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日本で働くために外国弁護士資格「から」取得する意味

日本人が、日本で仕事をするために外国(主に米国を念頭におきます。)の弁護士資格「から」取得する場合のハードル等について解説します。
なお私は、弁護士会で外国法事務弁護士の資格承認の審査(令和2年度委員長)をやっていますが,日常的に国際案件をやる弁護士ではありません。ですから,専門家からすると大雑把な解説になることはご容赦下さい。

まとめ

① 外国で弁護士資格を取得して、それを日本で使えるようになるには6年間かかる。しかも、その外国法しか扱えない。
② 日本の弁護士資格は最短3年8か月で取得でき、そのまま外国法の案件も扱える。
③ 日本の弁護士資格があれば、米国の弁護士資格は、+1年で取得できる。
④ 最初に日本の弁護士資格から取得すれば,①をする時間で,日本と米国の弁護士資格の両方取得することも可能である。
⑤ 日本で外国法を扱うために、日本の弁護士資格ではなく、最初からその外国の弁護士資格を取得することは、業務も限定されるし、非常に不効率である。

1.米国の弁護士資格の取得の基本

米国は州毎に弁護士資格が存在し、細かいところに違いがあるようですが(このあたりは専門ではないので詳しくありません…。)、基本的に3年間ロースクールに通い、そして司法試験に合格する必要があります。
当然のことですが、米国で米国の弁護士資格を取得すれば、米国内で弁護士業務ができます(州毎の資格ですので、その制限はあります。)。

2.日本で業務をするためのハードル

日本の法制度上、外国の弁護士資格は、そのままでは日本では一切使えません。例えば米国のニューヨーク州の弁護士資格は、日本においては、日本法どころか米国法の案件の取扱い、法律相談も含めて一切行うことができません法律上は無資格者と全く同じ扱いです。

日本国内で外国の弁護士資格を使うためには外国法事務弁護士という資格を日本で取得する必要があります。これには、原則として、原資格国(資格を手に入れた国)で3年間の実務経験を積むことが要求されています。

そうすると、米国の例ですと、司法試験の受験期間を除くとしても、ロースクール3年間+実務経験3年間ということで、合計6年間を米国で過ごす必要があります。

なお、この点は代替手段が用意されていまして、この3年間の実務経験のうち2年については、日本国内での経験で代替することができます。

ですが、その最長2年間はあくまで非弁護士としての実務経験ですので、結局6年という年月を費やさないと、日本で弁護士業務(しかもごく一部)ができないことにはかわりはありません。)。

結論として、例えばニューヨーク州で6年を費やすか、あるいはニューヨーク州で4年間、日本で2年間、いずれにせよ6年間が必要ということです。そして、6年後には、ニューヨーク州の法律についてだけ、日本で弁護士業務をする事ができるようになる、ということになります。

3.短い期間で米国弁護士資格を取得する方法

米国ロースクール3年間については、これを短縮する方法があります。LLMというのですが、米国外で法律の学位や資格をもっていると、9ヶ月間の短縮コースで修了をすることができます。

ですが、そうしても、上記の外国法事務弁護士資格取得のための3年間の実務経験はそのまま要求されます。資格取得1年(9か月+受験期間として大雑把な計算です。)+実務経験3年で概ね4年を要することになります。なお、実務経験3年中、2年間を国内で代替しても2年は米国で過ごし、日本で(ごく一部で)使える資格取得には4年もかかることにはかわりありません。

4.日本の弁護士が米国弁護士資格を取得する場合

日本弁護士が米国の弁護士資格を取得する場合は、大きく事情が異なります。まず、上記の短縮コースが使えますので、米国の資格取得まででいえば、これは9か月で済みます。

また、弁護士法は、法律事務全般について弁護士の業務としており、これには、国外法も含まれます。ですから、日本国内であれば、日本の弁護士資格で世界中の法律について弁護士業務が行えます。法律上、わざわざ外国法事務弁護士になる必要がありません。なので、3年間の実務経験も不要です。9ヶ月間+受験期間の概ね1年間で、米国の弁護士資格を取得し、帰国して日本で「弁護士・ニューヨーク州弁護士」を名乗って仕事をする事ができます

5.日本で外国法の弁護士業務をするために外国の弁護士資格から取得するのは効率が悪い

法的には、日本の弁護士資格さえあれば、すくなくとも日本で仕事する以上は、米国法を含む外国法について弁護士業務をすることには支障ありません

そして、日本では最短2年で日本の法科大学院を修了でき、司法試験の受験期間、司法修習(司法試験合格後の実地研修)の1年をいれても3年8か月程度で弁護士になれます。そうすると、

A.米国で弁護士になる→6年かかる。最短でも4年かかる。長期の海外生活が必要になる。しかも,日本国内でできる業務は極めて限定される。
B.日本で弁護士になる→3年8か月かかる。日本国内で日本法でも外国法でも扱える。米国の弁護士資格を手に入れたいなら,+1年で済む。

ということになります。しかも、日本国内で米国法が必要になる案件というのは、日本法も関係することも多いでしょう。とすると、Aのパターンで取り扱える業務というのは、「米国法の案件だけれども、日本法は一切関係せず、それにもかかわらず日本国内で依頼したい」という、なかなか想定の難しい案件に限られてしまいます。

すくなくとも日本国内で仕事をするつもりであれば、外国の、特に米国の弁護士資格「から」取得するのは、かなり不効率であるといえます。資格取得という前提に時間を費やすより、その時間で実務経験を積むのが合理的でしょう。それに、業務範囲の狭さも問題です。

6.結論

日本で仕事をするつもりであれば、たとえ外国法事件しか扱わないつもりでも日本弁護士資格を取得するのが合理的である、ということになります。

というより、そもそも日本の弁護士・外国法事務弁護士制度上、日本人が日本で仕事をするために、外国弁護士資格「だけ」取得するということは、あまり想定していないように思われます(ですから、以上のように異常に非効率になるわけです。)。

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