見出し画像

レポート「まちの未来を想像する学科」

こんにちは!
ふくまち大学準備室(以下、ふくまち大学)運営メンバーの髙橋要です。

「はじめまして」の方は、こちらの記事も併せてご覧ください🔰。

今回の記事では、2022年12月15日に開催された「まちの未来を想像する学科 🏘〜グランドデザインから読み解く2040年までの福井まちなか〜」の様子をレポートしていきます!

まちの未来を想像する学科とは?

2022年10月に公開された福井の「県都グランドデザイン」

2040年にかけて実現していきたい福井まちなかの将来像や、それらを実現するための基本方針、戦略などをまとめたグランドデザインは、福井商工会議所・福井県・福井市による「県都にぎわい創生協議会」が2年以上の時間をかけて検討を進めてきたものです。

これをもとにしながら、みなさんと一緒に福井まちなかの今と未来、そして関わり方について考えていくための講座が、今回の「まちの未来を想像する学科」です。

講座の開催場所となったのは、福井駅からすぐの「セーレンプラネット」。
普段はプラネタリウムのシアターとして利用されるこの場所を、講座の会場として選定。福井のまちなかの使い方を実践していくふくまち大学としてもちょっとしたチャレンジとなりました。

当日、講師/進行役として登壇したのは、それぞれ異なる立場から「県都グランドデザイン」に携わってきたこちらの6名。

▼熊野直彦/福井市都市整備課
県都グランドデザインを作成した協議会の1者であり、ふくまち大学準備室の事務局でもある。

▼後藤太一・八間川結子・竹林知樹/リージョンワークス合同会社
地域の戦略的な事業をデザインする専門集団。県都グランドデザインの策定支援として2020年から参画し、またふくまち大学準備室事務局としても関わる。

▼新山直広・室井泉海・瀬戸川りさ子/TSUGI llc.
福井県鯖江市を拠点に活動するローカルクリエイティブカンパニー。ガイドブックやWEB制作の面から県都グランドデザインに携わる。

それぞれの立場から考えてきた県都グランドデザインへの思いを、リレー形式でつないでいきました。

それぞれのグランドデザインへの思い

■なぜグランドデザインをつくったのか

第一走者として県都グランドデザインが出来上がるまでの概要をお話してくれたのは、福井市の熊野さん。

「福井駅周辺は、商業・ビジネスのエリアであり、行政機関もあり、様々な人たちが集まって交流しながら育ってきた場所。
加えて、養浩館庭園や福井城址、グリフィス記念館や北の庄城址、柴田神社といった様々な文化的・歴史的な拠点施設が駅から歩いて行けるような距離にある非常に恵まれたエリアでもあります」

福井市 熊野さん

2024年の春には新幹線が開通するということもあり、どんどんと民間にまちなかを使ってもらいたいという状況が出てきているそう。

「そんな背景の中で、『エリアマネジメントの視点を取り入れたまちづくりを進めていかないといけない』という思いから、行政と福井商工会議所が一緒になりながら、福井駅の周辺をどうしていこうかと考えてつくられたのが、県都グランドデザインです」

■グランドデザインが目指す姿

「県都グランドデザインは、2040年を目標にしながら『誰もが主役に!楽しさあふれる県都ーあなたからはじまる、福井まちなかー』というようなフレーズで将来像を描いています。交通ネットワークの中心に位置する福井駅周辺に、厚みのある歴史、豊かな自然、商業施設や食文化スポーツ拠点など様々な魅力を重ねることによってさらに多くの人を引きつけ、目的地となるまちなかになっている状況。また、多様な人が集い交流し、自ら新たな価値や賑わいを生み出し、街の魅力を高め人が人を呼ぶ「楽しさあふれる県都」となる状況を掲げています」

「楽しさあふれる県都」を目指すための基本の方針は「県都リノベーション」。分散した都市機能をまちなかに再配置したり、まちなかのエリア価値を最大化するためにさまざまな拠点をつくってみたり、集めてみたり、そして残していこうというもの。

そして、それらを実現する戦略の手始めは「人が集えるような場づくり」。場をつくって様々な人が交流し、新たな価値を見出して、それが新たな楽しみや仕事につながる。それがどんどんとまちに広がっていけばまち自体が大きくなっていくはず。点から線へ、そして線から面へ。そんな戦略が掲げられています。

戦略に掲げたものを実現するために、「たのしみ」「くらし」「しごと」という3つの領域にそれぞれ3つずつの目標、合計で9つの目標を定めながら、それぞれ行動計画、いわゆる具体的なプロジェクトが設けられていく予定です。

行動計画の中には私たち「ふくまち大学」の設置についても記載があり、まさにいま具体的なプロジェクトとして推進されています。

完成したグランドデザインの本冊子は、福井県のホームページ等にも掲載されていますのでぜひご覧ください。

「自分ごとでこのまちなかで何かしてみたいと思っていただくために、まずはみんなにわかりやすく届けたい。そんな思いを汲みながら、この冊子をいかにメッセージとして届けることができるかというところに携わっていただいたのが、TSUGIのみなさんです」

ここで、熊野さんからTSUGIの新山さんへとバトンタッチです。

■グランドデザインをどう届けるか

続いての講師は、自身も数年前に福井駅周辺へ引っ越しをして、まちなかで暮らすことの豊かさを実感しているという新山さん。

そんな新山さんのパートでは、グランドデザインのメッセージをいかにガイドブックに落とし込んでいったのかが紹介されていきました。

TSUGI 新山さん

「県都にぎわい創生協議会のみなさんが相当な数の議論を重ねて、経済も文化も福祉も全部ひっくるめて『みんなでいい福井にしていこう』とつくってこられた今回のグランドデザイン。それをちゃんと県民のみなさんに広げていくための形にするのがTSUGIの仕事でした。行政がつくるものってどうしても固い内容になってしまいがちなので、グランドデザインの考え方をいかに柔らかく伝えるかということを一生懸命考えました」

「届ける」という観点から、TSUGIとしてはもうひとつ意識していたことがありました。

「いわゆる『いつもの人』以外にも届けること。こういう場に出てこられている方(いわゆる『いつもの人』)は、そもそもまちに対する意識があるんですよね。そうじゃない人たちにどう届けるかっていうことが、ぼくたちのミッションかなと」

まちなかで行われるイベントや、まちづくりに関わる活動で出会う人たちの顔ぶれって、たしかになんだかいつも一緒な気がする…?

そんなもやもやを解消すべく、これからのまちなかの主役となるより多くの県民のみなさんに届くようにとつくられたのがこちらのガイドブックです。

ガイドブック表紙

県民のみなさんに広く「伝わる・広がる」ことを意識しながらつくられていったガイドブック。完成した冊子には、未来の福井の姿を表現したイメージイラストがふんだんに挿しこまれ、年代や属性を問わず楽しみながらグランドデザインのエッセンスを感じることができる内容となりました。

「計画をつくってゴールではなく、それをいかにいろんな人たちに伝えられるかが非常に大事。表紙をめくって順番に説明していくとちゃんとストーリーになっていて、なるほどこういうことをしようとしてたんだっていうのがわかるように。そんな動線も含めて、まさに熊野さんのような立場の人が誰かに説明しやすいようにつくろうと思ったんです」

このほかにも、冊子の大きさはあえて慣れ親しみのあるベーシックなA4サイズを選んだり、ページ数を抑えて汎用的な紙を使用することでいかに多く刷ることができるかを考えたという新山さん。サイズ感や紙の選択はある意味デザイナーとしてのこだわりの見せ所でもありますが、ガイドブック制作の目的を達成するために絶妙な取捨選択が行われていました。

そして、ガイドブックに登場する印象的な数々のコピーやテキストも、TSUGIの仕事。

ガイドブックP.2-3

「これから変わっていく福井のまちなかを、自分(あなた)はどう使うことができるだろうかということを問いかけるような内容になっています。
タイトルにも『わたし』という言葉が出てきますが、要は『自分』のことだよっていうことを伝えたくて。ページを開くと『舞台は、整う。』と書かれています。まさに今、再開発に関するいろんなハード整備や仕組みづくりが進んでいると思うんですが、要は『場』は作られたと。じゃあそれを使うのは誰なんだろうっていうことを、この冊子を通して伝えられたらと思ってます」

グランドデザインが届いた先で、まちを楽しむのは誰なんだろうか?
そんな思いがこの冊子には込められているんですね。

「福井は、ちょっとアクションを起こして仲間をつくってムーブメントをつくることで、新しいカルチャーであったり文化みたいなものを自らつくれるまちなんじゃないかなと思うんですね。東京みたいに文化も成熟していろんなインプットができるようなまちはそれはそれでいいと思うんですけども、自分でアクションすることで主体的に楽しさをつくれる福井も最高だと思います。上の世代の方にもそう思ってほしいし、もっと言うと今から福井の未来をつくる若い人たちに、自分でもできるという確信みたいなものが生まれるといいなと。それをどう作っていくかを伝えるのがこの冊子だと思っています」

新山さん自身が福井で過ごしてきた実感をもとに発せられた、力強いメッセージ。ガイドブックを通してたくさんの方に伝わるといいなぁ。

新山さんのパートで使用したスライドはこちらからご覧になれます!

■グランドデザインをどうつくるか

新山さんからバトンを受けて次に話してくれたのは、県都グランドデザイン策定に2020年から参画してきたリージョンワークス(以下、RW)の後藤太一さんです。

福岡に拠点を構え、いわゆるエリア戦略の専門家として全国各地のプロジェクトに携わるRW。今回のグランドデザイン策定にあたっても、徹底したデータ分析とヒアリング、現場観察のもと、福井の現状と課題を検証してきました。今回の講座では、よそ者としての客観的な視点から、でも福井への愛を持った温かいハートで、どのように福井のまちを捉え、グランドデザイン策定にあたっての議論のベースをつくっていったかを語っていただきました。

ここでは、後藤さんが用意してくれたスライドを先に共有します。

グランドデザイン策定にあたりRWとしてやってきたことは、福井の未来についての戦略を打ち出すために、データをどのように分析し、解釈するかということでした。

まずRWが注目したのは、「経済圏」としての嶺北。県内人口約80万人中約60万人が暮らす嶺北をひとつの経済圏として考え、世界の都市と比較すると、ジェノバやドルトムント、ライプツィヒといったグローバル都市と同規模であることがわかります。つまり、嶺北にもそれだけの地力はあるはず。

一方で、大前提として将来的な人口減少は避けられず、今後20年で9万人も人口が少なくなることが予想されています。

高齢化率も上がり続け、生産年齢人口は減っていくなかで、2040年の中心世代(30歳代)となるのは現在10代の若者たち(だからこそ、今回のグランドデザインはその世代とその親世代にどうしても届いてほしい!)。

そんな前提を踏まえて、2040年の福井に向けてより価値のある県都再生を行なっていくためにRWが提案したのが、「県都 ≒ 福井駅前」ではなく、「まちなか(福井駅前+その周辺)」でグランドデザインを考えるというものでした。

嶺北経済圏に対するまちなか・駅前のシェア

「これがたぶん今回のハイライト。これを見ると、駅前に住んでいる人は全体の0.5%しかいないんです。働いている人は全体の6%、事業所も6%。エリアをまちなかまで広げたところで住んでる人は6.6%だけで、嶺北に暮らしてその経済を担っている93%の人たちはその外に住んでるわけです。これは結構象徴的で、他のまちだともうちょっとまちなかの比率は高いんです実は。福岡で同じ分析をやると真ん中(まちなか)で働いている人が33%なんですよ。福井は真ん中が小さいんです」


嶺北という経済圏に対するまちなか・福井駅前のシェアの割合を見ると、意外にも数値が低いということがわかります。

このほかにも、人々の移動は鯖江、あわら、坂井などの生活圏内ごとにまとまっていることや、従業者はまちなか外に分散していること、市街中心部の人口が特に減少傾向にあること、付加価値向上を牽引する産業が駅前には少ないことなどがRWの分析から明らかにされていきました。

経済圏との関係性も踏まえたうえで県都の再生を語っていかなければいけないときに、このまちの課題はなんなのか。

「結局ここの課題は何ですかと考えると、例えば新しいことを始めようとしたとき、本当は一人でパソコンに向かうよりも誰かと一緒にやったほうがいいんだけど、みんなそれぞれの生活圏で暮らして働いてるから、出会うことがないんですよ。それがこのまちの課題。だからまちなかで一緒に何かを取り組むという人を増やしたいし、そういう取り組みの機会を増やしたいし、そのための場、出会う機会を作っていくことこそが、実は課題に対して考えるべき処方箋なんじゃないですかと。それが(グランドデザインの策定に携わってから)最初の3〜4ヶ月ぐらいに我々がやってたことです」

様々なデータの収集・分析・解釈から、的確に議論の土台をつくってきたRW。今回示していただいたデータはグランドデザインの策定についてだけでなく、きっとみなさん自身が福井というまちのなかでどこに暮らし何をしているのかを考えるきっかけにもなるはずです。

「この話を聞いていただいたあとに改めてあのチャーミングなガイドブックを見ていただいて、こんな小難しいこと考えたんだねと思ってもらって、自分はこのまちのどこにいるのかなって考えていただけるとありがたいなと思います。ありがとうざいました」

■グランドデザインにどう関われるか

後藤さんのパートが終わり、今回の講座はいよいよ最終盤。
クロストークの形式を取りつつも、最終パートのメインを務めたのはTSUGIの室井さんでした。

左から八間川さん、熊野さん、新山さん、後藤さん、室井さん、瀬戸川さん

群馬県の出身で福井にきて5年目、現在24歳という室井さん。TSUGIの一員としてガイドブックの制作に携わりつつ、福井に暮らす一若者としての考えていたことを話してくれました。

「今はこんなところで登壇してますけど、自分は福井のまちなかにいる24歳とそんなに意識は変わらないと思っています。福井をこうしたいとか、自分でこういうことをしたいという思いもそんなに強くない、いわゆるこのグランドデザインガイドブックを届けたい方の人間だと思うんですよ。だから、ぼくみたいな人に届けばいいんだっていうことを冊子を作りながらすごく思いました。
共通の趣味でつながった福井の友達がたくさんいるんですけど、別にやりたいこともないけどとりあえず福井にいるっていう子も多いんですよね。そういう子たちが自然と巻き込まれて、みんなが何かをやりたい気持ちになる気運を醸成していかないといけないんだろうなと。
先日飲みに出た先で、いまは県外に出てて一時的に福井に帰ってきてるっていう若者とたまたま話す機会があって。いろいろ聞いてみると、意外とみんな福井のことは好きなんです。でも福井に帰ってきても何もないって思ってる人が多い。もし福井に帰ってきたら何かやりたいことある?って聞いたら『古着屋さんやりたいです』って言ってて。もしそのことが実現したら、すごくいい事例になると思うんです。福井のまちなかを舞台に、若者が一歩踏み出して何かができた。それだけで、福井の若者にそういう文化がどんどん受け継がれていくんじゃないのかなと思っています。
『なにかやりたい』っていう人がいたときに、その声を拾い集められる場所をちゃんと作って応えてあげる。そういう場をつくれるかどうかに、福井のこれからが隠れてるんじゃないのかなと思いました」

現場で話していたことはだいぶ割愛していますが、福井に暮らす様々な若者と関わるなかで感じた熱い思いを会場にぶつけてくれた室井さん。

室井さんの話も踏まえて、最後に他の登壇者からもコメントが寄せられました。

●新山さん

「福井の面白い人たちと話しているとき、『高校のときにかっこいい大人たちが服屋さんやったりとか音楽やったりとかそういうカルチャーがめっちゃあったんや』みたいな話を聞くとめっちゃ羨ましいな思いますね。ピア(かつて福井にあったショッピングセンター)にもめっちゃ行きたかった。でもそういうのって昔話であんときはよかったねっていうこともできるんだけど、今からある程度つくることもできるんじゃないかなって、そんなことは思ったりしますね」

●熊野さん

「やっぱり『場』って大事なんだろうなと思っていて、ふらっと立ち寄れるような場がまちなかにあって、そこで人と人が出会って何かが生まれたり一歩踏み出せるようになるといいのかなと思いましたね。今ちょっとそこが足りてなくて、中高生の行き場がない問題とかも出てるので、そういったところをうまく拾い上げて、声を聞けて一緒に考えていくようなところがあるとすごくいいまちになるだろうなと思っていました。それと、後藤さんのデータ分析も見ながら、やっぱりまちなかのことをもうちょっと考えようよって、さらに思ったところですね」

●後藤さん

「『意見を聞く・聞いてあげる』とかじゃないようにした方がいいかもしれないですね。巻き込みましょうっていうのも、『巻き込むか・巻き込まれるか』みたいなラインがあるじゃないですか。
あとは「まちづくり」って単語をあまり使わないでいいんじゃないかなってちょっと思ってて、結果として、まちは良くなったりとか、何か起きたりとかすると思うんだけど、まちづくりをするからみんな集いましょうみたいに振りかぶっちゃうと、結構つらいですよ。
やっぱり自然と日常の中で起きてることを大事にするっていう感覚が割と大事で、実はそれって福井人の心根としてはあるんだと思ってます。それでいいんじゃないかなって。日常の延長線上でやってることがいいよねって言える感じ。ゴールがあって逆算があってこうするっていうのじゃなく、ちょっとずつ積み重ねて進んださきにいいことが起きるね、というふうになったらいいんじゃないかと思います」

おわりに

短い時間の中で、県都グランドデザインに関するお話をたくさん聞くことができた今回の講座。特に表舞台にはなかなか出てくることのない裏方たちからの視点でのお話がメインだったのは、ふくまち大学の講座ならではだったと思います。

実は当日の講座の中では機材トラブルが連発し、スライドもうまく写せなかったりといったことも起こっていたのですが、その分こちらの記事ではゆっくりとスライド資料もご覧いただくことができるようになっています。特に後藤さんの分析データはぜひじっくりと読み込んでみてください。

たくさんの人たちの思いを乗せて、動き出す福井のこれから。

みなさんはこのグランドデザインをみて何を感じますか?
ぜひコメントなどでお聞かせいただけると嬉しいです。

こちらをクリックしてダウンロードできます

それではまた、次の講座でお会いしましょう!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?