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文化人類学カフェ2014年10月

<アートとアーティスト??>


 1972年。シカゴの長い冬。天気の話しかしない80歳の無口で身寄りのない男性が病気で救貧院に運び込まれました。身の回りの品を整理するため、大家は初めて彼の部屋に踏み入れます。そこには誰に見せるともなく60年間描き続けた1万5千ページを超える長編小説と300枚に渡る巨大な挿絵がありました。

 男性は「すべてを焼却してくれ」と言い残しましたが、たまたま大家がアート業界の人間だったために、没後、彼の小説や絵は人の心を揺さぶる「アート作品」として高い評価を得て、ヘンリー・ダーガーという彼の名はその数奇な人生込みで一躍有名になります。

 ヘンリー・ダーガーのことを考える度に、僕はこれまで世に知られることなく消えていった膨大な「作品」のことを想います。取り憑かれたようにスタイル(生きざま)を貫く、貫かざるを得なかった名もなきアーティストたち。彼らはすぐそばにいるのかもしれません。そう思うと、僕はやはり他人のことをもっともっと知りたいと思うのです。

※特別養護老人ホーム グレイスヴィルまいづる発行の『ぐれいす村便り(2014年10月号)』掲載分を加筆修正しています。

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