マガジンのカバー画像

日々雑感2018

106
テキストなどを放り込んでいく場.基本的には読書録・映画録になると思います.2018年は精読を心掛ける!
運営しているクリエイター

2018年8月の記事一覧

「眠り」とは死の疑似体験ではないだろうか─『夢の場所 夢の記憶』,『おとぎの国の科学』

一時期,夢を見るために寝てると言っても過言ではないほど,寝まくっていた時期がある. 今でも夢を見るのは好きだし,寝るのも好きだ. 案の定,夢であるから起きてしばらく経ったらすっかり内容は忘れてしまう.夢日記でもつければいいのだと思うが,夢日記をつけると精神が狂うという眉唾ものの話をどこかで聞いてなんとなく夢日記をつくる気は起きない. そういえば、建築計画学の祖である吉武泰水が書いた『夢の場所 夢の記憶』という本は,自身が二十数年間つけ続けた夢日記の内容から建築の空間などに

運動を生み出す運動/生成的に世界を見る─建築情報学会キックオフ準備会議第3回

8/3(金)に建築情報学会キックオフ準備会議第3回を拝聴してきたので,メモ書き程度ですが,ログをば. 感性の計算──世界を計算的に眺める眼差し 明示的に言語化、計測できる〈機能〉に対し、私たちが世界を具体的に捉え、楽しみ、記憶に刻む入口となっている〈感性〉について、建築や都市の設計はどこまで確かなものとして扱ってきたのでしょうか。 今回は、建築・都市設計および関連する分野において、情報技術がいかに〈感性〉への取り組みを拡張しつつあるのかについて議論を行ないます。その起点とし

計算的に世界を見る─xLAB,アンドリュー・ウィット氏講演

8/4(土)に拝聴したxLABのファカルティ・レクチャー,アンドリュー・ウィット氏の講演が非常に面白かったので,簡単にメモを(同時通訳だったが,あまり内容は聞き取れなかったと思う). とりあえず,xLABについて 2週間を通して世界各国の先進的な建築教育を行う大学の学生を対象に行われるスタジオ。xLAB サマー・プログラムでは、スタジオの開講に合わせて一般公開プログラムとして講演会を開催します。 アンドリュー・ウィット氏について ハーバード大学デザイン大学院建築学科准

後ろ向きに生きる─フランツ・カフカから

奥泉光による音楽ミステリーの新しい挑戦。 虫への〈変身〉を夢見た伝説のサックス奏者。彼の行方を追い求めた先に〈私〉が見たのは─。カフカ『変身』を通奏低音にして蠱惑的な魅力を放つ、音楽ミステリーの新しい挑戦。もう一つの代表作。 『変身』ではなく『変態』『虫樹音楽集』という小説を読んだ後に,一時期カフカについてよく考えていた. 小説の中で物語のキーとなる人物が 「カフカの『変身』は本当なら『変態』と訳されるべきなんだ」 と言う. 変態とは昆虫が進化してトランスフォーム

他者について─『トウキョウソナタ』

『トウキョウソナタ』を観た. 小学6年生の次男・健二は父に反対されているピアノをこっそり習っている。しかし父親はリストラされたことを家族に打ち明けられずにおり、兄は米軍に入隊しようとしているなど、やがて家族全員に秘密があることが明らかになっていく……。 破滅的なストーリー. 父親のリストラを機に瓦解していく家族を描く.過剰に役割を強制された家族は,近代家族の呪縛にとらわれた亡者たちだ.とうに破滅しているのに,家庭内ではなんとか権威を保とうとする父親,夫に愛想をつかしながら

さよなら,わたし─『ハーモニー』

『ハーモニー』4度目くらいの再読.相変わらず素晴らしい作品である. 21世紀後半、〈大災禍(ザ・メイルストロム)〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。 医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、 見せかけの優しさや倫理が横溢する"ユートピア"。 そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択した―― それから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはすの少女の影を見る―― 『虐殺器官』の著者が描く、ユ

中二病の人工知能─『人工知能の見る夢は』

◎対話システム ◎自動運転 ◎環境知能 ◎ゲームA I ◎神経科学 ◎人工知能と法律 ◎人工知能と哲学 ◎人工知能と創作 3度目のバブルを迎え,人工知能(AI)という言葉は今や知らない人はいないだろうというほど毎日聞くキーワードとなった. しかし,一口に人工知能と言ってもそれらの仕組みと目指すものが違うことは多々ある.本書はそれを「物語」という形で提示する. 「物語」は人間が生み出した現実への媒介装置だ.これを読むことで人工知能にまつわるいくつかの事柄が理解でき

『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』

◆心理学✕テクノロジー、仮想現実の最前線◆ ・VR内での体験を、脳は現実の出来事として扱ってしまう ・VR内で第三の腕を生やしたり、動物の身体に〝移転〟しても、脳はすぐさまその変化に適応し、新たな身体を使いこなす ・イラク戦争後、〝バーチャル・イラク〟を体験するVR療法により、PTSDに苦しんでいた二〇〇〇人以上の元兵士が回復した ・VRで一人称視点の暴力ゲームをプレイすると、相手が仮想人間だとわかっていても生々しい罪悪感を覚える ・仮想世界で一日過ごすと現実と非現実の違いが

世界は「広かった」─『ペンギン・ハイウェイ』

毎日学んだことをノートに記録している勉強家の小学4年生アオヤマ君は、通っている歯医者のお姉さんと仲良し。お姉さんも、ちょっと生意気で大人びたアオヤマ君をかわいがっていた。ある日、彼らの暮らす街に突然ペンギンが現れる。海もないただの住宅地になぜペンギンが現れたのか。アオヤマ君は謎を解くべく研究を始めるが、そんな折、お姉さんが投げ捨てたコーラの缶がペンギンに変身するところを目撃する。 久しぶりに映画館に馳せ参じて映画を観たのである. あわせて今話題の『カメラを止めるな!』も観た

「秘密」は「秘密」─『今こそ政治を話そう 好きな子の名前は秘密』円城塔

ネット上の記事は消えてしまっているのだけど,2014年に朝日新聞に掲載された円城塔氏の文章が非常に面白かった. その文章を読んでこんなことを思った. 「秘密」とは「秘密」であるからこそ,「秘密」なのだという当たり前のこと. 「秘密」はその内容を暴かれた瞬間に「秘密」ではなくなる. それならば,「秘密」の存在を保たせておきたいならば「秘密の内容は秘密」ということにしておけばいい.そのとき,「秘密」の内容は存在していなくてもいいのかもしれない. 「秘密」というものを成り立たせ

『伊藤計劃トリビュート』

「公正的戦闘規範」藤井太洋軍事ロボティクスの未来を描いた作品. タイトルのダブルミーニングが憎い.ドローン型戦闘兵器の存在の仕方というものについて考えさせられる.ドローンが落ちてニュースになっていたことがあるが,よくよく考えてみればそこに爆弾を搭載してテロを起こすということが容易にできるということだ. 世界はギリギリのラインで成り立っている. 「仮想の在処」伏見完著者は1992年生まれと何と年下. もうそんなに年になったかと妙に落ち込む. 「わたしの双子の姉。生まれた時に

私たちは「思ったより」も「無知」である─『知ってるつもり』

なんでもは知らないわよ。知ってることだけ。 と言ったのはどこぞの(元)メガネ美少女だったか. 彼女は自分にどれくらい知識があるかわかった上で,自らは全知ではないと語る. 一方,私たち人類は自分が「何を知らないかすら知らない」ばっかりに,ある意見に流され,簡単に,浅はかな判断をしてしまう. そんな人間の愚かしい姿を明らかにするのが本書『知ってるつもり 無知の科学』である. 水洗トイレや自転車の仕組みを説明できると思いこむ、政治に対して極端な意見を持っている人ほど政策の中身

読者よ,正解されたし─『正解するマド』

野崎まどが脚本を手がけたTVアニメ『正解するカド』のノベライズを依頼された作家は、何を書けばいいのか悩むあまり精神を病みつつあった。次第にアニメに登場するキャラクター・ヤハクィザシュニナの幻覚まで見え始め…… 2017年に放映された野崎まど脚本によるテレビアニメ『正解するカド』のノベライズ. 真道幸路朗(しんどう・こうじろう)は、外務省に勤務する凄腕の交渉官。 羽田空港で真道が乗った旅客機が離陸準備に入った時、空から謎の巨大立方体が現れる。“それ”は急速に巨大化し、252

時代の雰囲気を感じよう─『建築 未来への遺産』

稀代の建築史家であり,つねに建築・都市の現在への鋭いまなざしを向け続け,評論の最前線を駆け抜けた故・鈴木博之.最も近しい研究者たちの手により,膨大な既発表テキストから書籍未収録のものを中心に精選し,系統的に集成.その足跡と思想を通観できる一冊. 2014年に亡くなった建築史家・鈴木博之氏が書き遺したテキストの中から公刊されていないものを親交の深い研究者たちが厳選し,編集した書籍. 明治村館長など数々の活動を行いつつも,膨大なテキストを残した氏の多筆さが伺える書籍となってい