アニメに出てくる建築について 導入編

フィクションに出てくる建築─
映画に出てくる建築とかは建築家の方々が 結構分析してたりする。その理由は、その 建築や空間・素材が何を表象しているかというのを見るための媒介になるから。 でも、アニメとかはない。
建築の人は小難しそうなの好きだから多分見ないのだと思う(偏見)。


なぜ、アニメか─
映画とアニメの最大の違いはアニメはありとあらゆるものが人工物というところ。
映画監督の黒沢清は映画はアニメに対して「未熟」な創造物だと言っている。アニメ研究でも「私たちはなぜ動く絵に心を動かされてしまうのか」みたいなことが結構話題にのぼるので、美学的な見地から言っても結構本質的な問いのような気がします。

前置きは長くなりましたが、最初の「アニメは全部人工物」と言う辺りが、たとえば何かの建築が描かれた時にアニメは映画以上にそれが(作者にとって)何を表象するのかがより強く現れるのではないかと言うことです。

軽く例を挙げてみましょう。

『偽物語』─「brood」三分一博志
『偽物語』─「KAIT 工房」石上純也
『偽物語』─「ラ・ヴィレット公園」バーナード・チュミ
『猫物語(白)』─「国立国会図書館関西館」陶器二三雄
『傷物語』─「東雲キャナルコート」山本理顕
『輪るピングドラム』─「TGV リヨン空港」サンディエゴ・カラトラヴァ
『輪るピングドラム』─「ストックホルム市立図書館コンペ案」
『ユリ熊嵐』─「日比谷図書館」
『サカサマのパテマ』─コルビュジェっぽい都市
『ガッチャマンクラウズ』─「ふじ幼稚園」手塚貴晴
『田中くんはいつも気だるげ』─「基町高校」原広司
『たまこラブストーリー』─「京都駅」原広司
『じょしらく』─「武蔵野プレイス」kwg アーキテクツ
『ピンポン』─「大さん橋」foa
『ピンポン』─「藤沢市秋葉台文化体育館」槇総合建築計画事務所
『魔法少女まどかマギカ』─「ディオール銀座店」
『攻殻機動隊』─「アビタ 67」モシェ・サフディ


とりあえず、まとめ─
ほんの一部ですが、こんな感じで結構出てきます。
現段階で簡単にまとめると

■場所を表象するため

■世界観を表象するため

のふたつのあり方があり、そのどちらか、ふたつの組み合わせで建築が引用されているような気がします。


場所を表象するため─
『じょしらく』とか『たまこラブストーリー』などです。
 『じょしらく』は東京の名所を説明するアニメ、『たまこラブストーリー』は京都を舞台にしたアニメなので、これは結構わかりやすいです。
また原作では用いられていないのに アニメでは具体的な引用がされている『田中くんはいつもけだるげ』のようななぜか建築が出てくる謎の作品もあります。
とは言え、具体的な場所を設定して展開する作品って実写の作品も含めてもパッと思い浮かばないような気がします。あったとしても、『東京タワー』とかある種のランドマークが物語の肝となる作品なような。実写はあまり特徴的な建物を引き合いに出して表現することは少ない気もするので、一枚絵でどんと見せるのはアニメならではの表現に思えます。また、その建築がその場所の表象として捉えられているのも面白いポイントかと思います。

世界観を表象するため─
『サカサマのパテマ』とか『物語シリーズ』などです。
『物語シリーズ』は原作が基本的に会話劇なので、絵作りのために力の強い建築が用いられているのではないかと思います。
ただ、なぜその建築が用いられていたかを考えると、たとえば 「コンクリートはなぜ非人間的な印象を与えるか」みたいなイメージ論に繋げられるような気がします。(フォーティーの『メディアとしてのコンクリート』のような視点)
そう言う風に考えると『サカサマのパテマ』のコルビュジェの荒々しいコンクリート建築のエッセンスが散りばめられているのはドンピシャな感じがします。

そう言えば、『ユリ熊嵐』では「日比谷図書館」が学校になっていたり、『輪るピングドラム』では「ポンピドゥーセンター」が病院になってたりとイクバラ作品では用途が転換されていたりすることもあります。それがなぜかと考えると面白そうです。

例外?進化?「舞台」としての建築─
今回取り上げたもののほとんどは「背景」として建築が取り上げられているものですが、例外のものもあります(むしろこっちの方が面白いと思います)。
絵として建築が引用されていてもプロポーションが崩れているのが結構多いです(分かりやすいのは『じょしらく』)。

「イメージ」が伝わればいいと思うので、それでも良いと思いますが、一方で最近のアニメでは、 2D+3D の「2.5 次元」的な表現が増えています。
これの利点は建物やキャラクターだけモデリングして動かすことで、従来のアニメではできなかったヌルっとした動きができるところです。
例を出すと『進撃の巨人』『アイカツ』『ハーモニー』『楽園追放』などがあります。
ちなみに、セルルック CG と言う 2 次元っぽい絵でモデリングする技術がふんだんに使われているハイコンテクストで先進的なアニメはアイドルアニメらしいです。

こうした例では背景はむしろ「舞台」の ようになります。
前述した例で言うと一番面白いのは『傷物語』ですね。この作品では、「山梨文化会館」がまさに「舞台」になっています。
で、なにが面白いのかと言うと、背景が 3D になると言うことで通常のアニメにおける「イメージ」としての引用に加えて「スケール感」や「プロポーション」と言う要素も加わってくるからです。
『傷物語』と言う作品自体が賛否両論なので、こうした表現がどう言う影響を与えるかはまだ分かりかねますが、アニメが建築をさらなるパラメータで取り込んでいるのは面白いような気がします。


また、大ヒットした『君の名は。』も 2.5次元アニメです。 構図決めは実際にモデリングしてから決める、予告なんかで流れてた長野から東京まで行くスピード感のある映像は実際に地形含めて長野から東京までのモデリングをするなど、ここまでくるともはやアニメは「絵」ではなく「空間」と言う感じですね。
この展開がされると結構面白い作品とか出てきそうな気がしますね。(参考URL:http://area.autodesk.jp/case/movie_tv/your_name/


まとめ─
・映画だけじゃなくて、アニメなどからも建築の「メディア的性質」みたいなものを考えられそうじゃないか?(意味論、イメージ論とか)

・アニメ(とかゲーム)は、映画よりむしろテクノロジーの進化を受けやすい(全部が人工物だから)。だからこそ、新しいテクノロジーに対応した表現としても考えられる。

・「建築映画」とは違った「建築アニメ」的なものも出てくるのでは?

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