文化人類学カフェ便り2014年2月

「教えること」

 父親が熱心なテニス愛好家だったので、中学に入ると僕はセミプロのレッスンに連れていかれました。テニスは好きだったけど、レッスンはただつらいだけ。上達している気もしません。中学生のぼくにわかったことはコーチがうまいこと、すなわち彼が「テニス道の先輩」であるということだけでした。


 でも、高校に入ったとき、そのときのレッスンが腑に落ちる瞬間が訪れます。「あの人が言っていたことはこれだったんだ!!」とバチッときたわけです。もっともコーチが実際に教えたかったことと同じかどうか、今となってはわかりません。ただ、その瞬間に、彼はぼくにとって「テニス道の先輩」から「師」に変わったのでした。


 「教え」とは師から弟子へのサービスではありません。時間が経って芽吹くときもあれば、芽吹かない時もあります。重要なことは、師が「道の先」、つまり「自分が知らないことを知っている」と愛をもって弟子に思いこませることです。「背中を見せる」とはそういうことです。それだけで「教え」は発動するのです。


 次回2月14日バレンタインデーのテーマは「愛のレッスン」です。

※特別養護老人ホーム グレイスヴィルまいづる発行の『ぐれいす村便り(2014年2月号)』掲載分を加筆修正しています。

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