砂かけババア(短編小説)

【心理的瑕疵あり】表示はあるが、

付近の賃貸物件より賃料が数万円安い部屋を見つけた。

建物も新しく何か事件があった訳でも無く、ただ近隣の住民に面倒な人がいるというだけの話だった。

僕は早朝出勤、深夜帰宅、住居はただ寝るだけの場所という認識で、近隣住民が面倒といっても顔を合わすことも無いだろうと、たいして確認もせずに賃貸契約をした。

荷物も少なくあっという間に引っ越しも終わり、ベッドに転がってスマホで動画を見ていた。

それからは平日は朝5時に家を出て、23時頃に帰ってくる生活を繰り返した。

ある日、冬の朝早くまだ薄暗い玄関で鍵をかけていると何か視線を感じた。

キョロキョロと周りを確認するが特に何も無く、

(勘違いか・・・・)

たいして気に留める事も無く会社に向かった。

その日を境に状況が一変する。

玄関先に砂が落ちているのだ。

猫のトイレ砂。

猫の糞も混じり堪らない。

どんなに掃除しても翌朝、会社から帰って来る時には猫砂がばら撒かれている。

ホームセンターでカメラを買い、玄関が見えるところに設置した。

翌朝早く起きて外を見ると砂が撒かれている。

早速カメラの録画を確認する。

映っている、映っている、近所のババァが!

動画を持って警察に行き相談する。

警察は僕の住所を聞き表情が変わる。

持ち込んだ動画を見てため息を出す。

『我々も出来る限りのことはします。ただ無理をなさらず気をつけて下さい。』

あくる日もあくる日もババァは砂を撒く。

もう堪らない。

現場を取り押さえ様と赤外線センサーを仕掛ける。

(ピピッピピッピピッピピッ)

何かがセンサーに反応した。

(ガチャッ)

玄関先ではババァがバケツに入った砂と糞をばら撒こうとしている所だった。

『何をしているんですか!こんな人の迷惑になる事してー!』

これでババァは驚いて大人しくなるだろう、、、

僕は一人悦になり怒鳴っていた。

『なんだと〜うるさい!お前こそ朝は早くからガタガタ五月蝿くしやがってー!何時だと思ってんだー!夜も何だと〜何時だと思ってるんだー!朝から晩までドタバタガタガタ五月蝿くしやがってー!人に文句言う前に自分が五月蝿いのを何とかしろー!それに何だ!迷惑だーお前こそ迷惑だろうがー!いきなり年寄りに怒鳴りやがってー』

ババァの突然の逆襲である。

朝早くこれだけ大声で叫んでいるのに隣近所はかかわりを恐れて誰も出て来ない。

何とか無理矢理離れて会社に向かう。

ババァも一緒について歩き悪態を叫び続ける。

朝から晩まで会社の外で叫び続ける。

帰宅はタクシーを捕まえてなんとか振り切った。

警察に相談してババァに注意してもらっても何も変わらない。

最後は裁判所からの(1km以内に近づかない。)命令にて解決を図った。

(これでババァの顔も姿も声も聞かなくていい、、)
やっと安堵の日々がくる、、

そう思った。

ある日実家に電話した時、、

母から聞かされた。

『最近誰かが玄関に砂と糞を捨てるのよ!』

ある時友人と話しをした時、、

『最近誰かが玄関に砂と糞を捨てる奴がいる、、』

取引先の会社から帰った営業マンが言う。

『A社さん、、玄関に砂と糞が捨てられるらしいよ〜』

昼食後、食事をしたお店に忘れ物を取りに行くと入り口前には砂と糞が落ちていた。

(もしかして、、俺が関わる所全てに砂がかけられている?)

疑心暗鬼のまま何日か過ごしていると実家から電話が入った。

『お墓まいりに行ったらお墓が砂まるけだよ!』

あのババァだ。

直ぐにバイクを走らせてお墓に来た。

(あのババァの猫砂だ!)

(あのクソババァ〜)

さすがに腹を立てて

(どうしてやろうか、、訴えるか、、)

考えながらバイクを走らせる。

見通しの悪いカーブに差し掛かった時、、、

(?????)

(ジャリジャリジャリジャリガガガガガッドーン グワン)

バイクは路面の砂で滑りスリップして横転。

僕はバイクごと勢いよくガードレールに激突した。

目の前には事故でもげた自分の脚が見える。

身体はガードレールに突き刺さり、ぶら下がっている。

『痛って〜誰か〜助けて、助けて〜』

身体の、切断面からは心臓の鼓動に合わせて

(ピュ〜ピュ〜)

と血液が吹き出す。

(パタパタ パタパタ)

近づく足音、、

(助かった〜救急車を呼んでもらえる、、、)

(パラッ パラッ パラパラパラパラパラパラ)

(ん? ? ? ? ? !!!!)

(ヘルメットに落ちてくる砂の音?)

(パラパラパラパラパラパラ)

(なんで、なんで、なんで、なんで、、、)

薄れゆく意識の中でヘルメットに当たる砂の音がいつまでもいつまでも響き渡っていた。

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