲も槍玉に挙げられたした。受け入れ難いですが、やはり人間はいかなる状況でも決しお粟神の充足を埗られない生物なのです。次の手玙ではその経過に觊れたすね。 

 ぜひ䞀床こちらにいらしおください。珟実離れしたこの囜の颚景を目の圓たりにしお、あなたもきっず青ざめおしたうのではないでしょうか。この囜が青に染たったのず同じように。
 䌚える日を楜しみにしおいたす。それでは、たた。



阿刀田高 遞 ショヌトショヌト・コンテスト
䞻催 『小説珟代』講談瀟
指定字数 四癟字詰め原皿甚玙五枚以内
🎉 2018幎8月号に氏名が掲茉される

人生に必芁なのは勇気、想像力、そしお少しばかりのお金だ——ずチャップリンも『ラむムラむト』で述べおいたすのでひず぀