ワールド探索日記 2022/11/13
先週の、イギリスの独立系映画祭RAINDANCE映画祭のVR部門として10/26~11/26で開催されている「RAINDANCE IMMERSIVE」の特設ワールドツアーに続き、ノミネート作品のVRChatワールドを作者さんに案内してもらえるという貴重な機会があったので、参加してきました。
今回案内いただいたのは「Lost Valley Lake Retreat by nprowler」「Namuanki by Kevin Mack」の2ワールド。それぞれ趣向がまったく異なるワールドで、興味深く拝見しました。
なおツアーの企画はVRChatワールド探索部部長のタカオミさん、「RAINDANCE IMMERSIVE」キュレーターのMariaさん、ツアー中の通訳はタカオミさん、wata23さんが務めてくれました。また、案内してくださった作者のnprowlerさん、Kevin Mackさんありがとうございます!
Lost Valley Lake Retreat by nprowler
最初のワールドはnprowlerさんによる「Lost Valley Lake Retreat」。カナダ在住らしく、カナダの雄大な自然が楽しめるワールドのようです。
このワールドの驚くべきところのひとつは「見えるところすべて歩ける」というところです(上の写真の視線の先にある山の頂上にも行けるとか?)。
nprowlerさんも「どこでも歩ける」というところを重視して制作したようで、何か遊び方を強制するというよりはワールド内にあるさまざまな景色を楽しみながら思い思いに過ごしてほしいという思いでつくられたそうです。
最初はジェットスキーに乗って、湖や川をたどって案内してもらいました。雄大な景色を眺めながらジェットスキーに乗っていると、不思議な爽快感があります。
開けた場所や岩に囲まれた狭い川、滝など風景もめまぐるしく変わっていき、いろいろな風景に目移りします。
なんと、これらの風景を構成するために、数千本の樹木と数千個の岩を手作業で配置したそうです…
また専用メニューにより昼夜、星空など自分の好きなシチュエーションに変えられるようになっています。これもまた好きに楽しんでほしいという思いが表れたギミックなのでしょう。
カフェのような場所もあります。ここで語らっていると思わず時間を忘れてしまうとおっしゃっていました。
このワールドではとにかく歩くことになるのですが、その時に感じるのは「同じ風景がひとつとしてない」ということです。
狭まった空間や開けた空間をバランスよく体験することができ、歩いていてまったく飽きない設計になっています。
洞窟のような空間を通った後や長い登り坂を上がった後に開ける雄大な景色。これらの緩急が絶妙で、どんどん探索してみたくなりました。
これもnprowlerさんが「どこにでも行けるようにする」という信念のもと、ワールドをつくっているからこそこうした感情が沸き立つようになっているのでしょう。
個人的に驚いていたのは、これらのマップが立体的に関係しあっていることでした。
nprowlerさんが滝を見かけるごとに「この水は上の湖から流れてきているんだよ」と教えてくれたり、ジェットスキーで通った狭い川を、ルートを辿っていく途中で別のところから眺めることになったり、それぞれの場所がどこからどのように見えるのか、というところが意識されていることが驚きでした。
近年、オープンワールド系のゲームは増え、ゲームにおいて「どこにでも行ける」は珍しくなくなってきていますが、VRでそれを実現しているのはあまり聞いたことがありませんでした。
このワールドでは、その「どこにでも行ける」を実現するために「ある場所から見える風景」が綿密に検討されていたり、少しお話されていましたが軽量化の力の入れようが感じられました。
制作には数か月、毎日十何時間もかけたとおっしゃっており、とてつもないエネルギーを感じました。
Namuanki by Kevin Mack
次に訪れたのはKevin Mackさんの「Namuanki」。Kevinさんは映画業界で数十年ビジュアルエフェクトのアーティストとして活動した後、VR業界に入られたそうです。
「Namuanki」については説明が専門的な部分が多く、理解がまだ及んでないのですが、どうやら遠い未来の世界が表現されているようです。
「Namuanki」にはさまざまな不思議な存在がいて、これらの存在は神話的なモチーフからインスピレーションを得て、生まれたもののようです。(tktkさんがおそらくシュメール神話がモチーフじゃないかと推察されていました)
このワールドではいくつかの島や洞窟を巡り、これらの存在と出会い神秘的な体験をしていきます。
Kevinさんによれば、「Namuanki」はライフワーク的な活動であり、最初のインスピレーションは4歳の時だったそうです。過去にはスタンドアローンなアプリケーションで制作していたそうで、背景に重厚な物語世界が伺えるワールドになっています。
各所にはこの世界について書かれたインフォメーションが散りばめられているらしく、きちんと集めて読んでみたいですね…
「Namuanki」には不思議な存在や有機的な形状の洞窟、不可思議な文様など、見れば見るほど謎を呼び起こすディテールがあるのですが、Kevinさんのこれらについての解説の中で印象的だったのは「プロシージャルである」ということです。
これらのディテールはKevinさんが意図を持ってつくったというよりも「プロシージャル」という手法を取ることで、自分でも意図していないものが生まれていると解説されていました。
Kevinさんがこのワールドについて話すときも何か「啓示」のようなものがあって、と説明されていたり、「別の存在」を示唆しながら世界が構成されており、またその世界を生成する手法としてプロシージャルを重視されていることは興味深かったです(ちなみにHoudiniだそうです)。
ある存在に触れると「ヴィジョン」と呼んでいた、不可思議な体験ができたり、神秘性がワールドで表現されており、非常に面白い体験でした。
Kevinさんは今後このワールドの拡張や、自身の作品を展示するミュージアム、アートブックの出版も計画しているそうです。アートブックはぜひ読んでみたいなと思ったので、今後が楽しみです!
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