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ネタバレあり 『37セカンズ』(2019)

痛快!


すぐに観に行って下さい!

「生まれた時に37秒呼吸が止まったことで脳性麻痺になった女性」が主人公なわけですけど
お涙頂戴映画じゃないところがものすごくいいです。

***

イントロがものすごくいいですね。

あのシャワーシーンで
自身も脳性麻痺を持った新人女優佳山明さんの「覚悟」があの姿で観客にバンッと見せつけられるし、
お母さん役の神野三鈴の「天使と悪魔」の両面性もチラッと見せている。

こっからどんな展開にでも行けるワクワクがイントロで提示されるので
「今から2時間絶対楽しい♪」と信頼できたし
実際そうだった。


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セリフ以外で語られることが多くて、映画として素晴らしい。
物語の積み上げも緻密。

それでいて、後半からフワ〜〜〜ッと自由度が増して
ちょっとファンタジックな展開になるんですけど、それも良い。
爽快。痛快。


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どういうわけだか、役者がみんな良い演技。
初監督のはずなんですけどね、HIKARIさん。
どういう能力のスタンドをお持ちなのでしょうか。。

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●ユマ - 佳山明


初演技とのこと。
ある程度は順獲りだったと思います。映画が進むにつれて堂々としてくる。
あのか細い声が最初は不安でしたが、
途中から映画の中心人物として、人生の主役としての吸引力がすごかったです。

あと、車椅子の演技!あれはやっぱ普段から自分の体として車椅子を使ってる人の技術ですよね。
感情によって速度や動きが変わる。あんなことできないですよ。


●お母さんー神野三鈴


役ぴったりですね。
「私の犠牲によって幸せが保持されていることをみんな知らないけどそれで良いのそれで良いと思ってるの」っての24時間滲ませてくる母親。。
後半からホラーアイコンみたいになってきて面白かったです。あれは笑っていいと思いますよ。
舞台出身の方なので、演技もちょっと大きいですしね。。


●ヘルパーー大東俊介


この役難しいですよね。ほとんど透明人間。
でも大東俊介の「聞く演技」「居る演技」が素晴らしかった。。。マジで。そうそうできることじゃないですよ。
『望郷』でも良かったけど、今回も素晴らしい。

●風俗嬢ー渡辺真起子
みんな大好き渡辺真起子!死ぬほどかっこいい。
でもこの役も本当に本当に本当に難しい。。
下手したらものすごく無責任な人間になってしまう。
それも含めた「神様感」がすごい。。
もうね、わかんないんですよ。なんでこんな演技が成立するのか。。


●ユマの友達ー萩原みのり


この人は作品ごとにまるで顔が違う。演技プランが違う。
今回も全然違うし、薄っぺらい役のはずなのに薄っぺらくない。。
ちょっとしたセリフにあの人物の「常に崖っぷち感」が滲んでいる。。


●海沿いで宿を営む男ー尾美としのり


驚愕。。登場シーンの表情のあまりの的確さ。。。
観客は「この男がアイツか!」と思って観るわけですが
その割にはちょっと表情が違うな、、と思うわけです。
そしたらば、実はということで彼が語り始めると
あ〜なるほどだからあの表情なわけね、と。
びっくり。あんなミリ単位レベルの演技ができるのですか!


●編集長ー板谷由夏


いつもの板谷由夏。多分撮影は1日ですね。でもこの映画の始まりと終わりと司る超重要な役。
会話の間が異常に早いのが可笑しい。
せっかちなんだけど雑じゃない。
ぶっきらぼうなんだけど愛がある。
「この人に褒めてもらえたら本物」って思える人物像。

●看護師ー石橋静河


「どんな役でもいいから出させてくれ」と直談判してワンシーンだけ出演。
声が良いし、「どんな役でもいいから出させてくれ」って言って出演を勝ち取った割に、圧がないんですよ。
「見せてやれ!」っていう感じがない。
もう、ほんとになんなのこの映画。。。

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この映画、ものすごく取材をされたんだと思います。

脳性麻痺についてもそうだし
セックスワーカーについても。

そうすると深みが違うし
観ていて不安がないから物語に誘われるし、
観客が知らない「その人たち」の持つパワーをすんなりと受け入れられる。


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自分と違う性質を持った人の物語を観るのが映画の楽しみのひとつ。
体の特徴なり、国や地域なり、性別なり、性的指向なり。

自分と違う人がいるってことは知ってるけど
普段やっぱちゃんと考えてないし
断片的に情報が流されてきても素直に受け取るのも難しい。

でもこうして
覚悟を持って誠実に取材されて誠実に表現された物に触れると
自分と違う人だった人が「自分と同じ人間」として受け入れられる。


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存在するだけで多くの人の生きる気力を奪う映画もあって
観てもないのにエネルギー吸い取られてたけど
この映画ははもうもうもう最高。
痛快。

これが映画のパワーだよ。
あ〜観てよかった!
素晴らしい。
エネルギー湧くわ!

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真夏の撮影だったので
体温調整が難しい佳山明はすぐに疲れてしまって、愚痴を言っちゃったそう。

それを神野三鈴が
「あなたは主役なんだから、逆にみんなを励まそう!」とガンガン怒ったとのこと。

それにより新人女優としての覚悟を理解していったと。

佳山明のこの演技によって、障害を持った人にも俳優としての道が拓かれることでしょう。


あ、
渡辺真起子の常連客を演じた能條慶彦のエロオヤジ感も素晴らしかったですね(笑)。

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ネタバレは以下に。







板谷由夏が冒頭で語る
「セックスしたことないのにセックスシーン描いてもリアリティないよ」というセリフ。
ちょっと古いなぁ、、と思いました。

(童貞が極エロ漫画描くこともありそうだしなぁ。でも女性視線だと違うのかなぁ。)

だから、この価値観はひっくり返って欲しいなと思ってましたが
ラスト
結局ユマはセックスを経験することなく
板谷由夏を納得させる漫画を描き上げましたね。

セックスシーンのない漫画ということですが
彼女が背伸びしない、等身大の彼女なりのリアリティのある漫画を描いたのでしょう。


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ユマの双子の妹由香のセリフ。
「きっとお母さんは何よりもユマちゃんのことが大事だったんだよ」

これは泣ける。。。
由香としてはお母さんに捨てられたと思って生きてきたわけよね。

自分は障害はないけど、障害がある姉にお母さんが奪われた。
障害があるからってズルい!私はずっとお父さんと2人だった。
しかも5年前にお父さん死んじゃったしね。
めちゃ孤独な女性ですよ。
でも健やかな美しさがありましたね。

で、最後、お別れの挨拶にして深々としたお辞儀だなあと思って
「謝罪かよ!」と心の中で突っ込んでいましたら
「ごめんなさい!」と。

「私、ユマちゃんのこと知ってた。障害があるって聞いてて怖かった」と。

的確なんですよね。演技演出が。。

からのユマの
「私のこと、もう怖くないですか?」ですよ。

これは観客にも突きつけてきますね。

電動車椅子に乗ってる私達のこと怖がらすに見てくれますか、と。。

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