安マイクの話。

 宅録をしていると、ハイ上がりの安マイク※1の方が中価格のマイク※2より良いじゃんと思うシーンが割とあって、極論質感に影響出やすい部分をクソみたいなEQ他(技術然り機材の質然り)で持ち上げる方がよっぽど悪影響なのではないか、という思いがある。

 ただ安マイクと言っても、これは流石に使えないでしょと思うモノ(スカイプ用のマイクや家電量販店で売ってるカラオケマイク)も多いので別にその辺の安マイクで良いとは言ってないが、中価格以上になると部屋の調音、インターフェース(プリアンプ)、EQなどを使い自分で音を作る事が求められるのに対し、低価格はクソ環境でもそれなりに聞こえるように元々それなりの音にした方が好まれる。ただ、その分合う合わないがハッキリする。
 厳密に「合う」を突き詰めていく場合に安マイクの音作りが邪魔になるというのは尤もな話だが、突き詰めたくても突き詰められない環境の人に関しては「ハイ上がり且つ絶妙なコンプ感がある」でお馴染みのRODEのNT1BehringerのB-1みたいな物の方がむしろ使いやすいというのが個人的に思う所である。
 これらは安マイクの中でもそれなりに評価があるが、機材への慈愛が深すぎるオタクエンジニアを除く常識的な人物が良いと言っているのを見聞きした事はない。

 しかし高価格帯のマイクはどれもプレーンな音を出しているのか?という疑問に関しては、全くそういう訳ではなくそれぞれカラーがある。例えばB●UEやA●Gの某有名モデルに関しては、「お前その音で?(In my opinion)」と思う物があったりする。個性的な魅力があるのは否定しないが、好きではない。
 エンジニアにとって絶対的な質は大前提であり、その他個性の部分を指して好きだの嫌いだの言ってる訳だ。もちろん、スタジオとなれば他の様々な環境が整っているため、マイク自体の要素を判断出来るというのもある。しかし一般的な環境ではその個性とやらを聞き取れるほどハッキリ録れる訳ではないので、むしろ派手な音の方が都合がいい訳だ。

 エンジニアではない歌い手、アレンジャー、音作り初心者の宅録マンにとっては使いやすいが正義。あまり扱いの難しくないマイクを選んだ方がストレスは無くて済むというのは間違いではない。必須プラグインはDeEsser。これさえあれば大体安マイクは攻略済みと言っても過言ではない。
 部屋の音、声質などで左右される「マイク」に関しては必ずしもマイクだけ高くてもしょうがないといった場面が多々あるので、例えば録音しながら「この音が気になるんだよな~」と思っている場合は、実はマイク自体の問題じゃない事もある。

 そんな時に(日本以外で)よく選ばれるマイクがある。SHUREのSM7Bだ。プロのボーカル録り現場でも実績がある。宅録にも耐えうるノイズに強い指向性を持っていて、一聴して「SM7Bだな」と判断出来るほど特徴的でもない。コンデンサーマイクほど繊細でなく、ライブ用のダイナミックマイクほど粗野でもない録音用ダイナミックマイク。お手軽に良い音で録れるので、テキトーなアメリカ人が大好きなマイクだ。宅録ボーカルの悩みはこれで大体解決しそうな気がする。

 というのも、一般的なコンデンサーマイクは部屋の音を信じられないほどよく拾う。なんといっても歌が上手かろうと、機材に2,000,000円投資しようと、部屋がコンクリート打ちっぱなしとかすごくきれいにかたづけられた部屋で高らかに反響していた場合、その状態での宅録は絶対に無理だからだ。音が良く録れてる奴の部屋はゴミ屋敷かちゃんと吸音を意識して頑張ったかの2択である。部屋を頑張った後はオーディオインターフェース(マイクプリ、ヘッドホンアウト付き)に投資すると良い。聞く音も良くなる。そして私の嫌いなSM57を繋いでも良い感じになる。

 部屋がダメだとiZotope RX等でリバーブ成分を除去したとしても、残響が減るだけで反響を受けた音質自体は変わらないので、あとで何とかなる訳がない。一回洗濯したみたいな水浸しの音になるだけなので、音楽的には全くもってマジックツールではないのだ。

 話がズレるので今回は置いておく。録音したいならぬいぐるみに投資し、出来るだけ散らかして人をダメにするソファーを大量に置いたファンシーな部屋にするといいだろう(冗談です)

※1
大体5,000~50,000円。
5000~20,000円は、廉価帯を中心に製造しているメーカーが狙っている価格帯。
30,000~50,000円では、ミドルレンジで自信があるマイクを1~2本出す小規模ファクトリーが多め。
※2
大体50,000円~120,000円。
この価格帯は、普段ハイエンドクラスのマイクが中心のメーカーがローエンドユーザーへ向けて色々機能や質を削った物を開発した際に付けられる価格である事が多い。120,000円という中途半端な価格なのはつまり1,000ドル前後という事だ。

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