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文化人類学カフェ2014年9月

<地名の背景>


 1970年代に部落地名総監事件というのがあったそうです。被差別部落の「地名」が記された一覧が闇で売買されていたというこの事件。会社の人事部がこれを買い、入社希望者の出身地が記載されていた場合入社を拒否する。つまり「地名」が人を判断する基準とされたわけです。

 「地名」とは、ある範囲の土地を便宜的に人が名付けたことからはじまるのでしょう。特定の何かを他者に伝えようとするとき、人はそれを「その他」と区別するために命名せざるを得ません。そしてそれが人口に膾炙されたとき「地名」として定着すると。しかし、「名づけ」とは呪縛でもあります。

 日本では出生地名が本籍地という形で戸籍に残ります。どれだけ変更しても記録は残り、その「地名」はその人に最後まで付きまといます。これは日本独特のものだそうです。たとえばアメリカには出生証明書がありますが、出生地名はさほど重要でありません。

 ことほどさようにぼくらは「地名」にこだわりをもたざるを得ない。もう少し「地名」が名づけられた背景に目を向けてみるべきなのかもしれません。

※特別養護老人ホーム グレイスヴィルまいづる発行の『ぐれいす村便り(2014年9月号)』掲載分を加筆修正しています。

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