南先生!!

 海外にいるときに、日本語に餓えて、日本人の吹き溜まりにおいてある大沢在昌や東野圭吾を読み漁ったことがある(とてもおもしろかった)。

 そんなこともあってこれまで、目に入っても、手には取らなかったハウツー本にも目を通すようになった。

 それで今回、三笠書房の知的生きかた文庫・「実用・英語に必ず強くなる本」シリーズから出ている南和子著『女性の英会話:日常会話からテーブルマナーまで』(2001年、三笠書房)を読んでみた次第です。

 本書の目的は・・・と、「はじめに」に目を通すと、とっさに出てこない英語の日常会話、なかでも女性らしい優雅な表現を学ぶのが目的らしい。

 1978年にかかれた本を元ネタにしているだけに、主な購入者は、海外赴任した旦那に従って海外生活を余儀なくされた貞淑な主婦だったのではないか、と想像されます。なので、女性がビジネスシーンで使える英会話ではなくて、井戸端会議で使える相槌だとか、喜びを伝える表現だとか、パーティーで使える感謝表現とか、そのあたりをちょっとした経験を交えながら説明している。

 でも、この本、その目的を超え、読後に著者の南先生の印象だけが濃く残る。

 たとえば、第二章「ひとつ覚えで外国人の友達ができる」の小節「外国人に親切を押し売りしよう」(タイトルが素敵)に出てくるこんなエピソード。

 ある日、ガーナ大使夫人が新聞の人物紹介に出ているのを読んだ南先生。夫人が「日本の人ともっと付き合いたい」とインタビューに応えているのをチェックするやいなや、電話帳(!?)でガーナ大使館を調べ、アポなし電話をかける行動力を発揮する。

 新聞読んだだけじゃ止まらないのが、南先生風なのだ。

 大使館職員から大使公邸の電話番号をゲットした先生は、直接公邸に電話して大使夫人と話したいと要求。夫人が電話口に出ると、先生は「覚悟はしていたものの、そこでドキリとしました。なんと自己紹介したらよいか・・・・・・」とドキマギ。

 でも、そこは南先生。結局、自宅でのホームパーティーに招待して、大使夫人と仲良くなってしまうのだった。

 とにかくすごい行動力だ。新聞読んだだけで、パーティに参加してもらおうとアポなしで電話するとは。

 大使公邸の電話番号をどこだれともわからんおばさんに教えるガーナ大使館職員も見事なもんだが、南先生の勇気がすごい。感心することしきりだ。

 南先生の経歴もおもしろい。英会話のハウツー本を出すからには、海外経験が豊富なのかと思いきや、「夫君の転勤によりカナダで(三年間)過ごし、その間、パーティ大学で学ぶ」とある。パーティ大学ってなんなんだ!!経歴に書くほどなのか?しかも、海外生活はたった三年間とは・・・。

 帰国後は、カナダ生活を生かし、家庭で開くパーティーを推進する、International Friendship Circleという日本人の女性グループを主宰している。21世紀も10年近く過ぎようとする現在、ホームパーティをするという発想自体は割と常識化しているわけだが、おそらく、その影には南先生のホームパーティー普及活動の成果が、多少はあるに違いない・・・のかな。

 結局、例文そっちのけで、ハウツー本の行間からにじみでる南先生を探す作業に没頭してしまったのだった。おかげでポトフも上手に煮えました。

 ありがとう、南先生。すっかりファンになりました。

***
南和子 2001『女性の英会話―日常会話・メールの書き方・海外旅行からテーブルマナーまで』(三笠書房)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?