三麻ヘッダー

【データ三麻】おわりに たどり来て未だ山麓

データの使い方についての補足

本書は三人麻雀の様々な戦術に関してデータから語ってみました。最後までお読みいただきありがとうございました。

本書では、自分と他家、どちらかがテンパイである場面を取り上げ、牌理に関してはいっさい触れませんでした。これは「牌譜解析によってアガリ率を求め局収支を計算して戦術を決める」というアプローチではなかなか決められない場面であること、たがいにノーテンの状況ではルールによる数値のずれが(相対的に)大きいだろうと判断したからです。また、まだ研究すら始まってない状況だから、「まずはゴールのデータを呈示しよう」と考えたこともあります。

そして、私は「『なんとなく正しいと考えられていたこと』についてその根拠を示すこと」を目的として本書を書きました。根拠を知ることでその戦術に納得でき、自信を持ってその戦術を行使できるようになれば迷いが少なくなり、対局時のストレスが軽減されるからです。なにも新しい何かを切り開くことだけが研究者の責務ではありません。「なんとなく正しいと考えられていたことに対して数理的根拠を呈示すること」も研究者の責務の一つです。

また、本書では戦術論を導くために使用した牌譜解析結果や計算過程を極力列挙しました。というのも、結論のみ、局収支のみしか書かれていなければ、本書の結論と読んだ方の直感が異なる場合に「本の記載と自分の直感、どっちを取ればいいのか」と悩むことになるからです。アガリ率などの根拠となる数値があれば、個別の数値と自分の直感とを照合することによって、より詳細な比較ができます。本書の数値を皆さんの戦術論における根拠の一部にしてください。とはいえ、本書の数値はすべて覚えなければならないものではありません。必要なときに必要なだけ参照していただければ十分です。

なお、本書を見て疑問を持つことがあるでしょう。データから戦術を導く際の推論過程がおかしい、データのとり方がおかしい、前提がおかしいなどなど。それらは牌譜の量から生じる限界、私のプログラミング能力からくる限界、私の三麻の理解の不十分さから生じる限界、ロジックを単純にして理解しやすくしたがための限界などがあり、私自身も「この設定は大丈夫だろうか、現段階では一応正しいと言えるものの、将来、局収支シミュレータを作って検証したらひっくり返るかもしれない」と考えているものもあります。

そういう疑問があれば、「五箇条の御誓文」の「広く会議を興し、万機公論に決すべし」という精神に則り、公共の場にて問題提起し、公論として議論を深めていただければと思います。必要があれば自ら牌譜解析を行うか、人をして牌譜解析をなさせしめることもあるべきでしょう。こういうやり取りが数理的麻雀研究に基づく戦術論を進化させるのです。

いずれにせよ、データは信じるものではありません。また、データは権威主義的に振りかざすものでもありません。データの出し方を調べ、そのデータの誤差を考え、その範囲で合理的な戦術を模索していただければ、本書を軸にデータ・戦術の精緻化がなされれば、結果として私の出した戦術・数値・思想が完膚なきまでに否定されることになったとしても私は十分満足です。

天鳳のデータから
他のルールの戦術を導くことについて

本書では、天鳳の牌譜解析結果を用いて他のルールの戦術を考えています。これに対してただちに思いつく疑問が「他のルールでも同じ数値を取るのか?」でしょう。もっともな疑問です。

まず、原理的なことを確認すると、天鳳以外のルールにおいて本書で利用したアガリ率などの数値がどうなるかはわかりません。そのルールの牌譜が10万試合単位で公開され、牌譜解析すればわかりますが、現状はそうなっていません。「そのルールの牌譜があれば解析しているが、それがない」というのが実情です。そのため、他のルールにおけるアガリ率などを求めるためには「天鳳の牌譜解析結果から類推する」しかありません。ただ、その際には「天鳳の数値が他のルールでも同様の数値を出すと言えるか、また、その根拠は何か」ということは考えておく必要があります。以下、場合に応じて考えてみます。なお、私の意見の前提には四麻のルール別牌譜解析結果がある旨を述べておきます。

まず、4章の数値、リーチ者に対する牌の危険度については、メンゼンの手組、リーチ時のリャンメン以上割合がルールには大きく依存しないことから、牌の危険度が大きく変わることはないかなと考えています。また、本書で述べていない東天紅(関東風三麻)でも大差ないかな、という感覚でいます。ただし、本書で述べてないリャンハン縛りだとどうなるかわからないというところです。

次に、3章の数値について個別に見ていきます。まず、2家リーチに対してベタオリした場合の諸数値はルールによる差が極めて小さいと言えます。なぜなら、自分を除く2家はリーチしており、どのルールであろうが振舞い方に大差ないからです。また、2家リーチに対して追いかけリーチをかける場合も2家の挙動がリーチで固定されている以上、ルールによってアガリ率などは変わらないと言えます。

さらに、1家リーチに対して追いかけリーチをかける場合もアガリ率などはそれほど変わらないと言えます。なぜなら、2家リーチという状況ではリーチをしていない第三者はどのルールであれベタオリする蓋然性が高く、ルールによる差が小さいと考えられるからです。

では、1家リーチに対するベタオリ時の数値はどうでしょうか。ルールによって対リーチの押し引きの分岐点がずれる関係で、これまで述べた状況と比べれば多少数値がずれると言えます。もっとも、基本的にリーチで後手を踏んだら前に出づらいことを考慮すると、数値は劇的に変わることはないと考えています。

最後に、2章の数値、先制リーチ時のアガリ率などについてはどうでしょうか。先制攻撃を仕掛けられた場合の挙動はルールにより多少変動すること、1家リーチに対するベタオリの場合はリーチしていない他家は1家しかいないのに対して、先制リーチを仕掛けた場合の他家は2家いることを想定すると、数値のずれは3章の場合より大きくなることが考えられます。ただ、後手を踏んだら前に出づらいということを考慮すると、これも大きくずれることはないと考えています。この辺は四麻の東風荘及び天鳳特上卓・天鳳鳳凰卓のアガリ率などのデータを比較した際の結果から類推している点が少なくありません。

以上まとめると、相手の挙動がルールによらずに固定される場合、ルールによらずほぼ同じ挙動を示す蓋然性が高い場合、牌譜解析によって得られた数値は他のルールでも似た数値を取るでしょう。その一方で、ルールによって相手の挙動が変われば数値は変わるでしょう。

現段階で言えるのはここまでです。なお、牌譜解析以外の手段でルールによる数値のずれについて詳細に調べようとしたら三麻の局収支シミュレータを作り、相手の挙動について微妙にパラメータを変えた場合のアガリ率を細かく調べる必要があります。これらは今後の研究課題と言えます。

研究者が前提としている仮説(前提)に敏感になれ

さらに、「天鳳の牌譜解析結果を用いて他のルールの戦術を決定した」ということは、「天鳳のルールで得られた数値と他のルールで得られた数値は(一定の誤差の範囲で)整合する」という仮説を前提にしていることとなります。このように本書の三麻の戦術を決定するうえでは様々な仮説を前提としています。そのなかには、真偽が確認されていないものも少なくありません。

例えば、本書では局収支の大小関係に基づいて戦術を決めていますが、これは「局収支と平均順位・半荘収支は比例の関係にある」という仮定を前提としています。この仮説がどの程度妥当なのかは本書で述べましたが、全称命題として確定しているレベルではないことは明らかです。

また、この本は「過去のデータを根拠に未来においてこう打て」と述べておりますが、これは「過去の数値未来の数値は同一である」という仮定を前提としています。現段階で未来の数値がどうなるかなんて観測できない以上、この前提はタイムマシンでもない限り証明できません。なお、年ごとの牌譜解析結果を比較することで同じではないかと推測することはできますが、できるのはあくまでも推測です。

もちろん、確認できるものは確認しています。例えば、先制リーチのアガリ率のデータは親子で分けていませんが、これは親と子でそれほど差がないという牌譜解析結果があるので一括して扱っています。このように前提の真偽を確認して使っているものもあります。しかし、戦術を決めるうえで置いている前提というのはたくさんあり、そのすべてを確認することはできないのが実情です。あるいは、ロジックの明快さを優先して、誤差を過小評価して前提を決めているものもあります。

いずれにせよ、本書を読むのであれば、研究から出された結果だけに注目するのではなく、その前提となる数値や麻雀研究の背景になっている考え方にも触れていただければと思います。それらはみな公論を深めるうえで重要な役割を演じることでしょう。

謝辞

最後に、本書や私の三麻研究は色々な方々の協力によって成り立っております。一部紹介するとともにこの場を借りてお礼を言わせてください。

第一に、オンライン麻雀サイト天鳳の運営者である角田真吾様にお礼を申し上げます。彼が大量の鳳凰卓の牌譜を無償で公開したことが麻雀研究を発展させたことは言うまでもありません。また、これがなければ本書や私の麻雀研究結果がないことは明らかです。第一に彼に御礼を申し上げます。

次に、鳳凰卓で真剣に対局された数多くのプレーヤーに御礼申し上げます。彼らの真剣な対局なくして私の研究も本書もありません。

さらに、私を麻雀研究に興味を持たせた『科学する麻雀』の著者であるとつげき東北氏にも御礼申し上げます。私が麻雀や麻雀研究にはまるきっかけになったのは、約13年前にとつげき東北HPの「最強水準を目指す麻雀講座」を見たことでした。彼の講座と毒舌にあこがれ、2年も経たないうちに麻雀研究をすることになりました。体調の関係で今はやめてしまいましたが、私がインターネットなどにおいて牌譜解析結果を含む麻雀研究成果を大量かつ無償に公開したのは彼への恩返しという意味合いもあります。本書によってわずかでも恩返しできればと思います。

また、麻雀研究者nisiさんにもお礼を申し上げます。彼が四麻のシミュレーションデータを公開・提供してくれることで、三麻の数値についてあたりをつけることができました。

さらに、本書でプレーヤーの観点から意見を下さったabantes氏(第8代三麻天鳳位)にもお礼申し上げます。彼の意見が本書に厚みを加えることになったことは言うまでもありません。

さらに、麻雀配信を昔から手掛けていた01さんにもお礼を申し上げます。彼の配信を見なければ私は三麻に興味を持つことはなかったでしょう。

また、私の開発環境を向上するうえでご助力いただいたRICKさんにもお礼申し上げます。彼のおかげで私の研究環境は極めて良いものとなりました。

最後に、編者である福地誠氏に御礼申し上げます。彼は約5年前、精神的に病み、すべてを失った私を麻雀戦術書の出版という場に引っ張り出し、活躍の場を与えてくださいました。私を陽の当たる舞台に連れ出してくれた彼に御礼を申し上げます。

2019年7月 みーにん

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