【短編小説】自由な家

2060年以降の日本では、人々は結婚や家庭を築いたとしても、各々ひとりの家を持っていた。とある夫婦はそれぞれの家を持ち、所有者の趣味や価値観で形作られていた。マコトの家では、彼が描いた絵画が空を飾り、リカの家では彼女のお気に入りの曲が絶えず流れていた。

そんな価値観が普遍的になった時代、人々は他の家を訪れることを避け、自分の世界(家)に閉じこもるようになった。通信技術やSNSが発達しているにも関わらず、人々はますます孤独になっていった。

ある日、シュウジという子供が、夏休み中に親戚の家への訪問を決意した。彼の家庭は裕福ではなく、むしろ平均より下だ。それでも世間体もあり彼には狭いながらもひとつの部屋があった。他の子たちの多くはもう家を与えられており、よく画像を見せ合い自慢しあっていた。シュウジはそれが羨ましく、憧れていた。シュウジの部屋は完璧な自由を楽しむために何もない白い空間だった。親戚の家を訪れることで、彼は新たな自由の視点を得ることを望み、見返そうとも思った。

しかし、彼が訪れた家は、意外な光景に満ちていた。その家は、あまりにも自由を追求しすぎて、自分自身を失ってしまったようだった。彼の家は彼自身のイメージで満たされていたが、その中には彼自身の姿はなかった。

シュウジは次々と他の大人たちの家を訪れたが、どこも似たような状況だった。自由と個人が極まった世界では、人々は自分自身を見失い、孤独と虚無に陥っていた。そしてどの空間も恐ろしいとも感じてしまった。

最後に、シュウジは自分の部屋に戻り、最初に置くモノの一つを決めた。彼は自分の狭い部屋に手作りの机を置き、他の人を招待することにした。


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