帝銀事件 拘置所での平沢貞通

年末に放送していた「NHKスペシャル 未解決事件 松本清張と帝銀事件第1部ドラマ 事件と清張の闘い」が面白かった。

冤罪とされる平沢貞通についてwikipediaやネットの検索ではあまり触れられていませんが、拘置所での平沢の様子を客観的な視点から書いている本があります。(作者は医者として拘置所に勤務)

この本を平沢ほぼ「シロ」の視点から読むと、本当にシロなのではと思えてきます。記述があるのは第5章 冤罪と主張する人たち、

人当たりがやわらかで、長年の房内生活の苦しみを表にあらわすこともなく、自分の家で隠居が客に話しているという風情である。何か人生を達観しているという人物の落ち着きをそなえている。

加賀乙彦(1980).死刑囚の記録 151

「私が真犯人でないのは確かですよ、しかし、私は死を怖れません。悟りきった境地で毎日をすごしています」と人が口にすると嫌味に聞こえるようなことを照れる様子もなく言った

加賀乙彦(1980).死刑囚の記録 147

この本は死刑囚の記録という題名で作者が出会った死刑囚の精神状態や様子を記録しています。その死刑囚と比較しても平沢の様子は対照的だったと記述が続きます。(竹内景助は三鷹事件の犯人とされている人物)

そして、潔白の平沢画伯として、誇らかに冤罪を主張し続けるのであった。同じ冤罪の主張でも、竹内景助が、党や労組との関係においてたえず動揺し、ときには絶望しているのにくらべると、平沢貞通の超然とした落ち着きぶりと楽天的ともいえる自信に充ちた態度とは際立っていた。冤罪死刑囚とのありようとして二人は対照的であった。

加賀乙彦(1980).死刑囚の記録 156

冤罪の疑いのある死刑囚の共通点として、強い無罪への確信と安心がみられたことがある、事件と裁判に対する態度が安定した落ち着きをともなっている、と記述があります。
実際に、冤罪が認められ無罪になった死刑囚の記述もありますが、読めば読むほど平沢は「シロ」だと思えてきます。

ここからは個人的な感想になりますが、10人以上の人間を自分の目の前で殺害してこのような精神状態に入ることができるとはちょっと思えません。
フラッシュバックで精神に変調をきたしてもおかしくないですし、実際そのような死刑囚の記述もありました。

事件の新たな証拠ではないですが、自分で調べて本を読んで確信を深めるという作業は楽しいものでした。


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