短気は(短編小説)
[ブッブー]
健二はクラクションを鳴らすと直ぐ右足で車のアクセルを踏み込んだ。
『うぉら〜俺の前に入るなゃ〜💢』『クソが〜』
健二の前に入りかけた車はブレーキを踏み、大人しく健二の後ろで車線変更を行った。
兎に角健二は気が短かった。当然人に先を譲るなんてことは思いもしなかった。
ある日健二はいつもの様に車を飛ばし、前へ前へ進んでいった。
『オラァどけや〜チンタラ走るな〜』
右に左に進路を変更して先へ進む。
【ドグワァ〜ァ〜ン】
何か衝撃を感じた健二は気を失ってしまった。
『うぅうぅぅ〜ん』
目を覚ますと健二の前方に何やら行列ができている。
『なんだ、なんだ!』
『退けどけ退けどけ』
健二は並んでいる人々を押し除け先頭まで来た。
『なんだ?』
そこには小舟が川に浮かび、人々がゆっくりと陸から乗り移っていた。
『退けや〜俺が先や!』
『あんたはこれには乗らないよ。』
船頭はごちゃごちゃ言っていたが健二は気にも留めず、無理矢理船に乗り込んだ。
船はチンタラチンタラと進んで行く。
『おっせ〜なぁ〜とっとと進めや〜』
健二は船縁に足を投げだし、毒づいていた。
やっと対岸の岸辺に近づいてきたところで船頭が乗客から代金を徴収し始めた。
『はいお客さん、代金は六文です。』
『なんだ?六文?そんなもん知るか!』
健二の投げやりな言葉に船内の乗客が一斉に健二に注目した。
『六文持って無いって〜』
『乗る筈じゃないのに、、無理矢理乗るから、、』
『対岸に渡れないとどうなるんだろう?』
『南無阿弥陀仏〜』
『五月蝿い、黙れ!黙れ!』
口汚く言い返す健二の首筋が急に苦しくなり、足は宙に浮いてしまった。
『なんだぁ?おらぁっ 離せ!』
『はい』
【ポチャン】
川面で苦しげにもがく健二の顔には《船より前に出れたぞ》うっすらと笑みが浮かび上がっていた。
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