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「伏線」から空間について思いを馳せてみる! #VRChatワールド探索部

VRChatワールド探索部の時間です!
VRChatワールド探索部は週一回VRChatのワールドを巡るゆる~い部活です。

活動報告をタカオミさんが書いてくれているのですが、たまには僕も書いてみようと思い、キーボードをたたいています。


みなさん、「伏線」って好きですか?
僕は大好きです。
今回は「空間に埋め込まれた伏線」という視点からVRChatワールドを考えてみたいと思います(思いつくままに書いているので、厳しいツッコミは...!)。

いきなり「伏線」ってなんだなんだ、という方もいるでしょう。
改めておさらいしてみます。

1 小説や戯曲などで、のちの展開に備えてそれに関連した事柄を前のほうでほのめかしておくこと。また、その事柄。「主人公の行動に伏線を敷く
2 あとのことがうまくゆくように、前もってそれとなく用意しておくこと。また、そのもの。「断られたときのために伏線を張る」

goo辞書

「伏線」は一種の物語の技法であり、小説のほか、漫画や映画などにも使われるのが一般的です。

たとえば最近では、『ONEPIECE』の最新話の表現を受け、昔のあのセリフが伏線だったのでは?なんて話が出ています。

伏線が伏線だと分かると人は思考が止まらなくなってしまうもので、つまるところ、伏線とは「想像力を沸き立たせるもの」だと言えると思います。

ただ、伏線はこうした小説や映画のような物語に限定されたもので、建築や空間などとはあまり馴染みがないのではないでしょうか。

しかしながら、VRChatでワールドを巡っていると「これは伏線では?」としか思えないものがある空間に遭遇します。
探索部で巡った中では、以下がぱっと思いつきました。

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YORU
Created by: AAYOISHO
https://vrchat.com/home/world/wrld_3cb93636-d597-4868-bfc6-c576262ff869

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誰そ彼 -The Twilight-
Created by: miyanohara
https://vrchat.com/home/world/wrld_73bf103a-19d1-4bbd-9a34-900656fdaad0

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Gajumaru Village
Created by: masanaga1101
https://vrchat.com/home/world/wrld_3868e5a9-58f6-48a3-a861-70eb38a78f0e

どんな伏線が込められているのかを説明するのは無粋なので、どんなワールドかは皆さんで確かめてみてください。

このようにVRChatワールドには小説や映画などで使われる「伏線」が「空間に」込められていることがあります。

現実の空間ではそうしたことがまったくされていないのでしょうか。
実は建築家の青木淳氏は「青森県立美術館」という建築において、明示的に「伏線」という言葉を使っています。
少し引用してみましょう。

『KUMANO』で最初にマッチがでてきて、その後に祭りの火がでてくるように。お祭りの火がでてくると、見た人は、なるほど、そうであったか、と思う。最初にマッチがあった理由がここにあった、と。でもよく考えてみれば、前に見たのがまた出てきたということに過ぎない。過ぎないのになぜか納得する。それが伏線ですね。シーンとシーンが記憶を介して繋がる、あるいは戻る。あるいは、繋がらない場合もあったり。
建築と写真のあいだに──青森県立美術館をめぐって 青木淳×鈴木理策
伏線という技法を駆使していくと、見えているもののなかで繋がりを失わせたり、作ったりすることで一つの世界ができてしまうところが面白い。
建築と写真のあいだに──青森県立美術館をめぐって 青木淳×鈴木理策

青木氏も伏線を一種の「想像力を沸き立たせるもの」として捉えています。
また、著書『フラジャイル・コンセプト』には下記のような一節があります。これは青木氏の建築に対する姿勢を表現したものです。

結果として、いつも目の前にある世界ではあるけれども、なにかが違っていて、それで別世界にも思え、ちょっと酩酊したような気分になる
『フラジャイル・コンセプト』

つまり、青木氏にとっては、建築や空間はある種の想像力を喚起するものだと考えられているように読めます。

では、「青森県立美術館」ではどのような「伏線」が込められているのでしょうか。

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「青森県立美術館」ではこうしたアーチ窓が唐突に現れます。
ここでは、このアーチが一種の伏線となります。
この建築を体験していくと、アーチをきっかけにさまざまな想像力が喚起されるのです。

このなかで青木さんは《青森》では伏線を張るのが重要だった、しかしその伏線自体は無根拠なのだと書いています。例えばアーチ窓。この窓はまず外壁に唐突にあらわれ、忘れた頃にまたあらわれて、最終的にコミュニティホールで全面的に展開される。《青森》を体験する人は、何度もこのアーチ型の窓を見ることになるので、最後にずらっとあらわれたアーチ窓を見て、「ああなるほどね」と思う。しかしそれ自体には根拠がないのだと。
続・かたちってなんだろう 青木淳(建築家)+ 浅子佳英(建築家、インテリアデザイナー)

青森県立美術館では、ほかにもこうした想像力を喚起させるものが散りばめられています。

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とても面白い建築なので、気になった方はぜひ行ってみて下さい。

さて、このように現実の空間でも「伏線」が使われることはあります。

しかし、なぜ小説や映画ほどポピュラーではないのでしょうか。
それは小説や映画が「線形」な体験をもたらす(すべてがそうであるわけではありませんが)一方で、空間体験は「線形」になりにくいからです。線形でなくなると伏線というものは機能しにくくなります。であるからこそ、あまり使われないのかもしれません。

「線形」な体験という視点で考えてみると、「青森県立美術館」のような「美術館」は限定的に「線形」な空間体験をもたらすビルディングタイプだと言えます。
なぜなら、美術館(の展示室)には「入口」があり「出口」があるからです。美術館を体験する人は基本的に入口から出口へ向かうことになります(ただ、この美術館はそれすらも解体しようしている意欲的で面白い建築です)。
だからこそ「伏線」が機能しやすいとも言えます。

ただもう少し考えてみると、実は「伏線」という言葉は使われてないものの、基底現実の空間には多くの伏線が込められているのかもしれません。
なぜなら、伏線が持つ「想像力を沸き立たせるもの」というのは線形であることが必須ではないからです。そこにアクセスにするのはどのようなかたちでもよいはずなのです。

私たちは基底現実の空間を「そこに最初からあるもの」という無意識の前提として生きています。だからこそ、「ささいなもの」である伏線に気が付きにくいのでしょう。

一方で、バーチャル空間は「誰かによってつくられたもの」です。当然、そこには作者の意志が込められています。
だからこそ、私たちがバーチャル空間にいる時、意識・無意識に関わらず「ここは誰かによってつくられた場所」ということを頭の奥底に持っていて、こうした「伏線」という「ささいなもの」を意識しやすくなるのではないかと思います。

さて、話が大きくなりすぎてまとまらなくなってきそうなので、このあたりでまとめましょう。

これまで「伏線」は小説や映画などの二次元媒体のものと考えられてきましたが、バーチャル空間が発展することにより三次元媒体にも当てはまる言葉になっていくのではないかと思います。
「伏線」という言葉が重要というわけではないですが、ここで言いたいのは、つまり空間という三次元の媒体が私たちの意識においても一般的で重要なものになってくるということです。

バーチャル空間に思いを馳せる時、こうした空間の成り立ち方や構成に思いを馳せてみるのも楽しいのではないでしょうか。

以上、VRChatワールド探索部の活動日誌でした。

なんか真面目そうなこと(思いつくままに書いています)をつらつらと書いてみましたが、ゆるーりと活動して、こちらに活動報告を上げていますので、ぜひご覧ください!


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