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母の味

先日、母の日にオンライン帰省をするという企画の記事を執筆した。

母に実家の味の料理レシピを聞き、ビデオ通話で繋ぎながら一緒に料理をして出来上がった料理を一緒に食べるというものだ。

https://kindaipicks.com/article/002054

その記事の打ち合わせをしている時に「みほたんは何か実家の料理といえば、みたいなのありますか?」と聞かれて、浮かんだのは「里芋とイカの煮物」と「きんぴら」だった。

「里芋とイカの煮物」は、実家にいた時に自覚していたかはわからないけど好物と好物の組み合わせである。

しかし、例えば唐揚げだとかカレーだとかのように「これが食べたい!」とお店に駆け込んですぐに食べられるものではない。その上、里芋もイカもいちから自分で料理するには想像するだけで一苦労。

私は里芋のことは大好きだけど、コンビニのパウチに入ったお惣菜をおやつ感覚で食べるような人間である。


それから「きんぴら」、これについては長年思うところがある。

里芋とイカの煮物に比べると、きんぴらはそこらじゅうで見かける。お弁当についていたり、お惣菜で売っていたり、手軽に手に入る。それにゴボウとにんじんがあれば簡単に作ることが出来る。実際に何度も作ったことがある。

でも今まで一度も実家と同じきんぴらに出会ったことがない。

ネット上に転がっているレシピをみて作っても全然違う。大学生の頃に何度か作って早々に諦めてしまった。何故、どこが違うのか、その謎を14年間抱えていたことを思い出した。


記事では、学生がオンライン帰省をして料理を教わったのだが、せっかくの機会だったので私も母にこの二つのレシピを聞いて作ってみた。


里芋とイカの煮物

里芋は、前述の通り好物なので豚汁や粕汁に入れるために「そのまま使えます!」みたいな剥かれた状態のものをよく買うが、剥かれていないものは初めて買った。

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皮を剥くと、ちょっと不安になるくらいひとまわり小さくなった。

買い出しに行く前にざっくりと調理の流れを聞いたのでその通り作っていく。

まずは一度茹でこぼす。

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細かい工程が怪しかったので『白ごはん.com』でカンニングした。


茹でこぼした里芋と、切り分けたスルメイカを一緒に鍋に入れる。

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電話で調味料について聞くと「量なんて量ってない」絶対言うと思った。

そのあと調理中に、同時進行で作っている母からLINEが来ていた。

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酒、砂糖、味醂、酒、すべて大さじ2ずつ。

ざかざかと調味料を入れてから「里芋が2割ぐらい水面から出てる感じ」になるように水を入れた。

イカはさばかれているものを買ったので、里芋を剥く工程さえ終われば思ったより手軽な料理なのかもしれない。


母に料理について聞く時、たまに「昔はこうやってたけど今はこう」と言われることがある。

私はずっとブリの照り焼きが好きではなかった。

「ブリの照り焼きはキシキシしているから嫌い」と言っていたら、周りの人に「そんなわけない!ブリの照り焼きはふっくらしている」と言われ、キシキシ派の人も少しいて派閥が分かれた。

そこで作り方の話になり、母に聞いたところ「昔は普通に焼いてたからキシキシしてたかも。今は最後にちゃんと蒸してて、蒸したらふっくらする」と言われて、キシキシしていた謎が解けたし、今は丁寧に作っていることが発覚した。


あとは炊きあがるのを待つだけか……とLINEで送られてくるレシピを見ていると、

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急な「毛布でくるむ」という工程。

こんな手間がかかっていたとは驚きである。

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毛布でくるんであげた。

外出自粛中、ずっと部屋にいて手持ち無沙汰なのと、人に会っていない寂しさからぬいぐるみを身の回りに置いている。


きんぴら

実家のきんぴらの製法がずっと謎だった。

家の料理がスタンダードで育ってきて、何かのタイミングで別のバージョンを知るということが大人になったらみんなあるだろう。肉じゃがは豚肉なのか牛肉なのか。おでんにじゃがいもが入っているのは普通なのか。

私はもう実家を出て14年も経っているいい大人なので、きんぴらには「細切りver.」と「ささがきver.」というのが存在することを知っている。

市販のお弁当についているきんぴらは「細切りver.」であることが多い気がする。家を出て初めてその存在を知って、こういうのもあるのか……と思った。うちのはこんなにゴリゴリしていないから「ささがきver.」だろう。

一人暮らしをして早い段階できんぴらを作ろうとゴボウとにんじんを買ってきたことがある。

小さな流しで泥を落として皮を削り取るのは非常に大変で、キッチン周りは茶色く汚れたし、ほうぼうにゴボウが散らばった。薄く削ぐのは難しい。

そんなに苦労して作ったのに、実家のきんぴらよりもゴボウの主張が強く、こんなのじゃないと一口で分かる。何度か研究した結果、にんじんはおそらくピーラーで削っているのだろうと思った。あと普通の作り方に比べて砂糖が多い。

そこまでは分かったが、直接聞いてやっと謎が解決した。


ゴボウもピーラーで剥いていたのだ。

「ささがきにしても太くなるやろ」

そう、そうなんだよ!


ピーラーで剥くコツは手のひらでしっかり押さえつけて削いでいくことらしい。

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一人暮らし14年、学習したのでゴボウは割高でも半分サイズにした。

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ピーラーしたゴボウは水にさらす。

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やはり人参もピーラーで削るらしい。特に切らずにピーラーしていくと指示されたが、どうしてもでっかくなっちゃうので少し切ってから削いでいった。

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思ったよりも量が多かったけど、かなり近いものが出来た。

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母の。


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そして3つ目の材料、牛肉の登場である。

これについてはすっかり忘れていた。

実家を出てすぐの頃は覚えていたと思うし、家に帰って食べていれば思い出してたと思うけど、ここ数年は本当に忘れていた。実家のきんぴらには牛肉が入っていた!

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油をひいたフライパンで牛コマ肉を焼いて、ゴボウとにんじんを入れて炒める。

味付けは、みりんと砂糖を大さじ1ずつくらいで、醤油はそれより少なめ。

やっぱりうちのきんぴらの砂糖含有量は多い。どこで食べるきんぴらより甘い。

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仕上げにゴマを入れて出来上がり(ゴマのことも忘れていた)。

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母の出来上がり写真。


うちも毛布にくるんだ里芋とイカを出してあげて……

お皿に盛って感動した。

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実家の食卓だ。


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里芋とイカは完璧。めちゃくちゃ美味しい。

最初に書いた通り、里芋は好物だけど惣菜で買うか剥かれたものを炊くかしかしてこなかったので、久しぶりに大きなねっちりした里芋を食べて「こんなに美味しかったか!」と感動した。

おやつ感覚で食べているコンビニ惣菜の里芋とは違う(めっちゃ好きだけど)。

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きんぴらは正直、味がちょっと決まってなかった。もう一度正解を食べてみたら近づける気がする。しかし、ゴボウの正解が叩き出せてよかった。っていうか見た目がやっと一緒になった。謎がとけた!

あと牛肉の存在がでかい。肉は偉大だ。


というか、里芋とイカを炊いている時にすでに感動し始めていた。
実家の匂いがするのだ。夕ご飯前の。

母の日オンライン帰省の企画では、Zoomの背景を食卓にして視覚的に、そして家の味を再現して味覚的に。

そう話していたけど、思い出は匂いから来ると言う。
夕方、家に帰ってきた時の匂いがした。

一人暮らしをして最初の頃、何かを作る時に玉ねぎを切っていて、ご飯を食べる時くらいに手の匂いを嗅いでびっくりした。

お母さんの手の匂いがしたのだ。
お母さんの手の匂いを意識したことは無かったけど、え、この匂いじゃんって思った。


それにしても手間がかかった。

ゴボウは半分のものを買ってきても扱いが大変で、削った先からあっちこっちに飛ぶし、次の日に気付いたけど給湯器ににんじんの破片がへばりついていた。

まさか毛布まで使うなんて。

ずっとこうやってご飯を作ってくれていた母に改めて感謝して、今こうやって教えてくれる母が元気でいてくれることに感謝。

ありがとうございます。

本当においしかった。
絶対に一生作る。


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