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夢日記「点数男」

気がつくと、そこは大きな船の上のようだった。そしてそこは、鎌倉であるような、そんな雰囲気があった。風の匂いが、そうだった。

船内は何故か和風の様相で、壁にはクナイや手裏剣、六文銭の旗が飾られている。忍者や侍をモチーフにした船なのだろうか。斬新だ。現実とは思えない。

私は用事を思い出し、会議室「しらかば」に向かった。そうだ。ここには面接をしに来たのであった。とあるリゾート経営上場企業の最終面接。その会場が、ここ船上であったのだ。思い出した。

私の将来が懸かった最終面接。相手は、企業のトップ、代表取締役だ。どんな質問をしてくるのだろうか。何度もエントリーシートを添削し、面接練習を繰り返した私は、むしろワクワクしていた。

高鳴る胸を抑えて「しらかば」へと向かう。丁度、予定時刻だ。

コンコンコン、と3回ノックをする。「どうぞー」と声が聞こえてくる。女性の声だ。おかしい、代表取締役は男性だったはずだ。そんな疑念を抱きながらも、待たせる訳にはいかないので、静かにドアを開ける。

部屋の広さは、16畳ほど。天井も高い。正面には、堂々と代表取締役らしき人物が鎮座していた。それは間違いなさそうであった。

ただし、顔が無かった。そして、看板を持っている。看板には「零点」と書かれている。私は突然の情報量の多さに面食らってしまった。何が零点なのだろう。

代表取締役の横には華奢な女性が立っている。どうやら秘書のようだ。こちらにも顔がついていない。

「こんにちは。ボーッと突っ立ていないで、こちらに御着席ください。」

突然、秘書が移動を促した。しかも、これまで経験してきた中で、中々に粗雑な言葉遣いで。

「代表取締役の戯本(ざれもと)は、音声を発することが出来ません。ですので、私が代わりに、あなたに質問をしていきます。どうでもよいですが、私は秘書の花咲(はなさき)と申します。」

なんだなんだ。そんな代表取締役が居ていいものか。そして、秘書も秘書でクセが強い!私の心はツッコミで滔々と溢れた。

「戯本は、貴方の返答に対して点数を付けます。その点数次第で、あなたの内定合否が決まります。ここまでの面接を突破してきた貴方でしたら、おそらく大丈夫かと思いますが、よろしくお願いします。」

流暢な語り口で矢継ぎ早に説明を続ける秘書の花咲さん。ツッコミどころは多々あるが、さっきの「零点」が気になる。私は既に何かミスを冒しているのだろうか。

部屋を見渡す。私が座るべき椅子と、代表取締役と秘書の前にある机、それ以外は特に変わったものは見当たらない。

ただ、耳を澄ますと、部屋の四隅からはBGMが流れていた。ハンガリー舞曲第5番だ。疑問符しかない。面接にミスマッチすぎる。

「ハンガリー舞曲第5番のことは、お気になさらず。特に意味はありません。」

なんだなんだ。この花咲さんという秘書は。心が読めるのか。というか、意味が無いなら、特に流す必要も無いのではないか。

「特に意味のないことでも、御社にとってはイノベーションの素材として重宝する。代表取締役の戯本は、そうした方針を掲げております」

なるほど。謎が解けた。何故、代表取締役の戯本さんが語らなくとも花咲さんが面接を進めることが出来るのか。花咲さんは相手の思考が読み取れるのだ。

いや待て、だとしたら、この思考も読み取られていることになる。そんなの、どうすればいいんだ。嘘なんてつけないじゃないか。

「嘘をつく必要は全く御座いません。お察しの通り、私は貴方の思考が読み取れますので、語らなくとも結構です。面接とは、企業と志望者のマッチングですから。そこに嘘があっては、入社してから貴方が困り、弊社が損をするだけです。心置き無く、本音を吐露していただければ、と思います。」

なるほど。だとしたら、腑に落ちる。逃げ場のない思考。もう割り切るしかない。むしろ本音が伝わる分、ありがたい。私の本質を曝け出してやろう。

「では改めて、貴方の志望動機を教えてください。」

「はい。私は、御社の“挑戦”という理念に強く惹かれております。」

(あと、年間休日が多く、業務内容が楽そう)

「なるほど。確かに、弊社は挑戦心を持った方を歓迎しております。業界内では確かに年間休日は多いほうです。しかし、業務内容は楽ではありませんよ。」

…なんてことだ。本心が筒抜けてしまっている。見透かされていることが、こんなにも恥かしいだなんて。むしろ本音が伝わる分、ありがたい。私の本質を曝け出してやろう。なんて言っていた自分を殴りたい。

社長は「30点」と書かれた看板を掲げている。

「…なるほど。もう、結構です。面接を終了します。」

(入社したい気持ちは本当なのに!)

「どうぞ、お帰りください。」

看板には、50点の文字が浮かんでいた。

そこで目が覚めた。
覚えているのはここまで。

#夢日記





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